(Part52)お訪ね者との戦い
「…2人とも、落ち着いたんか?」
機堂が尋ねる。
「はぁ…はぁ…叫び疲れた」
秋野が、荒い口呼吸と併せて答える。
「落ち着いたとは思うけどさ…」
金田も、さっきよりは落ち着いただろうが、やはり未だ興奮覚めぬといった感じ。
陰謀論なんていうちっぽけな話ではない、と思えるはずだ、一部の人なら。一部の人とはいっても、この場合、この館にいる全員を指すことになってしまう。ようは変人しか信じない話だ。「ノストラダムスの大予言は、実は『2000年に起こる神の座を巡る戦い』を世間から隠すためのウソ」だなんていう戯言、信じるのは変人だけだ。変人…そう、『神候補』に『この世界が物語だと信じている者』に『知人に神候補のいるアニメオタク』に…ここには変人が多すぎる。
変人とはいっても、変なのは肩書きだけだったりして、根は普通であることも多い。そして、根は普通の女の子・秋野のように都市伝説に対してわりとマジになってしまうような子にとってはかなり衝撃的な話でもあった。それこそ、この前公開された映画…マトリックスを見たような衝撃だった。
「と…とりあえず行くか…庭」
苦笑いしながら秋野が指差す。指は、扉へと向いている。
カチャ。
トクトクと、普段よりも少し強めな心臓の鼓動を持ったまま、廊下を突き進む。
それにしても館は立派だった。メタ・ステイトたち『円卓の大団』がどうやって金を稼いでいるのかは知らないが、ただのサラリーマンの生涯収入ではとても買えそうにない豪邸だと思える。
ノストラダムスの大予言・神の隠蔽工作説…そんな恐ろしい話を聞かされてしまったら、この神の座を巡る戦いのヤバさを再認識せざるを得ない。ヤバさはいつも再認識させられているのだが、特にこの館でこんな話を聞かされると、あることを意識してしまう。
ここでいう目的は、「神になって、悪い神候補を神にさせない」ことと「次元の壁をぶち破って地球に行こうとする何者かを阻止する」こととする。すると、今の状況は、整った設備のもとで、子供達がある目的のために集っているということになる。
…似たような設定のアニメを金田、機堂はたくさん知っているだろう。秋野でも知っているものがひとつ…新世紀エヴァンゲリオンがそうではないか。そしてこれは賛否両論だろうが、少なくとも秋野の中でエヴァンゲリオンはハッピーエンドではない。自分たちが似た立場だと思うと…ゾッとした。
割とマジで死ぬかも知れないんだよな…。というかエヴァンゲリオンよりむしろ酷い状況じゃないか?あれは敵は基本的に使徒とかいう化物だったけど、こっちは敵は基本的に人間…うげぇ。
損なことを…そんなことまで考えてしまった。人に命を狙われる感触はきっと、使徒に命を狙われるよりずいぶんと気持ち悪いことだろう。(人も使徒だぞ、というオタクのようなツッコミはここでは来ないこととする)
しかし、エヴァンゲリオンと違ってこちらは殺しを行う必要はなかった。それに、『円卓の大団』としてもヴン・アークたちとしても、人を殺す術なんて教えるわけがなかった。あくまでも、相手は人なので、少年漫画みたく熱いバトルで決着をつけることが可能だ。基本的には。
これから向かう庭でいっつもしている訓練だって、相手を殺すための訓練ではない。
「そういや、私らはアークさんと手合わせしてもらってるけど、機堂っていつも何やってんの?」
「んー、浮遊はどちらかというと攻撃には向いてない魔法やからな。やから、なんかサポートできるように物を浮かせてみたりして研究しとる」
「あっ、じゃあさ、E.T.みたいに自転車浮かせたりできんの?」
この小学生のような発言をしたのは、意外にも、秋野ではなくて金田だった。
「イ、E.T.みたいにィ?…柚に言われるまで思いも付かんかったわ。試してみるか」
「おぉ…!いけたら今度乗せてくれ!」
「いけたらな?」
手をぎゅっと軽く握ってみたり、それをぱっと開いてみたりを繰り返す。
「あのときの手の怪我も大分治ってきたな〜。そろそろ剣、握れるかも」
誰に言うわけでもなく、ただ言ってみる。
秋野はクリスマスの前々日に戦いで負った手の大怪我がまだ癒え切っていなかった。
「よく考えたらアークさんって、あんな複雑な剣持った相手によく素手で付き合ってくれるな…」
「そうだな〜柚の氷も難なく避けれるしな…ホントなんなんだろうな『円卓の大団』の人たち」
言ってるうちに見えてきた。
