(Part62)荒ぶる魂、ここに激突!
状況説明。…最悪。
「戦いの再開だネ。当然だけど、俺にも、神になるための権利を回収する理由くらいはあるものでネ。」
「…」
体は動かない。それなら…聞いてやるしかないではないか。と、心を構える。
「ク…クク。お前たちは俺のことを化物と言ったが…俺なんてまだまだただの一般人ということだネ。」
「どういうことだ…!」
「つまり、本当の化物というのは、ずっと近くに隣人のようにいる。…兎暦にも、桃源共和国にもネ。」
話が見えてこない。
「…それと、お前が神を目指すのに何の関係が──」
「別に神なんて目指してないさ。ただ、神になるための権利を回収するんだよ。」
ここから先は、まさしく世界そのものに触れたようだった。大地に手をつけたときのような感覚…何か恐ろしくでかいものが鼓動しているようだった。
「…俺は、桃源共和国にいる方の化物の手下というワケだ。ワケあって、そいつのお手伝いをしてやってるのよネ。」
アークが体を震わせている。
「大体読めました…。つまり、その化物はあなたみたいな部下を世界中に送っては、神になるための権利を回収して回っているのですね。そして、神の決まる日…2004年7月27日の…」
「そうだネ…!その日の陽の昇る直前…彼は部下の神候補共から一斉に権利を【譲】り受ける…つまり神になる!」
「神になってどうする気ですか…!」
「この腐りきった世界を少し…綺麗にするだけだネェ!!」
そう言って、孔は笑い声を上げた。
世界を綺麗にするといっていやがるが、どういうことなのかはあまりにも想像し易いものだ。世界中をモップがけで綺麗にしようとしているのか?この星を自然あふれる緑の星にしようとしているのか?そんな、わけがない!!どう考えても、こいつは…こいつらは、人類に大きな損傷を与えようとしているのだ!!
「フザ…けんな!」
「どうしたネ。お嬢ちゃん…」
軽く返事すると共に、孔は手を秋野に向けた。いつでも土魔法で土葬してやれるという、脅しだ。
「どうして…っ!神になろうとしてるやつは、こうも…どいつもこいつも…ヤバいやつばっかりなんだ!!」
「フッ。知らないよ。ただ、あの化物のそばにいれば、ちょっとは他の人類よりは長生きできそうだった…それだけさ……ッ」
何かが癪に触れてしまったらしい。それとも単純に、話疲れたので早く帰りたくなったのか。土の魔法使いは、手を出した!
「ぐゥッ…!」
土の弾丸だった。明らかに心臓を狙っていた。
なんとか剣で弾いたが、命を貫かれそうになるという恐怖には、永遠に慣れそうにもないことは理解できる。しかし…!
「やるしかない!!」
「秋野…」
「おい…」
もう声は落ち着いていた。落ち着きの中に落ちた着火剤だけが、メラメラと燃えていた。
ズ。ズ…。体は鉛のように重かったが、同時に鋼のように硬くなれていた。
「もう、お前は化物でもなんでもないよ。どうやら倒すべき化物は、お前のその向こうにいるらしい。不幸なことに世界を救う立場らしい私は、結局そっちの化物を倒さなきゃダメなんだ。…だったらお前なんか…ここで超えてやる!!」
タンッ!!駆け出すために踏んだその右足と大地が鳴らした力強い音は、まさしく福音のようだったことだろう!彼女の後ろにいた、3人の勇気ある者にとっては!
「秋野に続けェーッ!!」
金田は、己に言い聞かせるように言った。
どれくらい剣を振ったのか問われては、数えるほどの日数で事足りる程度の時間だったとしか。つい最近出会った、桃源共和国の剣豪・クシポスなんかの足元にもきっと及ばない。
ところで孔は、クシポスを知っていた。そも、桃源共和国の者ならだれでも知っているような強者だ。世界最高の剣技を知っている孔だったが…
「これは…ッ!!ソルド──ッ!」
秋野の剣に恐怖していた。素人の剣に、だ。
バキィン!!土魔法の盾は粉々に砕ける。砕けた中から、秋野の剣が飛んでくる。勢いよく…!
「おかしい──クシポスならまだしも、熟練の剣士ですらない──こんなガキの剣に俺が──」
土の盾が砕けたことによっぽど動揺している。それもそうだ、実際、あの土魔法は完璧といえるほどの完成度だった。少女の剣で砕けるわけがなかった。…それが砕かれたのだから!
