(Part45)そこは おじさんの きんのたま!
白い雪は、まるでこの地方では考えられないほどに降っていた。しかし、それでも黒い空を白く染めるには至らない。
-[機堂]はこの状況で、とても悔しい想いをしていた。
「どうした?」という意味の、意味のわからない外国語が聞こえる。
「…はァ、はァ」
状況は可笑しかった。ただ、機堂が攻撃をしかける。それを、フードの男、ルーフはただ軽くいなすばかりだった。
「どうした、キドウくん」
「クソがッ!!」
おもむろに、雪を投げつける。その様子は、ヤケクソという言葉が相応しい。
「おっと」
それをまた、避けられる。
数メートル…後ろの左の方から、さっきからうるさい。剣の音か。剣の、交わる音。
その音もまた、機堂を挑発しているようだった。友人が、命をかけて戦っているのに、そこに駆けつけることもできない。何よりも辛かった。
ギュ…。また、雪を握る。
この手に握った雪を、口に押し込みたくなる。この柔らかで甘そうな雪を口に押し込んでしまえば、少しは今 嘗めさせられている辛酸の辛さを少しでも和らげられそうだった。
…が、そういうわけにもいかない。
「おらァ!」
ヒュッ。
また、避けられる。
「雪合戦でもして遊びたくなったかい、キドウ」
強く握りしめられた雪は、もう地面に落ちても割れなかった。地面には、雪が、そして雪の玉が積もっていった。
「ほっ」
突然、ルーフがそう短く発した。
ビュン。
「がッ」
すると突然、顔に衝撃が走り、鼻が痛くなった。そして、すぐに何か暖かいものが顔を流れる。流れ出た液体か何かは口に入り込み、そのとき、なんとなく液体が赤いことを理解してしまった。
血…。な、なんやッ!?攻撃、されたんか。気づかんかった…!
そう思ったその後、すぐに攻撃の正体を知った。
ルーフが、白い玉をおてだまのようにして遊んでいる。雪の玉だ。
「雪合戦といこうか…!」
ビュン!
「チッ!」
すぐに腕を、顔の前でクロスさせ、防御の体勢をとる。次々と腕にくる刺激は、「雪は固めて投げると痛い」ということを機堂に理解させた。
当然、応戦する。こちら側も雪の玉をぶつけてやるのだ!
「ハハハ!どうした。魔法を使ってみせろ、魔法使い!」
「うるせェ!シャラップ!」
汚い言葉を吐きながら、ただ雪玉を作っては投げ、作っては投げる。
意外と、「ひたすら攻撃する」というのは効果があるのかもしれなかった。相手は雪玉を避けることばかり頑張って、反撃しなかったのだ。
「ふんッッ」
ガッ!
「お」
一つ当たった。固めた雪はもはや氷。氷塊である。これが、当たったらとても痛い!
「クソガキ…!」
もちろん、こんなものでルーフの束縛が終わるわけはない。しかし、この一つの雪玉が、ルーフと機堂のこの戦いを…『お遊び』ではなくさせた。ルーフは…この戦いを『遊び』だと思わなくなったのだ。
キレた大人という存在は、子供にとってはなかなか怖い存在だ。ルーフをキレさせたことが、機堂にとってプラスにはたらくのか、マイナスになるのかは分からない。が、機堂はこう思っていた。
あのまま遊んでたら、一生 アイツらのとこに辿り着かんかったやろうな。…遊びは終わりや。ぶッ倒してやる。
ルーフは怒りに任せて走り出した。
空気抵抗で風が生まれ、フードがめくれる。しかし、それでも前髪が長いため顔はよく見えなかった。
「死にな、おデブちゃん」
キュッ!さっきまでポケットに突っ込んでいた手が、いつの間にか外で尖っている。
手刀…いや、それは刀の形ではなかった。手槍とでも表現するべきだ。手で持つ用の槍ではなく、手、そのものが、槍!
「いッ!?」
ビャッ!
かろうじて、手槍は外れた。機堂は大げさに避けたが、それでもかなり危なかった。ルーフの尖った右手は、一以下秒前まで、機堂の喉仏が座っていたところだった。
…二撃目が来ない。よっぽど、一撃で仕留める自信があったのだろう。
動いてなかったら…俺の喉は今ごろグチャグチャやッたろな…。多分、もう二度と喋られへんかったやろうなァ…。
そう思い、そして、だからこそ、機堂は喋ってやるのだった。
「外したなァ!アホめ!俺のは当たるで!」
グーパンチ。
──それに対し、
手槍!!
「砕けろ」
ルーフは、何もない空間に突き刺さった右手をそのままに、左手の手槍を出した!
しかし、「砕けろ」と彼は言った。機堂のグーパンチ…ハンマーに対し、尖った槍である。槍でハンマーが砕けるのだろうか?
