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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
弐章 ARMAGEDDON QUEST
54/66

(Part53)Pollyanna

-[その男]は、飄々(ひょうひょう)としていると言えるのか。そうは思えない。と、秋野は思っていた。


「うーん…。しかし、()(とがり)隼人(はやと)さん?は、本当にただ好奇心のみでこの館を立ち寄ってみようと思ったのですか?」

アークが念を押すように訳を尋ねる。

「や、もともとは本当に、その好奇心だけで来ちゃったんですけどね…。でも、お嬢ちゃんを見てると、少し用事が増えました」


「と、いうことで…少しいいですかな?」

「増えた用事ってのは…」

ステイトが、秋野と金田を少し見てから、目を元の方向を再度向ける。

「神になるための権利の略奪か?」

少し笑いながら、ステイトはそう言ってやった。

 そんな気迫のある若白髪に対し、彼はこうやって返す。

「まさか。それに…」

 少なくとも、あんたと、お隣の規律使いの美人さんには勝てない。本気でやり合ったら、10秒…俺は生きていられるかどうか。

()(とがり)はそれを言葉には出さなかった。それを言葉に出して、意味深な感じを(かも)し出したところで意味もない。それに、そもそも本当に敵意はないのだ。明確な目的だけが彼を旅立たせた。



「それで、増えちゃった用事ですけどね。…お嬢ちゃん覚えてない?」

「え?」

急に話を振られても困る。

「…」

「うっ、」

みんなが秋野を見た。早尖と面識があるということが、自分の口によって、周囲の周知の事実と成ってしまったためによるものだ。

「え〜…」

 みんなが見守る中、やっと思いつく。(早尖が言ってしまえばよかったのでは?との考えを掻き消して)

「あっ!お、思い出したっ!」

「おっ!」

「クシポス師匠!!そう、早尖はクシポスっていう、師匠を探してるんだよ!」

みんなに伝える。

「そう、そう!!嬉しいなぁ」

それから、彼はこう続けた。

「そ、それで…!?」

 彼の口角(こうかく)がそこから下がった理由は、彼女からしたら「それで」の続きはないということだ。

「え!?そ…それで?」

そう言ったきり、秋野は考えるフリをして黙った。



「…俺がクシポス師匠を探してるっていうことを覚えてくれているお嬢ちゃん。」

「は、はい」

やけに長い修飾語をつけられたお嬢ちゃんは、恐る恐る返事をした。

「あ、いや お嬢ちゃんを怖がらせるつもりはなかった。ゴメン。」

 そこから、密度が空気よりも高い溜息を一つ地面へ落とす。こう続けた。

「でも、お嬢ちゃんでもクシポス師匠は見つけられなかったか…。なんとな〜く、お嬢ちゃんは変人を寄せつける(ゆう)()(とう)のようなオーラがあったから。だから師匠もお嬢ちゃんと出会っちゃうんじゃと思ってた…勝手に。」

 クシポス師匠。弟子…なのだろうか、恐らく弟子である早尖に、変人扱いされているクシポスという人物。

 クシポス…

「ちょちょちょっ!!」

「柚どうかした?」

 突然叫ぶ金田を、みんなが見つめた。

「秋野お前…クシポスって、お前〜…いるだろ!!」

それを聞いて、早尖は形相を変えた。変わるのも仕方ないだろう。その形相は、本当に何とも言えなかった。

「少年!!!!どっ、どこにッ!!」

「うわぁあああっ!落ち着いて、落ち着いてください!!」

感化され、周囲まで慌て出す。

「お前もや…」



「コホン…。まず、秋野…」

「うん…」

「ニュース、ちゃんと見とこうよ……」

「はい……」

 仰天だ。

 12月23日、数週間前、秋野たちの住む天水都(てんのみなと)府に数年ぶりに雪が積もった日。館での戦闘訓練を終えて帰る途中に、秋野たちが力使いの神候補と死闘を繰り広げたあの日。

秋野、金田、機堂は予言書を見た。その日の予言は、『秋野たちが神候補である力使いと規律使いに殺される』という予言を唯一除いて、全てが当たっていた。──当たりのうちの一つ