先程話に上がったヴン・アークだ。メタ・ステイトと共に立っている。
特に急ぐ必要もないが、せめて数秒でも待たせる時間を増やしてしまっては それもどうだろうか と思い、少し歩く速度を早める。
部屋専用のスリッパも特に無く、靴下のまま2人のもとへ近づいていく。すると、ピンポンと鋭くない電子音が響く。
誰か来たようだ。
来客は珍しいことだった。少なくとも、秋野たちが館にいるときになにか客が来ることはなかった。『円卓の大団』の連中はチャイムなんか鳴らさずに勝手に入ってくる、館に入れる権利があって当然だ。
「…誰かいらっしゃったみたいですね」
「迎え入れるか」
一切の躊躇いを感じさせない返答。
「はい…え!?迎え入れるのですか?誰かが訪ねてくる予定ってありましたっけ…」
アークがステイトに聞く。
「いや、そんな予定はない。でも迎え入れてしまえばいいじゃん」
「ボ、ボス…私達だけならまだしも、今は秋野さんたちも居ます。宗教勧誘に来たおばあさん方を論破したり、集金に来た公共放送の役員をからかったりして遊ぶのはやめた方が……」
どうも、このメタ・ステイト、有害ではあるがあくまでも無罪な来客をこれまでもからかって遊んできたらしい。
「…」
ステイトを引く目で見ている子供達が3人。誰だって子供は、嫌な趣味をした大人にはなりたくない。
仕方なくステイトが弁解を入れる。
「あ、あのさぁ…僕も、来客全員をからかってるわけじゃなくて?」
とりあえずその弁解風の言い訳を聞いてみる。
「わざわざ面倒臭い訪問者に構うのにもそれなりの理由があって、例えば宗教勧誘に来た人とかって大体、世界平和とかを目指してるじゃんか。そういう人たちって、少しハマったものが悪かっただけで、目的は僕達に似てる者もいるかもしれない。そう、円卓の大団の目的『世界のハッピーエンド』」
「…」
アークを含め、みんな話を黙って聞き続ける。
言い訳の締めくくりがこれである。
「─そういうわけで、円卓の大団のメンバーも数人は、こうやって、館にやって来た宗教勧誘のお遣いを引き抜いてるんだよね」
「「「え!!??」」」
衝撃である。
アークも驚いている。
「え?アークさんも知らなかったんだ…」
「は、はい。まさか、メンバーに、カルト宗教の鞍替えに円卓の大団を選んだ方がいらっしゃるとは…」
秋野としても、まさかたまに廊下ですれ違う人の何人かが、昔カルトにハマっていたとは信じられない。
「ここもカルト宗教と大して変わらんと思うけどな」
「うん」
機堂と金田、冷静な男子中学生2人のツッコミにテキトーに返信を送って、扉へ向かい始める。
「ここは、カルトとか新宗教っていうよりは、エヴァのNERVって感じだよな〜。世界の運命を担った子供達の育成施設というかなんというか」
嫌な例えだ。3人はそう思った。アークはよく分からなかったが、アークもエヴァンゲリオンを見たら「嫌な例え」だと思っただろう。
「4人はもう、庭で訓練始めちゃえばいいよ。僕は、久々に組織のボスみたいなことをする。仲間の勧誘だな。スカウト スカウトっと」
訪問者を迎えようと扉へ歩き出しているステイト。
アークは別にそれをそこまで引き留めようとも思わないので、放っておく。
「それでは、お客さんのことは任せます。こちらは先に庭で訓練を──」
ステイトを放っておく、つもりだった。
何かに気づく。
「──ッ!?ボスっ!!」
「わっ、急に叫ぶなようっちゃん〜」
「いやいや!!まッ、待ってください!」
中学生3人はその会話を呆然と横で聞いていた。ステイトも呆然としている。
「どうかした?」
ステイトが、大声の出処に尋ねる。
秋野たちも、その大声の出処の方を覗いた。普段静かなイメージがある分、何か大変なことでもあったのかと思った。
…とはいっても、そこまで身構えることもないとも思っていたが。神候補になってからメンタルが随分太くなった気がする。
アークがみんなの疑問に答える。
「…すみません。ここまで気づかなかったのですが、確かに感じ取りました…」
何を。
「扉の向こうにいらっしゃる方は、神候補です。」
「「「!!」」」
これには身構える。3人、ピッタリと息を揃えて息を呑む。身体を支える筋肉に力がキュウと込められた。
アークさんは、規律使い…。規律使いは、『神になるための権利』が見える─つまり、『神候補』を認識できる…ってのはもう分かってる。でも、慣れない。アークさんが、存在を認識してるってことは、100% 扉の向こうは神候補…!
