(Part51)マインドシーカー
秋野 真絵、金田 柚、機堂 誠一…この、世界を救わんとする3人が『円卓の大団』の館に集まる理由。それは、体を鍛えるためだった。
-いつもは、[ステイト]が、太陽がその全身を地平線より上にさらけ出した4時間後ほどにやって来る。そして、この世界について、という壮大な物語のための訓練が始まる。
それまでは、3人は宿題をしたりして暇を潰しているわけだ。
しかし今日は違った。太陽が昇ったのとほぼ同時に、彼は目覚めていた。
「…良い朝だ」
暇なのでヴン・アークを起こしに行く。
服装にルーズな彼は、普段着のまま寝るため、寝起きに着替える必要がなかった。
そのまま廊下へ出て、アークの部屋を訪ねる。
ガチャ。
「お早うございます。ボス」
起きていた。長い髪の毛をくくってポニーテールにしている途中だったが、作業を中断してステイトへの挨拶を済ませる。それから、ささっと結んでしまう。いつもの綺麗なポニーテールができた。
「…うっちゃん起きんの早すぎねーか」
「そんな…。秋野さんたちはもうとっくに来ていますよ」
「早いなー。秋野ちゃんとか、いつも朝ご飯どうしてきてんの?」
「どうやら、お弁当だったりを持参しているみたいです」
「えぇ〜!?みんな親になんて言ってここに来てるんだ!?部活の朝練だってこんな早くないぞ…?知らないけどさ」
「ボス、小学生高学年からの12年、ずっと部活は帰宅部でしたからね…」
文化部ですらない。
ベッドの隣の机に置かれてあったコーヒーを取り、ズッ…と飲む。アークの好みは、コーヒーシュガー多めだ。
ク…ッ。コト。
飲み終わるのを確認し、ステイトが部屋の外へと誘う。
「じゃあ行くかー?ちょっと早めだけど」
「はい。たまには早くからの朝食もいいですね」
行くとは、料理するということだ。
「じゃあ頼んだ」
「はい。いつも通り、しばらくしたら作り終えるので、大団のみなさんを呼んでください」
「うーい」
調理室をあとに、彼はある部屋へ向かって歩き出す。その途中、彼はなんにもない、どこにもない空間へ向かって喋り出した。
「この小説の読者のみなさんも、僕の魔法をそろそろ忘れてそうだしな。…説明するか」
そう言って、彼は自分の魔法の説明を始めた。この狂った行動は、「この世界が、実は小説である」という狂った考えを狂信するがゆえの行動であるといえる…!
「僕、メタ・ステイトは『本』の魔法使いだ。本をモチーフにした魔法が使える。例えば…デール・カーネギー君の書いた自己啓発本『人を動かす』とかね。よし、実際にやってみよう」
ポケットに手を突っ込みながら、ゆっくりと、魔力を込めて脳を回転させる…。
「ビジネスリーダーでも、カンパニーのボスでもない。でも、人を動かすことは大切なんだと知らされた一冊だったね。…」
「『人を動かす』」
「よう。起きてるか。……ん、間井、起きろー。みんなに伝えとくけど、そろそろ朝食だぜ」
その言葉は、自分自身と、ヴン・アークを除く16名の『円卓の大団』団員へと、光を超えた速度で伝達した。
「え?あー…早い?そういう意見も、あるわな。まぁ早めの朝食ってことで。都合で来れなかったら朝飯はラップして保存しとくけど、今日の飯当番はアーク…出来立て食べたいだろ?そいじゃ」
と、彼は命を下し終えた。できたらみんなでご飯を食べたいというのは、ステイトが重きを置く考えの一つだった。
「さて」
言うべきことを言い終えたボスが向かうのは、この館で最も電気を喰らう場所だった。
昇ったのか、降ったのか、階段の音がした。階段を踏む音は2階で止まる。
次に廊下を歩む音。
ガチャ。
「今日のニュースはー…っと」
そう言って、暗闇の中。彼はピッとどこかのボタンを押した。
途端に、部屋は光と、そして喧しいほどの音に包まれた!!
ズン!音と音が重なり合い、大きな合成波となる!