ブン!!鈍い音は、空気を切り裂くというより、空気を押し潰して進むような剣筋からなるものだった。
これをかろうじて避けるが、このままでは勢いに呑まれそうだ。それを恐れた孔は、怒鳴り声を上げる。
「離れろォッ!」
手に、土魔法で作った剣を纏って、薙ぐ!これも相当な芸当なのだが…避けられてしまえばそれまでだ。
「私の魔法は攻撃には向いてない…。半減魔法だからな。でも…半減して半減して半減して…こうなった私は、お前が想像するよりずっと軽い!!」
土の盾だってそうだった。あの砕けるはずのない無敵の盾が壊れた理由はやはり、半減魔法だった。あの一瞬、盾は本来の十六分の一の堅さだったのだから!
「クソッ!」
このとき、もう土の魔法使いは兎暦の言葉は使っていなかった。母国語が出てしまうものだ…本当に焦っているときは!
「グリーツッ!!」
攻撃は止まない!機堂の浮遊魔法で空高く飛んだ金田は、さながら氷柱のように落ちてくる!
「ソルド!!」
今日、初めてではない、氷と土の激突。…当然、半減されていない強度の盾は、金田の氷の剣では貫けるはずもない。
バキィッ!砕ける音は、やはり氷のものだった。
これで終わり…ではない!氷が砕けたと思ったそのときには、秋野は剣を振っていた。
「─!?ッ離れろ!テラ・スオスエロォッ!!」
その瞬間、竜巻と言えるほどの砂嵐が渦巻く!!
「きゃあっ!」「ぐうっ!」
無限の礫が2人を弾く。
「は…は…。おかしいネ。お前ら、どうしてこんなに…」
伝わるはずもない、桃源共和国語。
戦って分かることは結局一つだった。
「やっぱり、あいつは強すぎる。俺たちは4人で戦ってるのに、引けを取らない。それに、個人で見たら、魔力でも力でも技術でも、勝てる者はこっちにはいない」
金田が言った。
「せやな…でも」
「うん、でも」
「そうですね…でも」
「でも…」
「「「勝つしかない!」」」
勝つしかないんだ…!
秋野…だけではない。全員の意志だった。
「何でだ…どうしてまだ歯向かえる?…どうして、俺は恐れているのかネ?魔力だって力だって技術だって、俺が圧倒的なのにネ。」
可笑しかった。
アークは翼を広げて飛び上がった!ブシィ…血の噴き出す音が、アーク自身にのみ聴こえる。
「ぐ…」
しかし、それに構わず、アークは攻撃を開始する!急降下によるキックだ!…あの盾を破るには、こうでもしなければならない。
「アークさんあんなこともできるんだ…っと、こんな場合じゃないな!『半』でサポート…!」
半減魔法でサポート…と思ったが、あの土の魔法使いは、詠唱する気配がない。そのため、詠唱速度半減も、魔法の効果半減もできない。
「あ、あれ…?」
「あのキックをノーガードでやり過ごす気か…?」
ゴオッ!アークのしなやかに張られた脚が、今、届こうとした──そのとき!!
ボシュウッ!!
砂が舞った!!
「げほッ、えほッ!かっ、はァッ!…!?」
恐ろしい量の砂。
「んッ、げほッ…。し、信じられへん」
機堂だけが状況を分かってしまった。
「アークさんのキックが直撃しそうになった瞬間に…無詠唱で魔法を発動したんや…!クッションになるような、砂の魔法を!」
恐ろしいのはそれだった。
「上級魔法レベルのデカさしてたのを…無詠唱で!!」
黄色く染まる、小さな世界。安全メガネとマスクをしていてよかった…と思う隙もない。
やはり、こいつは、秋野たちが出会ってきた人間の中で、文句なく一番の化物のように思えた。
「フ…そう思えばッ…化物と呼ばれたのは初めて…ではないネッ…!」
四方面から続く猛攻を捌きながら、孔土文は言ってみせた。
だろうよ…!実際、予言書による心の準備をしておかなかったら、実際に戦う前に心臓が張り裂けて死んでただろうね!
