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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
弐章 ARMAGEDDON QUEST
45/66

(Part44)黒の憧憬

 ここは紛争地ではない。リングの上でもなければ、()(ひょう)の上でもない。

ここは、本当に、普通の、道路だ。銃声(じゅうせい)も聞こえないし、戦いの試合を観に来た客の(やかま)しい声援(せいえん)も聞こえない。

(ロール)(プレイング)(ゲーム)のフィールドに流れてくる平和なBGM(ビージーエム)すら聞こえてきそうな、平和な道。

そんな平和な国の(せい)()された道路の上で、(やわ)らかな雪の上で、金田は腹をおさえて(もだ)えていた。

「が…ぁ、あ」

 金田の目の前には、赤い髪の大男。

 (何も考えることができない)

そんな、頭が真っ白の金田の隣で、代わりに(いか)るのは、

「お前ッ!何─」

当然 秋野、だ…


…けではない。

「お前ェえええッ!!!何しとんじャァあああッ!!!」

ダンッ!!

 厚い雪の(そう)()()いて 地面に音を鳴らした、空から降ってきた男。

()(どう) 誠一(せいいち)

「オーゥ」

赤い髪の男は、空から降ってきた機堂に踏み潰されるところだった。

「はァ…はァ……」


「機堂ーーッ!!」

今にも泣きそうな声でそう言ったのは、秋野だ。

「クソッ…。おい…おいッ!」

雪の上に横たわる金田へ、機堂が呼びかける。

「ハ…ごめん、機堂(ギーク)

 情けねぇなぁ…俺…

そう思う金田の気持ちを()んでのことか、

「アホ!謝ってんな!…誰やねんコイツら」

あくまでも冷静に、機堂はこの状況を理解しようとしている。

 ついさっき、金田たちと別れて、自分の家へと帰ろうとした機堂だった。が、いざ足を進めようとしたその瞬間、金田が…親友がいる方からイヤな音が聞こえたので、文字通り 機堂は()()()()()

 機堂と秋野の目の前にいる、トゲトゲとした赤い髪をもつ男。そいつは、やはり外国語を話すのだった。

「なんだ、お友達か…」

外人(がいじん)さんかよ。言葉は通じそうにないな。そんで、柚を攻撃…か」

言葉も、心も通じそうにない、明確な()を前に、機堂は冷静に状況を()(あく)していった。


 (にら)()いが続く中、ほとんど同時に、秋野と機堂は気づいたことがあった。

「「神候補…」」

そして、2人は互いにビックリしながら顔を見合わせる。

機堂(ギーク)もそう思ったんなら、もう間違いない」

「あァ…。そんで、それはつまり、隣にいるあのフードのヤツは、十中(じっちゅう)八九(はっく) 規律使いや」

 このタイミングで、いよいよ金田が立ち上がる。

「はは…。もっと言うんなら、あの赤い髪の神候補の方は、きっと力使いだな」

「オイ、大丈夫かよ」

「悪かったな、機堂(ギーク)


 こうなるのは、覚悟していたこと。…そのはずだろ、俺。

金田が、無言で()の方を見て、目を()わらせる。

 神を決める戦い。…それは、その戦いは、あらかじめ()(れい)物語(ストーリー)の決められたボクシングの試合のような、誰かに準備されたものじゃない!日常が、死と(とな)()わせ…だろ、俺!

「覚悟でも決めてたんか、(ゆず)

「ああ!!」

「すごいな、お前ら。…よし、私も覚悟完了だ!」

3人の…覚悟が完了した。


 言葉が通じないのは、相手側も同じだった。

「あの少年たちは何を話してるんだい?」

赤髪(あかがみ)刺々(とげとげ)しいそいつが、フードを深く(かぶ)った男に聞く。

フードの方は、機堂たちの予想通り 規律使いだった。

「あの少年の方が()()が多くて気づかなかったが、あそこにいる少女も神候補だ。ラッキーだな」

「ファーッ!ハッハッハッ!そいつはラッキーだ!!」

 ビクッ!

言葉の通じない金田たちから見ると、まるでそいつらは突然笑い出したようだった。

 恐怖が走り、覚悟にヒビが入りそうな3人をまるで気にせず、怪しい男2人は話し続けている。

「ヒィ〜…まさか神候補が2人もこんなチンケな町に…。それも子供(カモ)!」

「ただ、真ん中のデブは神候補ではないらしい。権利の数が見えない。…となると、あのデブが規律使い?」

(かま)うもんか!どっちにしろ、この、神の座を決める戦いの存在を知ってそうだし、無関係ではない!ここで楽になるといい!」

 ダッ!