「1月1日、朝のニュースを「今天的嘉宾是「えーそれでは、天水都府から、池田さーん」剑术高手」お送り「皆さん、新年明けまして「続いて、明日の天気です「今、おしるこが「戦場カメラマンの」アツい!」明日は各地で雪が」おめでとうございます」「今年一番の寒波が「はーい!こちら、池田「Next is the news」です」「劇場版、はぐコメ!1月8日ロードショー!「A study at the university 「前売り券購入で」has shown that「最近知陵源发生很多神秘事故」There is an the imagination-eating monster」はい、それが大変危険なんですね」いたします」
…その部屋には20のモニターがあった。20のモニターは今、その全てがニュースを流していた。8チャンネル分の、この国のニュース番組。どんな人に「有名な国といえば」と聞いてもまず名の挙がるであろう大国、6カ国のニュース番組が各2チャンネルずつ。
メタ・ステイトの押したボタンは、まるで宇宙戦艦ヤマトの艦長席のボタンの一つのように超科学的な高性能なもののようだった。
…役割といえば、ここにある20のモニターの電源と、この部屋の照明を付けるだけだが。
「よし。やっていくかぁ〜」
テレビの電源を付けるだけの役目を持った怪しげなボタンの隣、辞書を3段ほど積み上げたように分厚い緑の本を手に取る。
これは彼の日課だった。ニュースと予言を照らし合わせる、という、人類史でも恐らく初めて、人のやる日課だろうが。
チープな椅子に腰をかけ、
「魔法の出番だ…」
と言い、
「『アルジャーノンに花束を』」
と唱える。
予言書の乗せてあった机の上には花瓶と、それに生けられた花の束が現れる。魔法の花束だ。
『アルジャーノンに花束を』は、やはり地球の小説だ。主人公は手術によってだんだんと賢くなってゆくのだが、その結果がハッピーエンドということでは……いや、記載しないでおく。
とにかく、その小説をモチーフにしたこの魔法、この花がかぐわしく香る間、ステイトは人類の中でもトップクラスに賢くなることができた。玉に瑕なのは、やはり賢くなりすぎるゆえに、知りたくない事実まで知れてしまうこともあるという点。
今日のニュースもずいぶんと喧しい。…さて。
ペラ、と予言書をめくる。
予言は相変わらず…全て的中している。そうなるとやはり気になるのが、以前の、文体の違う予言。クリスマス2日前に起こった、秋野ちゃん達と、敵の神候補との戦闘。
「…どうして?文体が違う?」
高速で回転する頭脳。情報が脳のしわへ絶え間無く差し込まれてゆく。それを脳は全て、理解して、記憶というタンスにしまう。
目の真ん中を陣取る黒い瞳は、ギュルギュルと急速な運動を繰り返す。
…口数が多くなってゆく。
「予言書は俺の、魔法の一部のようなもの。魔法は他でも無い、神の力の一部。だとすると予言の的中率が100%なのは納得がいく…」
脳で整理した情報が、口から溢れ出る。
20のモニターのうち、上から3、右から2つ目のモニターからあるニュースが流れた。西の方のある国の大学が、「人の想像力を食べる化物の存在を確認」したらしい。
「人の想像力を食うモンスター…予言には載っていないニュース。大したニュースではないということか」
予言書には、世界の大きな事件や事故が載る。だから、予言書にも載っていないということは、そのニュースは大した出来事ではなかったということになる。
「…普通はな」
だが、
「まさか、文体の違ったあの予言のように?」
ある不思議が思いついてしまう。
「12月23日に急に現れた、秋野ちゃん達の戦いの予言。あれが、第三者によって書かれた予言だとすると…?逆に、第三者によって本来書かれていた予言が消されるということもあり得るわけだ」
メタ・ステイトが悩んでいるその間にも、その20の不気味なモニターはニュースを淡々と流していた。大きなニュース、小さなニュース。大きなニュースの中には、ずっと前から予言書の中に書かれてある内容と全く同じものもいくつかあった。
「第三者、第三者って?世界という物語で、重要なポジションになってくる者…次元の壁をぶっ壊してサースターから地球へ渡ろうとしている、モンスター──」
コン コン コン
ハッと我にかえる。
扉を叩く音。おそらくヴン・アークだろう。そして、ヴン・アークということなら、おそらく朝ごはんが出来上がった報告に来たはずだ。
「んあぁ、ごめんごめん!うっちゃん?」
「はい、ボス。朝食が出来ました。大団の皆さんも、ずいぶん集まってきましたよ」
「うぉー、ありがとう!」
ガチャ。扉を開く。
「今 行く」
ステイトが部屋から出て行こうとすると、それをアークが声で制する。
「ボォースゥー…電気を消して下さい…!」
「ウオヮっ!うっちゃん怖い顔ッ!!」
カチ。部屋は再び暗闇に包まれた。そして『アルジャーノンの花束』は消え、予言書はまた眠りについたのだった。
「おぉ、みんな集まってるなぁー!手洗いなんかしてる暇ないし、いくぞ!いただきます!」
「「「いただきます」」」
「手洗いはして下さい。いや、というか手洗いを済ませていないのはボスだけですが」
「は、はいはい」
食事は同時に始め、別々に終わる。次々と「ごちそうさま」を残して仲間が去ってゆく。どこに去っていくのかというと、それはもう想像もつかないところへ去ってゆくのだ。