そんなことを思いつつ、ある疑問が浮かぶ。身体の緊張を解かないないまま、秋野はその疑問を目の前の規律使いに投げる。
「…でも、『ここまで気づかなった』ってのはどういうことですか?前、クリスマス前に戦ったときは、ずっと遠くから神候補の存在に気づいてたように見えたけど…」
その疑問に何かを気づかせられたような様子をステイトがする。
「あぁ…!秋野ちゃんの言う通りだ!うっちゃんが、この至近距離になるまで気づかなかったってことは、そういうことか。な?」
うっちゃんことヴン・アークもステイトのよく分からない言葉に肯定する。
「はい。そういうことです」
「神になるための権利をたくさん所持している神候補ほど、規律使いは気づきやすいのですよ。神候補としての格の違いは、神になるための権利の数から顕著に分かるものです」
「初めて知ったな。でも、それは、さっき来た神候補は…」
かなり、権利の所持数というか大きさが、少ないということになる。金田も気づいた。
「かなり権利の規模が少ないですね。権利の数は、一です。しかし、神候補ということには変わらないので、慎重に──」
ガチャッ。
扉が開く音がした。
「なッ!ちょ ボス!と扉…」
「相手の身分は関係ないだろ。客を待たせるのは失礼だ」
ステイトの開けた扉の向こう、ギターケースを持った神候補がいた。
「あ……」
秋野を除く全員にとって、初めてお見えになった客だ。ただ、秋野だけは違った。
「どうかした?」
金田が聞く。返事は「どうかしている」寄りの回答。
「あぁ…知ってる人…」
「やぁ、お嬢ちゃん。久しぶり」
扉の向こうで立っていた男は、男にしては髪が長く、首元まで髪が伸びていた。その赤みがかった髪はサラサラとしており、そのせいか知らないが若く見える。大学生くらいだろう。
「あぁあ…っ!」
完全に記憶が思い出されてきた。
「えぇー、まさかの知り合いみたいだし、せっかくだから秋野ちゃんから説明してもらおうっと」
ステイトが面白がりながら、秋野と来客を交互に見る。
「なんか公園でギター演奏してる人がいるなーと思って聴きにいったら、なぜか神候補ってバレた」
「勘だよ。…にしても、そっちの少年まで神候補だね、多分」
「何故バレるんだろう…」
「勘だよ。」
神候補であるという時点で、その男が規律使いでないことはよく分かるが、分かるからこそアークは不気味がった。
「本当に勘で神候補を見分けられるとは…。しかし、本日はどうしてこの館にいらっしゃったのですか?神候補として、戦いに来たようには見えませんが…」
「おぉ、美人さん。ここに来たのは、単なる好奇心で、面白そうな存在が多いと思ったからです。まさかあの日のお嬢ちゃんがいるとはね」
フワフワした存在だとアークは思った。掴みどころのない相手。というかチャラい。
「面白い展開だな〜。…名前は?」
フワフワしている点で変わりのないステイトが尋ねる。
「早尖 隼人です。よろしく。」
そう言って、早尖 隼人は左手でピースサインを作ってみせた。