赤髪がこちらへと走り出す!!

「来るぞっ!!」

 もうヘトヘトの3人。どこまでやれるか分からない。しかし、それでも、やるしかなかった。

「く…っ」


 ガキィイィンッ!

ギターケースにめりめりと(こぶし)(かた)ができる。

「ヒュウ。()(こよみ)の少女はブロンズソードが使えるのかい」

「だりゃあっ!」

両手でギターケースを押し、赤髪の男を押しのける。

 息もつかせず、金田の魔法がそいつを(おそ)わんとする!

「オォォオッ!!」

力を…魔力を()(しぼ)って魔法を生む!!できたのは、いつの日か見た パチンコ…もとい、スリングショット用のゴム(だん)ほどの、小さな氷のつぶて。

いくら訓練の後だとしても、これほどの魔法しか()てないものなのか…いや、違う!魔力の配分(はいぶん)を、飛ばすという能力に多くを(そそ)いだのだ!!

 ド ン ッ !   !  !

その氷のつぶては、もはや陸で生きる生物の速さではとても()けられないほどのものとなっていた。魔法の氷の弾丸(だんがん)

「チッ!」


 バツッ…

服を(つらぬ)き、その透明(とうめい)弾丸(だんがん)は男にぶち()まれた!

右横腹(みぎよこばら)に、服がめり()んでいる。そして、服はジワジワと赤く染まっていく。


「ガキが…」

赤髪の男は、手を クイ、クイと(まね)()せるように動かした。手の方向は後ろにいるフードの男へ向けられていた。

「やれやれ。仕方ないか」

そう言って、フードの男は何かを投げた。雪の降る(そら)を、(まぶ)しく()う。

 何が、赤髪の男に(まね)かれたのかというと…

…パシッ。

赤髪の受け取ったもの。それは、(けん)だった。

 

「いっ!?」

中学生達は(おどろ)いた。それはそうだ。大男が、目の前で刃物を力強く握っているのだから。

それも、フルーツナイフやペーパーナイフのようなチンケなものではない。

「名前を紹介する気はない。…けど、これくらいは教えてやる。俺は、剣が得意なんだ。それも、こういう蛮刀(マチュテ)がね」

当然、その言葉が通じるはずがない。

 しかし、空気には伝わった。その空気がまた、金田たちに伝えた。


ヤバイ!!!!


そこまで変わる。剣を握る前と、握ってしまった今。相手の(はっ)するオーラがグンと(するど)いものになる。


 ヒュン ヒュンヒュン ヒュンヒュン

無意味に、両手で(つるぎ)()わせる。

 ビュッ!

空へと放り投げた。当然、注意は剣へと向けられる。

「う、あ…」

それが、マズかった。

 3人が高くを舞う剣を見ている間に、赤髪の男はものすごいスピードでこちらに()けだした。

「!」

気づいたときには(すで)に、

「遅い!!」

ゴンッ!

()(じゅつ)もクソもない。力任せの一撃。

「ぐぁあッ!」

胴体(どうたい)にモロに喰らった!そして、喰らったのは、秋野だった。

「秋野っ!」

そんなときに、剣は空から帰ってくる。赤髪の、手の中に!