例えば、
「ごちそうさまー」
今こう言って去っていったこの茶髪の大男、ヒュアロス・ピュアという名の大男はこれからピグリティア大陸へ行く。ピグリティア大陸、つまり南極のことだ。
何をしに行くのかと言うと、この前大きな雪崩によって崩れた南極基地の復興作業を手伝うためである。…そう、世界の平和、物語のハッピーエンドを望むのがこの『円卓の大団』という組織の存在理由。当然、主な活動はボランティア、稀な活動は…
「世界を救うこと、だ」
「な…なんですかボス、急に。」
「ごちそうさま。いや、これからボランティア活動をするために早々と飯を食い終えて去っていった仲間を見てると、ちょっと思うとこあってなぁ…しみじみと」
「おそまつさまでした。私たちもそろそろ活動しないといけませんね。秋野さん、金田さん、機堂さんが早朝から待っていますからね…」
そういうことで、今日も、世界を守る活動が始まる。
「よし、じゃあ、勇者さまとその仲間たちを呼びに行きますか…!」
神候補である己を肯定し、世界を守ることを決意してくれた、勇者 秋野。そして相棒、理解者である、金田、機堂の2人の青年。
「では、部屋へ向かいましょう…」
「いや、テレパシーで呼んでみよう。今なにしてんのかな〜」
「ボス…驚かせたら悪いですよ…」
「いーや、真面目な話をするがな、これからの戦場、テレパシーを使うことは増えてくるはずだ。だから僕の魔法『人を動かす』には慣れてもらう必要がある」
「はぁ…」
一方、部屋。
-そのころ、[秋野]達はなにをしているのかというと、くだらない話をしていた。
サンタクロースが本当にいるかどうか、という話よりもくだらない。そもそもサンタクロースは本当にいる。だからまだ面白い。
逆に、3人は、本当にいなかったことの話をしている。
「結局、ノストラダムスの大予言、信じてたの?」
問いただす金田。
「いやそんなわけが…」
ごにょごにょと、語尾を濁して誤魔化しているのは秋野だ。
「ノストラダムスの予言はホンマ懐かしいなァ〜。1999年の、7月やろ?恐怖の大王がやってきて、世界を滅ぼす〜なんてな」
「もうバレてるし白状するけど、マジで俺はビビってたよ…」
「恐怖の大王なんかにビビッとッた柚が、今じゃ神を目指して神候補…成長やな」
「お前は俺の親父かなにかか…!」
秋野が笑いそうになったそのとき、3人の頭に何かが降り立った!
「面白そうな話してたな〜!」
メタ・ステイトの言葉だ。声はせず、言葉がそのまま脳内を伝達した。
「うわッ!」
「ちょ、ビックリしたぁ〜」
リアクションに対して、今の状況を軽く説明。
「僕の魔法『人を動かす』で、直接テレパシーで会話してるってことだ」
…軽く説明したかと思うと、ステイトがそのまま会話に参加してくる。
「1999年7月、そのちょうど一年後2000年7月、神候補たちによる戦いが始まったんだよね〜」
「わ、すっごい自然に会話に参加してきた…」
秋野がつい、言う。それにしても平然と会話に参加してきたステイト。まだ話を続けるつもりだ。
「恐怖の大王は来なかったけど、たまたま神を決める権利は出来てしまった。…実は逆さ」
「え?」
「神が広めるよう、ノストラダムスに伝えたんだ。『1999年に外れる予言をしろ』ってね」
こんなことを言われたら困惑するに決まっている。
「どういうことや…?」
機堂をはじめに、みんな理解ができなかった。仮にそうだったとしても、どうして神がノストラダムスにそんな命令をしたのだろうか。
「ハハハ…ノストラダムスの大予言が外れたとき、どう思った?」
「正直安心しました」
「ピュ、ピュアだな金田君…。ええと、でもこうも思ったんじゃないか?『結局、予言も都市伝説も嘘なんだ』ってね」
「あぁ〜それはあるかもな!」
彼女はもうテレパシーに対して違和感なく会話ができるようになってきていた。
ここで機堂が気づいてしまう。
「あァ…マジか。そうやとしたら、この神候補同士の戦い、相当な規模のイベントやんけ」
「気づいたな!!ハハハ!!そう!!ノストラダムスの予言が外れたことで、みんな世の中の不可思議を前ほど信じなくなった!これは…全部このときのためなんだよ。神を決める戦い、なんていう不可思議が世の中にバレそうになったところで、そんな話 みんなはもう信じない…」
つまり、恐怖の大王の御名まで借りたあの大きな予言は、ただ、神を 神候補を 次の神を決めるこの戦いを 隠すためだけに作られたものだったのだ。
それを聞いた秋野と金田は、一瞬間だけ顔を見せ合い、次の瞬間には叫んだ。
「「えぇーーーッッ!?」」
館全体に伝わったこの叫び声を聞き、メタ・ステイトは笑った。
「ハッハッハッハッ」
「まったく、悪い笑い声です。私も、このボスの推測を聞いたときは本当に驚いたんですからね?それに、どうも推測は正しそうですしね…」
「俺も最初に思いついてしまったときは驚いたよ。こういうのは、『アルジャーノンに花束を』の悪いとこだよな〜」
「本当に、変わった魔法を使うんですから…」
「あ、うっちゃんの手が空いたから、訓練の用意はできてるぜ。頑張るのは本当に偉いけど、ほどほどにな?」
伝え忘れていた本題を、ステイトは付け足すようにテレパシーで伝えた。




