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地球とは関係の無い話  作者: 冬不純黄昏
弐章 ARMAGEDDON QUEST
36/66

(Part35)そして にしょうが はじまった!

 あれから…というと、どこからを想像するだろうか。きっと、日常で「あれから」なんて言葉を使うときは、会話の流れがないと分からないだろう。でも、小説なら別に会話の流れでなくてもいい。小説で使われる「あれから」という言葉は、大体が「前話から」を指すだろうから。

だから、()()()()()()()()()()()()()()には分かるはずだ。「あれから」とは、壱章(いっしょう)34話からということであると。

 あれから──



──2日後の話。

「…おはよう」

「おー、おはよう」

挨拶を返してくれた金田の左頬(ひだりほお)はまだほんのりと(あか)()まっている。朝宮(あさみや)(ゆう)()保護(ほご)作戦(さくせん)の帰り、3人の勇者達はそれぞれの親から熱いビンタをもらったのだ。

 …まぁ、(ゆず)機堂(ギーク)は親を心配させたからビンタもらったんだろうけど。私だけかぁ…「なんでそんなに服が汚れてるの!?」なんて理由でビンタもらったのは。ま、どうでもいいか。今は家庭の闇を見せてる場合じゃないな。

「どうした?秋野」

「いやちょっと考えてただけ…」

 同じように頬についている赤い手形をさすりながら、学校へ向かう。

「…なぁ、考えごとっていうのは神候補のことか?」

「あぁーー……」

違う。家庭のことだ。

…しかし、そう思われても仕方がないだろう。2日前に神候補になって、それを金田と機堂に伝えたのはつい昨日のことなのだから。当然、神候補になった理由も、誰から『最初の神になるための権利』をもらったのか…つまりどの規律使いから神候補にさせてもらったのか は話している。

それでも心配してくれる人がいるということはありがたいことだった。軽々しく家庭の闇を見せつけるというわけにもいかない。

「まぁ…そうかな。でも、もう決めたことだし、後悔はない。神候補になろうとした理由も言ってるだろ?」

肩から少しズレてきた通学用カバンを背負(せお)い直す。

「それは俺も機堂も納得せざるを得ない理由だったけどもさぁ。…これから大変だな〜」

軽い溜息を一つつき、そしてまた歩く。9月も中旬。登校する道は変わらずとも、その道から見える風景は季節が少しずつ変えていった。

「やっと木曜日か〜。明日は金曜日だし、(ゆう)()ちゃんのお見舞いにでも行くか〜〜」

「お前そう言って毎日行ってるだろ」

(ゆず)は人のこと言えんだろ!あと機堂(ギーク)も。……みんな心配なんだな。それでいて、みんな、優奈自身が一番心配なのを分かってる。今日は午後から雨なんだ。私達がそばにいてやらなくちゃ」



 学校に着くと、すぐさま席に着く。

宿題を片付けるためだ。なにせ、宿題なんてものはやっていなくて当然なので、朝のこの時間にテキトウにやってしまうに限る。

シャープペンシルを走らせる。

「なぁ…柚」

「何?」

「格闘技とかってやった方がいいか?」

「ぶ、げほっ、」

金田は驚きながら水筒を床に落とす。ビシャっ!薄茶色の液体が、床の色を少し濃く染めた。

「あーもー、何やってんだよ…」

と言いながらそれを拭くのを手伝う気はさらさらない秋野を見ながら、金田は気にせず話す。

「おまっ、神になるって戦いで神になるつもりかよ!?」

その声は、怒りというよりは驚きの声だった。

「うん。…それに、私の魔法は戦闘向きの魔法じゃないし」

「世の中に戦闘向きの魔法なんてないよ」

「う…」

なんとも模範的(もはんてき)な回答だ。しかし、金田はその後こうも言う。…雑巾(ぞうきん)で、床にこぼれたお茶を拭きながら。

「暴力的な人間が魔法を暴力に使うだけ…って言いたいけど、それは魔法使いだけじゃないからな〜。料理するための包丁で人を殺すこともできるし。そういう意味じゃ、()(しん)(じゅつ)として格闘技は覚えた方がいいのかも…この先」

「おぉ〜!…まぁ、そうだよなぁ〜。少なくとも、()()()()()()()戦いたくないし」

宿題の上のペンを止め、軽くうなずく。

「実際のこと、これからは個人の力は()ッさいもんになると思うで」

ガラッ という扉を開ける音と共に聞こえたのは、機堂の声だ。

「「おわっ!」」

2人は同時に後ろへぶっ飛ぶ。

それを無視して機堂は話を続ける。ギシ…と音を立てて床を踏み込み、教室へ入る。

「一人の力なんかたかが知れとる。やから、これからは神候補とかで構成された組織やったり、少数の神候補とサポートする係の色んなやつが周りにおる組織が出てくると思うわ」

「ぎ…機堂(ギーク)

賢そうなことを言ってはいるが、彼女としてはもっと気になることがある。

「私が神候補になったの、怒ってる…?」

金田は「うわ言っちゃうなよそのこと」と思いながら目をギョッとしてみせた。

その間抜(まぬ)(ずら)を見ながら、機堂は答える。

「理由には文句言えんけどなァ…。う〜ん…なんというか、こういうときに言いたい言葉があってんけど、出てこんわ…」

そうしてから「えっと…」と少し考えるふりをした後、機堂はこう言った。

「あァ、そうそう。協力させろや」

ニヤリと笑う。

「馬鹿!無関係なお前を巻き込んじゃダメだろ…!」

そう言う金田に、機堂は最高の返しをしてやるのだった。

「いや、俺はこの星の…サースターの住人や。神くらい選ぶ権利あるやろ?…どうやら、今俺の知る神候補の中で、神とかいう変なモン任せられんのは2人しか知らんしな!!」

この言葉からは彼の気遣いとでも言うか、想いが(にじ)み出ていた。あくまでも金田と秋野のことを『親友』ではなく『信用できる神候補』として見る言い方に、誰よりも2人に()くそうとする心があった。