 パシッ。

「いくぜ オイ」

来る。



 その、名前も知らない赤髪の男は、どうやら狙いを秋野に(さだ)めたらしい。

「させるかッ!」

-[機堂]は、友への追撃(ついげき)を許さんと、前へ出る。

「そうはさせない」

しかし、相手側のフードの男に、(はば)まれてしまった。

「なんやお前!どけッ」

「行かせない。これは神候補の戦いだ。君は、規律使いということでもないらしい。ここで俺と遊ぶか」

ドンッ。腹を蹴られる。

「ぐはァッ!」

 戦力が分けられた。分けられてしまった。


 クソ…。痛い。いや、そんなことはどうでもええ。…まさか、規律使いの方まで戦いに参加するとはな。

蹴られた()(しょ)を優しくさすりながら、そんなことを冷静に見つめていた。

「機堂…」

チラ、チラと金田がこちらを見てくる。

(ゆず)。どうやら俺の相手はこいつらしい。…そっちは頼んだで」

ほんの(わず)か、しかし確実に少しの時間が経った後、金田は小さくコクンと(うなず)いた。

「へっ…」

返事として、金田に小さく笑い返す。


そして、すぐ、顔を真逆のモードに変えた。その顔はフードの男へ向けられる。

「名前を言え。俺の名前はキドウ」

「!!」

機堂は、相手のフード野郎にも分かるような言葉で言ってやった。

「…これは失礼をした。この国では、戦いの前に名乗るのが礼儀だったな。…俺の名前は、ルーフ。」

機堂は、全て聞き取れたわけではない。しかしなんとか、聞きたい情報は理解できた。相手は、しっかりと「マイ ネーム イズ ルーフ」と言ったからだ。

相手の名前を知ったところで、何かが変わるわけではない。(せん)(きょう)は何も変わらない。

しかし、知っておきたかった。これから自分と戦う者の名前。


「お前は使い 規律の か?」

中学で少し習っただけで、外国語はそこまで得意ではない。かなり伝わりづらいが、こうやってコミュニケーションをとるしかない。

「規律使いですかって言いたいのか?…なら、『はい』だ」

やはりネイティブな外国語はとても聞き取りづらかったが、「イエス」と言ったのは分かった。

 機堂の使っている()(こよみ)の言葉は、地球の日本という国の言葉から()(ほう)されたもの。

そして、ルーフ達の話している言葉は、地球の英語からつくられたものだった。だから、影響力も当然あり、兎暦でも中学に入ったら学ぶことになっているのだ。

 外国語の成績も、頭の良い機堂はよかったが、本当に外国人と話すとなるとそれは(よう)()なものだった。フードの男…ルーフからすれば、まるで小学生が相手のようなもの。

そんな状況に少し笑いつつ…ルーフが動いた。

「あいつのジャマはさせないよ」

その言葉は機堂に伝わらなかったが、その言葉が戦いのコングであることは分かった。

 …来る。



 一方…といっても舞台は同じ、雪の上。機堂とルーフが戦う場所から、少し南に15メートルほどのところ。

-こちらでは、神候補[金田]の戦いがあった。かなり(きび)しい戦いだ。

しかし、正直 金田は以前ほどの戦いに対する不安はなかった。隣にいる(あき)() ()()…彼女と共闘しているからだ。神候補になってからの彼女の頑張りは、近くで見てきた。

「私も剣を使う。いくぞ、柚!」

「おう!」

 ジィイーッ!ギターケースを荒々(あらあら)しく開ける。中には、銅製の、(へび)

(くさり)のような(にぶ)い赤色の剣。ガリアンソード、()蛇虵舌(じゃじゃした)だ。

「変わった剣だ」

そんなことを英語のような言葉で(つぶや)く、ウニみたいな赤髪の男。

「…」

秋野は、黙って魔法をかける。これで、剣は普段の半分の重さになった。

「はぁっ!」

剣を赤髪に向けて(かま)えると同時に、(つば)の正面についている小さなボタンを押す。

 ビャッ!!

「ッ!?」

何も知らない相手にしてみたらかなり驚いたことだろう。剣が、(へび)のごとく伸びたのだから!

…しかし、


 相手が悪かった。そう思ったのは、疲れるほど戦った後のことではなかった。(いや、金田と秋野は最初から疲れていたのだが、そういうことでもなく)

では、いつこのレベルの差に気がついたのかというと…あの(へび)(ひと)()きを、

「な…手で!?」

手で止められたときだ。つまり、今。今、やっと相手が悪いことに気がついた。

 レベルが違いすぎる…!

秋野も同じことを思っていただろう。なにせ、隣で見ていただけの金田ですらこう思っているのだから。

「見た目よりも軽い剣だな」

そう言って、赤髪は、(つか)んでいた()蛇虵舌(じゃじゃした)をパッと手放した。そして、剣の先をガンと蹴飛ばした!

 剣の先が自分の元へと返ってくる。秋野が望んだのとは違う形で、だが。

ヒュウゥゥ…

ざくっ!

雪に刺さる。

「あ…」

 雪に刺さった自分の武器を見た、その一瞬(いっしゅん)。その間にも、敵は動く。

「俺の番だなっ!」

ザッ!雪を蹴って、地面を走る!こちらへ、赤髪が来る…!