『桃源共和国にて、8年に一度に開かれる『大刀剣武神大会』の決勝が行われ、クシポス選手が優勝する。』


これは、世界的な話だった。伝統ある大会の勝者。

地球でいう日本と座標を同じとする()(いづ)る国…()(こよみ)の、その隣の国の話。

地球でいう中国と座標を同じとする()(ぼっ)する国…(とう)(げん)(きょう)()(こく)の話だ。

「めちゃくちゃニュースになってたじゃん…」

「ごーめんごめん!!そもそも私あんまりテレビ見てないしさあ?…というか、まさか早尖の探してる人がそんな有名人だなんて、思うわけもなかったっていうか…」

「…」

「…スマン」

「フッ。むしろお嬢ちゃんにこんな人探しに付き合わせてしまって申し訳なかったよ」

早尖が会話に入る。

「でも俺も、まさか師匠があんなに世界的有名人になるなんてなぁ〜!」

 彼の剣の師匠が、現在世界で最も強い剣豪ということになる。


 ちなみに、今 早尖を含めた6人は歩いているわけだが、どこへ向かっているのかというと、秋野たちにステイトが貸した部屋だ。部屋が選ばれた理由は、「テレビがあるから」の一点。

例の、一面モニターだらけの気味の悪い部屋は、

「どんな変わったやつでも、まずあれを見せるというのは…」

と思う。ステイトもアークも、2人ともが思った。

 ガチャ。

部屋へ着いたので、木製の落ち着いた色合いをした扉を開けて中へ入る。6人には狭いが、狭すぎるということもない。

むしろ、秋野や金田はこれから館の庭へ戦闘練習をしにいくところだったため 部屋の暖房は消していて、部屋はすっかり冷えていた。だから、6人ならぎゅうぎゅうと丁度いい狭さであったかいだろう。

「少し狭いけど我慢してくれよ」

ステイトはそう言った後、一番大きくスペースを使ってドカッと床に座る。

 中学生の戦士達もなるべく空間を使わないよう気をつけながら座る。アークは、その規律使いの証である美しい異形・白い翼を(きゅう)(くつ)そうに(たた)んで立っている。

「しかし、クシポスさんに関するニュースがそう都合よくやっていますかね?」

「とりあえずつけてみるぞ?」

ステイトがリモコンの左上に位置する赤いボタンを押す。

 ピッ


「クシポス師匠ッ!!」

ガッ!!

「うわっ!?」

「あ、ごめんごめん。お嬢ちゃん。おどろかせてしまった…」

「だ、大丈夫…」

秋野が少しビクつきながら返事をした。

 しかしその時点で、秋野への謝罪を最後に早尖の意識は全て、全てが映し出されたテレビの画面へと向けられていた。

 アークは、()(とがり) 隼人(はやと)という男を「飄々(ひょうひょう)・ふわふわしている」と評していた。好奇心に任せてこの館を訪れるという、(はなはだ)しく(かたよ)った感性。

 しかしアークは考えを改めた。少なくとも、早尖は楽天家ではないと思った。ただふわふわと生きている男は…

「師匠…ッ!」

こんな目をしない。

 もの凄い集中力だ。その眼は少し恐ろしくもあり、それ以上に真っ直ぐだった。


 秋野が口を開く。

「え、と…そもそもなんでそんなクシポス師匠さん探してるんだっけ…?」

「そりャ確かに気になるな。こんな大物を師匠にもッた、神候補」

機堂も疑いの目を向ける。彼が神経質になるのも仕方ない。

「…言ってしまうしかないよな」

「…」

 それから、早尖は少し顔を赤らめて端的に言った。

「個人的に好意を寄せてるだけさ。師匠は美人なんだよ…」

「「おぉ〜」」

秋野と金田が同時に(うな)る。なんというロマンチック。

「…まぁ!とにかく!ずっと連絡を取ってなかったから、元気そうにしていてよかった。…しかしまさか、元気にしても、いつの間にか世界一の剣豪になってるなんて」

「早尖さんはこれからどうなさるのですか?」

笑っている早尖にアークが尋ねる。

「さぁ。どうしてしまいますか。」

彼はへらへらしていた。秋野が次にこう言うまで。

「なんで会いに行かないの?」

彼はへらへらするのをやめた。秋野はたたみかけるように言った。

「告白しないの?」

「師匠がいる(とう)(げん)(きょう)()(こく)は、だいたいここ…()(こよみ)の25倍の国土。会えるはずもない。…師匠が元気だってことが分かっただけで大儲けものさ、ハハ」

