七話
施設の入り口でカレンと待ち合わせをした。
荷物は最小、食料やなんかは山で取ればいいからと言われた。
山へは徒歩で一時間程度。その間、俺たちはお互いの身の上話をすることになった。
「私は孤児なんです。そこをエイブラム様に拾われました。それからは特になにも考えずに勇者になりましたね。最初はエイブラム様の背中を見て勇者になったのですが、いつしかこれが正しい形なんだと思うようになりました」
「正しい形って、どういうことだ?」
「そうですね。勇者とは、元々魔獣を倒して人々を守るという仕事です。ですが今となっては「そういう仕事だった」という程度の認識でしかない。今となっては人々から目の敵にされて、魔王が人々を守る責務を負っています。それならばその状況を打破するべきだと考えました。勇者となり、勇者を正す。私はそのために勇者になりました。私だけではありません。エイブラム様の信念でもあるのです」
「そんなすげーヤツだったのか……」
「四光というのは鎮事府を脅かす存在です。でも人々を脅かす存在ではないのです。魔王だって人々を守るためにいるわけではないでしょう? 本来ならば、鎮事府を守るために作られたのです。だから、勇者が人々を脅かし、それを魔王が守るという構造自体が間違っている」
「言われてみれば、そうか」
「しかしながら、それを勘違いしている勇者も多く、魔王も多い。今の世界を正すには、清く正しい勇者と、清く正しい魔王が必要なのです。その上で鎮事府から真実を引き出す。勇者と魔王が戦っている場合ではないのですよ」
「でもアーサーみたいなヤツもいる。魔王を倒すことが正義と信じ、それを楽しんでいるヤツだ。今は変わったけど、それでもそういう勇者は多い」
「だから正すのですよ。私たちで、ね」
優しい笑み。屈託ない、本当に正義を信じている。
卑怯だな、と思いながらも顔を伏せた。コイツの笑顔を見ているとこっちの心までほだされてしまいそうになる。
それから、俺の話をした。
両親が勇者で、両親がアーサーの父親に殺されたこと。セレスの両親に拾われて、従者として育てられたということ。三つしかない魔導炉の二つは、勇者の秘術によって魔導炉として機能していないこと。
なぜ話したかといえば、おそらく知っているだろうなと思ったからだ。それでも話したのは、カレンが話して欲しいと言ったからだ。
おかしなヤツだな、とは思った。今まで会った勇者の誰とも違う。誇り高き勇者であり続けようとする。それでいて優しく、それでいて強い。鎮事府が求めた勇者とは、こういう勇者を言うのではないか。
話を続けるうちに山に到着した。木々が生い茂り鬱蒼とした山の中を進んでいく。
しばらく山を登り、拓けた場所に出た。
近くの木陰に荷物を置いてから、これからどうするかという話になった。
まずは経験値増加の魔法を教わった。難しいことは特になかった。
筋肉トレーニングとは、筋繊維を壊し、それを回復させることで成り立つ。言ってしまえばそれと同じことを素早く繰り返すだけ。戦うことで蓄積される疲労や経験を加速させ、摩耗した部分を素早く修復する。ただし、魔導炉に特性を付与することはできないので効果は弱い。魔獣一体を倒した際の経験値は二割増し、といったところだろう。
荷物を置いたまま、更に山を進んでいく。この先に魔獣の生息地があるんだとか。
「ここで止まってください」
カレンに言われて足を止めた。大きな木の陰から、カレンが指差す方向へと視線を向けた。
四足で歩く三体の魔獣と、上空を旋回する二体の鳥型の魔獣だ。
「推定レベルは三百。この辺りでは弱い部類ですね」
「俺よりも百くらいレベル高いけどな……」
「それではやってみましょうか。補助は私がしますので、ライは好きなように戦ってみてください」
「好きなようにと言われてもですね。そもそも一発一発が致命傷になりうるレベル差なんだが」
「アーサーとは真正面から戦ったのでしょう? アーサーの方が、あの魔獣たちよりもレベルが高かったはずですよ?」
「そう言われてしまえばそうなんだが、魔獣は慢心してくれないしな。思考はあるけど、それは人間とは違うわけで」
「まあまあ、言うより慣れろですよ。さあ、行ってみましょうか」
ドンっと背中を押された。
その力があまりにも強かったため、つんのめるというよりもなかば転がるようにして魔獣たちの前に出てしまった。
起き上がる頃には、魔獣たちの視線は俺にだけ向けられていた。
「おいおいおい! めちゃくちゃすぎんだろ!」
カレンはおそらく、俺を突き飛ばした場所にいるんだろう。補助するとかなんとか言っておいて、出て来る気配がまったくない。
拳を構えた。
できるだけ自分でなんとかする。それしか方法がないのなら、考えることなど特にない。
レベルが百離れていても、こちらの攻撃が当たらないということはないはずだ。それにちゃんと避け続けられるのであれば、それは攻撃を無効化しているのと大差ない。
それができるかできないかと言われると、まあできない可能性の方が高いのだけれど。
経験値増加の魔法と身体強化の魔法をかけ、相手の出方を待つ。俺の方が弱いとわかっているのだろうか、魔獣たちは迷うことなく突っ込んできた。
俺の賜法は攻撃タイプではない。が、攻撃を確実に当てる、相手の攻撃を確実に避けるという部分に関してならばどの賜法よりも長けている。
大口を開けて突っ込んでくる魔獣。先頭に一体、後方には左右に二体。上空の魔獣はまだ降りてこないか。
「〈世界掌握〉!」
時間を止めて走り出す。
「〈限界突破〉!」
自分の時間だけを加速させて、素早く魔獣の懐に飛び込んだ。
その瞬間に時間停止を解除し、拳を下から振り上げた。魔獣といえども顎を狙われれば、こちらの攻撃力が弱くても機能するはずだ。
一体目の魔獣が大きくのけぞった。
もう一度〈世界掌握〉と〈限界突破〉を使って、今度は左の魔獣に対して同じことをする。左が終わったら右へと移動して顎を殴りつける。
一体につき一発叩き込み、魔獣たちの背後に回る。
が、予想以上にダメージが少ない。すぐに体勢を立て直して振り返った。混乱もしていなければ気にもとめてない。
俺が思っていた以上に強かで、思っていた以上に頭が回る。それにここは施設が近く、レベルを上げたい勇者の狩場にもなっているんだろう。だからなにがあっても動じない。おそらくそう学習したのだ。
「このままだとこっちの充電が切れちまうぞ……」
まだ三回しか使っていない。けれど三回も使ってしまった。一回の使用で一体倒せればいいが、俺の攻撃力だとそれも難しい。
先程使った三回の賜法を、もしも一体に対して使っていたら。いや、それでもその三回でも魔獣一体も倒せなかっただろう。
どうしたものかと首をひねる時間もない。こうしている間にも魔獣は襲いかかってくるのだ。