秋野は心底そう思う。バクバクと今にも爆破しそうな心の、底から。
「でもネ!本当の化物はこんなもんじゃネェ!!あの恐ろしい怪物…魔王に喰われるくらいなら何だって幸せに値するんだよネ…!!」
ブバァッ!砂の嵐が襲いかかる!
「ぐわぁーっ!」
「柚!クソッ!」
動こうとする機堂もまた牽制される。地面から土を固めたズ太い針が…今にも伸びそうだ。きっとトリガーは体をこれ以上動かすことであるのは、機堂なら理解できる。
ズンっ…!
「あぅっ!」
かくっ!崩れ落ちたのは膝だ。
「やっとだネ。…魔力切れ!!」
秋野が、今にも全身を地べたにくっつけそうに全身から力が抜けていく。剣が異様に重い。
「この土壇場で…ッ!」
アークは思わず目を瞑るしかなかった。
魔力切れ。もはや、秋野に、己の剣の質量を半分にするほどの魔法を使うことすらは許されなかった。と同時に、魔法使いにとっての魔力は、体力とさほど変わらない。
「秋野さ、ん…『箱』で…」
貧弱な腕を秋野へ向けて伸ばし、か弱い声で言いかけ、それをやめた。
腕をだらんと落とし、
「『箱』を使う魔力は私にも、もう…」
と、自分にしか聞こえない程度の声で小さく言った。『箱』は、燃費が悪かった。
「決着だ…」
ズモッ…という擬音が聴こえた。幻聴だ。超音波のような聴こえるはずのない音だが、秋野、金田、機堂、アークには聴こえた。魔力が渦巻く音だと思った。
あり得ない程の魔力が、土の魔法使いに集中する。
戦意は失っていないが、それ以外はほとんど失っている今、かの術を防ぐことは不可能と断言できる。
「最後の魔力、全部使って仕留めにくるつもりか…」
機堂がポソリと言ってしまった。
詠唱が始まる。上級土魔法、
「クー・コーロハラルス・エレツ────」
そこで詠唱は完了せず、何か付くことを秋野と金田は知っていた。中級土魔法の呪文に「矛」と付け加えた恐ろしい魔法をさっきいまで忘れるわけがない。
そらきた、
「──戟──」
この瞬間、2人の男はほぼ同じ刻に叫ぶ!
「機堂ッ!!」「グライゲン!!」
魔力の唯一残っている味方陣営、機堂 誠一。彼に賭ける!
彼の唱えた浮遊魔法は、4人の身体を空高くまで放り投げた。
「きッと…!」
きっと、薙ぐつもりだと考えたのだ。土魔法を剣のように変形させ、周囲を薙ぎ払って自分たち4人を一度に始末するつもり…であると考えた。始末されないためには、上に逃げる。最善だ。
が、
「馬鹿なッ!」
金田は気づく。孔の魔法が発動していないことに。
どしゃあっ!4人はいたずらに空から落ちてしまった。今さら、落下したくらいでダメージは感じなかったが、ここからがマズイとは感じ取れる。このままでは、ようやっと発動するらしい土魔法に殺されてしまう。
「くそォッ!!」
機堂は嘆く。もう一度浮遊魔法で空へ逃げたかったが、もはやできまい。
なぜ、孔の魔法が発動しなかったのかというと、詠唱を終えていないに違いない。だが、それなら何をしていたかというと、
「──方天戟──」
魔法をグレードアップしているらしかった…!
ブツッ!化物のような土魔法使いから鼻血が噴き出る。相手も魔力は残り少なくなっているらしく、無茶をしていることが目に見える。
しかし、どうしてここまでするのか。…孔もまた別の何かを感じていた。「ここで、この4人を仕留めなければわなるまいね」と…!執念に拍車が掛かる!
周りに落ちている秋野たち相手に、さらに魔法を昇華させる!
「────方天画戟!!!!」
完成。クー・コーロハラルス・エレツ──方天画戟。
「ヒ…」
慄いてしまう。
私、し、しし、死ぬ、んだ…!ここでッ!!
見てしまった瞬間、涙が出て、周囲を舞う砂に涙は乾かされた。
地球の間抜けた神話で描写されていそうな、巨大な巨大な斧槍だ。これを人間に突き付けたら─乾いた笑い声を上げてしまう─きっと、どうなってしまうのだろうか?
孔は、魔法の効果が消えて無くなってしまう前に、めいっぱい、薙ぎ払────