苦笑う。

 金田も、世話焼きというか、お人好しな、迷惑のかからない有難い性格が出ていた。

「よければ話してくださいよ。恋愛相談となったらもう全くムリだけど、人探しなら俺たちみたいな子どもでも協力できます」

「なんで私まで人探しに協力することが確定─」

まだ喋っている途中の秋野は機堂によって遮られる。

「おい柚、そんな簡単になァ─」

まだ秋野に言葉をかぶせたばかりの機堂は早尖によって遮られる。

「うん。そうだな。…そうだな、そりゃいいや!!よし、みんな!俺のくだらない人探し、協力お願いします!」

バッ!!早尖は立ち上がった。

「そうとなっちゃ、協力のおかえしが必要だな─っと、あいにく俺は今なにも持ってない。…そうだ、おかえしはこれでいいかな?」

ポケットに手を突っ込んでゴソゴソと手繰(たぐ)る。

 何かお礼を秋野たちに渡すつもりみたいだが、それではまるで金田と秋野が 協力の見返り目的に協力しようとしたみたいではないか。そう思われてはイヤなので、2人はすぐに否定へ向かった。

「「そんなつもりじゃ──」」

 早尖が(てのひら)をこちらへ向けて突き出す。「ストップ」のジェスチャー。ジェスチャーの意味は、本能のように脳に記憶されていたため、反射的に2人は言葉を止めてしまう。そして、彼は話を続けるのだった。

「おかえしは、神になるための権利でいいかい。」

「「「!!!」」」

 予想外の話だった。

「早尖さんは…神を目指しているわけではないのですか?」

ステイトが、少し、ほんの(わず)かに顔を出して問う。

「神を目指してるやつが、この戦いが始まって半年くらい経つ今日この頃に神になるための権利所持数一つなことなんてありますか?」

「それでは本当に…」

「ええ。それで、どっちがいいかな?お嬢ちゃんか、それともそっちの少年か」

 話が飛躍しすぎると、人はむしろ冷静になるものだ。


「そんなこと急に言われたって…」

「なぁ…?」

秋野と金田が顔を見合わせる。

 そもそも今、2人の神になるための権利はどれくらいのものなのかというと、金田の方が多い。秋野の方が少ない…とはいっても、踏んできた足場は同じくらいだ。ずっと一緒に行動してきた。

 どうだろうかどうしようか と悩んでいるそのとき、彼は急に大声を出す。彼は手を大きくあげ、右手だったが、その手をギュウと握りしめた。その石のような様は、まさに“グー”。

「じゃーんけーん」

この言葉、急に言われたらつい反応してしまう。

 わたわたと、脳も知らぬ内に手が動く2人。秋野と金田、2人は早尖と同じように手を握りしめた。

「ぽん!!」

 早尖VS(バーサス)秋野(アンド)金田。じゃんけんが成立していた。

早尖 “チョキ”

秋野 “グー”

金田 “チョキ”

「あ…」

 秋野は自分の手を見た。じゃんけんに参加したのは左手だったが、石のような形をしている。12月23日に力使いの神候補と戦ったときにできた傷がまだ残っていた。

 その岩のような手に(はやぶさ)の声がしみ入る。()(とがり) 隼人(はやと)は秋野の手を優しく包むように両手で握った。

「おめでとう、お嬢ちゃん。神になるための権利は…君のものさ。」

 スゥ…。数秒して、早尖は手を(ほど)いた。

「…今、神になるための権利が秋野さんに【(ゆず)】られたことが確認されました」

「え あっ、ありがとう…」

 協力の対価となるお礼を先にもらってしまった。次は、こちらの番。こちらがクシポスという者を探す協力をする番だ。

そう意気込む。すると、早尖は鳥が羽ばたくよりも(はや)く話を始めてしまう。

「うんっ。いいよ、いいよ。…あぁ!でも、よく考えたらクシポス師匠は桃源共和国にいるんじゃないか。探すのに協力するといっても、飛行機代まで君たちに出してもらうわけにはいかないな。ハハハ。」

何を言い出したのか、一瞬分からなかった。

「だから、師匠探しの協力は気持ちだけ受け取っておくよ。今日はありがとう。これからも神候補頑張ってくれよ…」

やっとみんなは分かった。彼は去ろうとしている。去った後にどうするつもりかまでは分からない。が、とにかく彼はここから去ろうとしていた。

「待ッ…」

「師匠が元気にしてるってことが分かっただけで、俺には充分すぎたのさ。今日はありがとう。」

 彼は隼のような男だった。縄張りを持たずふよふよと(ただよ)楽天家(Pollyanna)だ。…ただ、眼と行動力が鋭い。(はやぶさ)




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