 男の狙いは、明らかに秋野へと変わっていた。見た目は完全に華奢(きゃしゃ)な女の子なので、先にこっちを早く処理しておこうと思ったのだろう。

 そうはさせない…

「させるかっ!」

ドン。健康な男子中学生の、渾身(こんしん)の体当たりだ。効いてもらわなくては困る。

「ジャマだっ!お前は、後で相手をする」

 金田と赤髪の男が生んだ、一瞬の(とき)()に、秋野はもう一度ボタンを押した。キャニスター型掃除機のコードのように、()蛇虵舌(じゃじゃした)の銅でできた刀身(とうしん)がシュルル…と巻き戻される。

それと同時に、金田が()()ばされた。

 ガチン。瞬間、赤き蛇は、また剣となった。

「だああっ!」

キン。しかし、相手の蛮刀にたやすく(はじ)かれる。

それは秋野にとっては、だからどうした、である。すぐに体勢(たいせい)(ととの)えて、また剣を振るのみだ。


 トゲトゲの赤いウニ野郎の心に、中学生ほどにしか見えない少女に対して チリ(つぶ)くらいの畏怖(いふ)(ねん)が生まれはじめる。

素人(しろうと)だな。しかし…ゾッとする」

始めて3ヶ月ほどの秋野の剣は、本当にメチャクチャなものだった。ただ、彼女の目が自分をずっと見ていたのだ。

自分に攻撃をぶち込んでやるという、(しゅう)(ねん)に近い(こん)(じょう)。それに彼はゾッとした。

その気持ちが彼女へ伝わるはずもない。

「何言ってるか分かんねーよ!!」

少女は、ただ (われ)()を、その(もの)()を浴びせるように、剣をふるう。(ふる)う。()るう。

秋野は、今 持つ全ての力を剣に乗せた。

 火花が散る。乾燥した冬の空気、雪に()じる赤。()じる剣。

キャン、キャンと、子犬のように剣が鳴いた。

 それでも男の身体がブレることはなく。相手は相当な剣の使い手だ。

体に一本の(じく)が、(みき)が通っているようだった。秋野は、どうしてもその男を(くず)すことができずにいた。

「ぐっ」

「…」

ピク。そんな時…フッと彼の赤いウニような髪が揺れた。顔を動かしたのだ。目線の先には、金田!

手は2つとも(てのひら)を見せていた…。

「秋野ォ!離れろっ」


「グラキエ・スタッロス!!」

 男と金田の距離は、メートルという単位を使う必要すら 無い!この、狭い道。

「チッ…!」

力使いがそう目にする機会もないだろう…中級魔法。氷の凶器を()したその魔法は、氷そのものを武器とさせる。

 秋野がすぐに離れたので、男の方も剣を武器として使うことを止め、剣を防御(ぼうぎょ)の手段にしようとする。剣を横に持ち、氷を受け止める(かま)えだ。

しかしその氷、剣に対して鋭尖(えいせん)とあらず…

(どん)!!

「ガハッ…!」

そして氷は(おごそ)かに(くだ)()ってゆく。

 赤髪は、体内で血肉がグジュグジュと潰されていくのが分かった。

しかし、ここは現実だ。RPGのようなターン制のバトルなわけがない。ここは現実だ!相手が次の行動に移る前に、攻撃できるなら攻撃をさらにしてしまう!

 秋野の追撃!ピンと()った重々しい銅の(つるぎ)を、彼女は大きく振り下ろした!

「必殺!!」

そう、必殺奥義──

(あま) (かける) ⚫︎ (ひらめき)っ」

ズガン!!…とても『()る』音には聞こえない斬撃音(ざんげきおん)だが、必殺技の技名がそれでいいのか?

 いいのか?いや、えぇ〜…?

「よくないだろ」

「ん、どうした…?(ゆず)

「技名に…マンガの(すで)に使われてる名前つけるなよ…。てか思いっきり叩きつけた、だけじゃん」

「いいじゃん。カッコイイじゃん…」

はぁ、はぁ と、2人とも(かた)で息をしながら、(しゃべ)っていた。そこには、もう追撃を加える体力はなかったのだ。


 そして2人は、相手が起きるまで、しょうもないジョークを飛ばし合ったり 雑談(ざつだん)をした。

この戦いを()めているわけではない。

戦地へ(おもむ)く兵士の言った、「死ぬにはいい日だ」という言葉と同じ。

2人は、冗談めかしながら、確実に来る、次のターン…相手を待った。


 現実どころか、ゲームでもそうだろうが、必殺技で敵を必ず殺せるのかというと、そんなわけがない。

 ガラ、ガラ…

その赤髪の男が、自分をぶん(なぐ)った氷を払って、立ち上がる。

「ハァ…ハァ。クソガキども。今…殺してやる!!」

戦いは終盤へと突入した。




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