…今、2つがぶつかる。
「ぎャァァああァあッ!!」
そこには、ぐちゃりとした、機堂の右手があった。だけではなかった。未だ鋭く尖る槍も一本…。
機堂の右手は砕けた。砕かれた。
「痛いだろう?次は鼻を砕く」
容赦なく、次は2つの手を同時に操りだす。2本の手槍がこちらを向く。
「ちくしョォ!」
バッ!と道を進み、機堂はルーフから距離を取る。そして、壊れていない左手を使って、また雪玉を投げ出す。
「無駄だ」
もう避けることすら辞めてしまったらしい。ルーフは、自分の手を使って、飛んでくる雪の弾を撃ち落としていった。
じり、じりとルーフがこちらへ来る。
そして、いよいよ2人の距離はゼロになろうとしていた。それまでに撃ち落とされた機堂の雪玉の数…43!ルーフは、かじかんですらない白い手を見せつけていた。
もはや、機堂には何もできないと思われた。できるとしたら、中学で習った外国語を使った、カタコトで伝わりづらい命乞いくらいだろうか。
「…俺は魔法使いです。俺は魔法を使います。後ろを見てみてください?」
そして機堂が言ったことは、やはりカタコトの外国語だった。しかし、彼の様子から見て、命乞いではないらしい。「自分は魔法使いだ。これから魔法を使う」という、宣言。ハッタリだ。そのハッタリが、相手にどんな効果を与えたのかというと…
人間は、可能性を怖がる。中学生にビビっているわけでは決してなかったが、ルーフは可能性を少し考えてみた。魔法使い 機堂 誠一が、とんでもない魔法を使うという可能性!
バッ!機堂を前に、後ろを向いて確認する。
「…」
しかし、そこには何もなかった。雪と夜空、あと地面に散らばっている雪玉だけだ。
「二重⚫︎極みィ!!!」
どこぞのアホな女子中学生と同じく、なんかのマンガで聞いたことのある必殺技の名前。その技名と共に、機堂は砕けていない方の手で正拳突きを放った!!
パンッ
「ぐぁっ…!」
フードが揺れた。
可能性の低い賭けだった。ある意味、敵を…ルーフを信じた賭けだった。
ルーフが自分の魔法を恐れて後ろを向くというのが、前提だった攻撃。それが成功した!
すぐに相手は反撃に出る。しかしその反撃の手は、いつしか尖ってはいなかった。
「このっ…!」
ブン!
やみくもな攻撃。それを避け、機堂は隙をついてまた正拳突きを喰らわせた。
「アークと比べたら、当たりやすいもんや…!」
パンッ!ルーフのお腹に当たる。
アークとの特訓が活きてきた。
しかし、ルーフはピクリとも動かず、痛がる様子もなく、ゆっくりとフードを被り直した。
「不意を突かれないとこんなものか」
流暢な外国語。
「は?なんで効いてな─」
ド ッ…ゴン!!
突然、腹部に激烈な痛みが走る!機堂には何が起きたか分からなかった。
「がはッ…!」
さっきまでいた逆方向に数メートル飛ばされている。
な…!んなアホなッ!
機堂が痛さでトびそうな意識をなんとか繋ぎながら見たもの。それは、右脚を少し上げたルーフの姿であった。
げほッ、ゴホッ。…蹴られたんか。俺は。ここまで蹴られた…なんつー蹴りや…!!
「ハァ…ハァ…」
「…殺すつもりで蹴ったんだがな。しかし、それでもう動けまい。今、殺してやる」
シャッ。シャッ。雪を踏む音がする。
ルーフが、こちらへ近づいてきている。数メートルしか距離は開いていなかったので、もう数秒で、ルーフの蹴りの射程内になってしまうだろう。そうなったら…
次、アレを喰らったら絶対死ねるわ…。
だんだんと細くなってゆく目で、ぼんやりと、近づくルーフが見えた。機堂は、もう終わりだと感じた。
「ここまでなんか…俺の、人生…」
シャッ。シャッ…。
いや!!!違うやろ!!!俺は、アイツらのとこに行かなあかん!考えろ!ここを切り抜ける方法をやない!ここを勝つ方法を!考えるんや!!!
バチン!機堂の目が大きく開いた。それは、本当に、中学一年生のクソガキの目だったが、ルーフを怯ませるに充分すぎた。
「…!なんだ、その目は。何があるという…何ができるっ。魔法の使えぬ魔法使い、力の入らない体でっ!?なんだ、この、さ…寒さは─」
機堂は、その外国語を理解できなかったが、ピッタリの返答をできた。外国語のテストなら減点無しの二重丸解答だ。ルーフの感じた「寒さ」の正体…!
「 魔法 」
初 級 浮 遊 魔 法
「グライゲン!!!!」
教科書通りの美しい発音。魔法の効果により、対象が勢いよく跳躍する。簡単な魔法。
ドン!!!!
時速、130キロメートル毎時、超!地面に落ちていた雪玉の一つが今、そのスピードを持ったエネルギーで上へ向かっていた!
カ、キー…ン。
「はうあっ……」
ドサッ。
「…」
「……」
「…ふゥ。ソコの強度だけは、大人も子供も関係無いからな。俺の勝ちや!!はッはーッ!!」
雪の上に倒れた、フードを被った男。機堂が倒したのだ。その実感が、笑いから数秒遅れてやってくる。
「ウォオォオ!!勝ッたぞおらァ!!!」
両手を天へ突き上げて、雄叫びを吠える。
勝ったんや…!俺は!…あとは、アイツらのとこへ行くだけやな。
そして、機堂はヨロヨロと、金田と秋野がいる方向へと足を進めた。