「ハハハ、それ言えてるな」

「はぁ…お前らには(かな)わないな…」

学校の窓から見える太陽が、あのビルの(はる)か上に(のぼ)った時、有名でもなんでもない中学校の一室で[主人公]とその[相棒]とその2人の良き[理解者]が、『パーティー』を組んだ。そう、『勇者一行(ゆうしゃいっこう)』と形容(けいよう)できるような…。

「あ、最後に残った神候補が私と(ゆず)だったらどうする!?」

「そのときは……じゃんけんの強いやつが神になる。神ってのは強いからな!」

3人だけの教室は、3人の笑い声が響いた。




 放課後。

「うっわー…やっぱり雨だよ…」

「天気予報は雨60パー…四捨五入したら0パーなのになぁ…」

「小学校からやり直せ!」

窓も閉じて屋根もあるのになぜか濡れている廊下を歩く。

 階段の下には、機堂が待っていた。

「おォー。やっぱそっちのクラスルームは遅いなー」

機動がアニメキャラクターのプリントされたピンクの傘を()って()っていた。…いくら地球に比べてオタクに優しいといっても、サースターもオタクに対する差別はある。が、機堂は賢すぎて誰も文句は言えなかった。…というわけでもない。

「少しはつつしめオタク…」

使い古された大きめの黒い傘のロックを解除しながら、秋野はそう言った。

「いやこういうグッズは使ってこそやん?」

「あ、分かるなーそれ」

「お前らには付き合ってられん…」

とにかく傘を()す。全員目的地は同じなのだ。


「いやにしてもほんまにお前らんとこのホームルームは遅いなァー」

機堂(ギーク)はいつまでその話してんの…」

あくびをかましながら秋野はてきとうそうに言った。

つられて2人もあくびをする。校則で決まっている白い靴には、泥水やらがグチャグチャついている。

「…んまぁ、あれだから仕方ない。(さい)()先生が辞めてから、新しい先生来たじゃん。その先生がクラス持つの初めてらしくて、なんかめちゃくちゃはりきってんだよ」

「あーおるなァ、そういうの。別に寝てるから関係ないけど」

「へっ」とアホみたいに鼻で笑う。

「…着いた。いやぁ…にしても、本当に近いよなぁ……。なんで今までこんな変な建物気にしなかったんだろ」

というのは目の前の(やかた)のことである。多分、名前の後ろには〇〇(てい)とか付くのではないだろうか。

 ピン、ポン。

未来感のある音が来客を知らせる。

「はい。…いらっしゃいませ。雨の中、ありがとうございます」

整った顔の、大学生ほどの者が出る。ポニーテールが揺れる。

「あ、アークさん。こんにちは」

「こんにちは」

秋野が頭を下げる。続いて金田も。

「はい、こんにちは」

そうしてお邪魔することになった。もう数回来ているので慣れてはきたのだが、やはり広い。

しかし、目指す部屋は最初から知っている。

「おじゃましまーす」

 少年少女から少しだけ成長した男女3人は、館の主人から言われているのだ。

「おぉ!秋野ちゃん!金田君!機堂君!来てくれたのか!…さ、朝宮ちゃんも待ってただろうなぁ」

廊下の途中ですれ違ったこの男こそが、この館の主人だ。こいつから、3人は「いつでも朝宮ちゃんのお見舞いに来てくれ」と言われている。

「やっ!こんなとこにいたんですか、ステイトさん!…洗濯物入れてませんよね…ボス?」

「うわ」

「ちょっとすみません。…あ、皆さん、朝宮さんのいる部屋は分かりますよね!?ちょっとステイトさんと話してきます!皆さんどうぞゆっくり…!」

こう言ってヴン・アークは別のところに行ってしまった。

「風のようやったな…」

「あぁ…」

気にせず朝宮ちゃんのところに向かう。


 ガチャリ。

扉を開けると、笑顔の朝宮ちゃんがいた。正確には、さっきのチャイムの音が笑顔にさせたのだ。

ピンポンと音が鳴るときは、母親か…彼女達がお見舞いに来るときだったから。

「まえおねぇちゃん!」

朝宮(あさみや)(ゆう)()!!」

「…ぷっ!あはは!何ー?その言い方!」

声は元気そうだったが、ベットからは出なかった。…出れなかった。

秋野から近寄って、ぎゅ… と軽く抱きしめる。

「いやでもそうだよなぁ…よく考えれば秋野って朝宮ちゃんのことなんて呼んでるかよく分からんな」

「む。…でも(みょう)()で呼ぶのから下の名前呼びに変えるタイミングってムズイんだよな意外と」

朝宮ちゃんの頭を優しくなでる。

「カップルか…!」

機堂はツッコミながら、(かばん)からお菓子を取り出す。

機堂(ギーク)、それ。…帰り道に店には寄らなかった。……お前学校にお菓子持ってきてんじゃないよ!」

「落ち着け、(ゆず)?これは財布(さいふ)(すべ)っただけや」

「つまり学校に来るときに買ってんじゃねーか!というか せめて手を滑らせろ…!」

この金田のよくわからないツッコミは3人のツボには合っていたらしい。

「3人とも笑ってんじゃない!」




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