五話
あまり無理をするのは良くないというカレンの言葉通りに模擬戦を終わらせた。
時間的にもちょうどよかったので、二人で食堂に向かった。
広い食堂にごった返す人、人、人。今までどこにいたんだよ、と言いたくなった。しかし座れないというわけでもないのでまあよしとしよう。
食事は皆同じらしく、焼き魚定食だった。シンプルイズベスト。
お盆に乗ったそれを運び席に座った。が、ここでもまた視線が痛い。
「居づらいですか?」
と、正面のカレンがそう言った。正直に言った方がいいのだろうか、それともカッコよく大丈夫だとアピールすべきか悩むところだ。でもカレンがこう言うってことはすでに顔に出ているのだろう。
「まあ、それなりに居づらいね」
「すみません、配慮が足りませんでしたね。こちらも情報を流したというわけではないのですが、どこからか漏れてしまいまして。これからはお部屋の方に食事を運びましょう。心配しないでください。食事は私も一緒ですから」
心からそう言っているんだろう。そうでなければ、こんなにもいい笑顔はできないはずだ。
「じゃあ次からそうしてくれ。って、簡単にできんのか?」
「ええ、運んでもらうので大丈夫ですよ」
「そういうの聞くとやっぱりかなり自由なんだな、ここ」
「そうですね、例えば物凄い賜法を使える方がいるとしましょう。でもその方は五体満足ではありません。そういった場合のケアも、この施設の職員の役目なのですよ」
「なるほどね」
そう言ったあとで食事に手を付けた。
長居もしたくないので、会話もそこそこに食事をたいらげた。カレンとの食事が悪いわけではなく、単純にここの空気がよくない。チラチラとこちらを見ては、あちらこちらでひそひそ話をする。大人数というのに慣れてない俺にはかなりキツイ。
食堂から出て、強化のレクチャーをしてもらうために部屋に戻った。
「そういや聞き忘れたんだが。賜法とか魔法の鍛錬はわかる。けどレベルの方は上げられないのか?」
「上げられないわけではありませんよ。でも、ライだと結構難しいのでは、とは思いますね」
「レベル上げるだけなのに?」
「レベルを上げる方法は魔獣を倒すこと、勇者や魔王や従者との戦闘が基本となります。当然施設の周辺にも魔獣は出ますので、レベルを上げることは可能です。しかし、その、ライのレベルが……」
勇者デバイスを操作して現在のレベルを確認した。
「俺のレベル? あー、今は二百四十だな。二十も上がってやがる」
「それではダメですね。施設周辺の魔獣は最低でも三百はありますから、ライ一人では死ににいくようなものです」
「マジかよ、とんでもない場所に来ちまったな……」
自力じゃまともにレベル上げもできやしない。かといって、カレンと模擬戦だけしててもそこまで経験値を得られない。
「もしも魔獣がレベル二百くらいだったらどうしてましたか?」
「あー、そうだな。一週間くらい山ごもり的なことして、ちょっと帰ってきて、また一週間こもって、みたいなことはしたかった。いくら賜法や魔法を鍛えても、素のレベルが低ければ意味がなさそうだし。ちなみにカレンはいくつ?」
「私は……五百十ですね」
「そりゃ勝てんわ」
「まあ、でしょうね。それならば私が付き添いましょう。それならば問題ないかと」
「いやいや、俺は野営する予定で言ったんだが」
「ええ、ですから私も付き合いましょう、と」
「男と女が二人で? ヤバくない?」
「うーん、なにがヤバイのかにもよりますが、レベル五百を超える私を、レベル二百ちょっとのライが襲ったりはしないでしょう。そもそも私のレベルが低くてもライはそういうことができる人ではありません」
「言い切るね」
「数日ですが、アナタのことはよくわかりましたよ。だから大丈夫です」
「さいですか、それなら明日からでも行きたいわ。できるだけ速くレベルを上げたい」
「わかりました、エイブラム様には私から言っておきましょう」
「もう一つ教えて欲しいんだが、レベルを速く上げる方法とかないか? こう、経験値アップみたいな」
「ないこともないですね。ですがアナタには魔導炉が不足しています。魔導炉が不足しているということは特性が不足しているということです。それでも使うことはできますが、そこまで劇的な変化は得られないでしょう」
「具体的な数値で言える?」
「二割増しできれべいいかと」
「ないよりはましだ、それも教えてくれ」
「わかりました。それでは、カレン先生の魔法講座といきましょうか」
ニコリと笑い、彼女が言った。とてつもなく真面目だが、とんでもなく茶目っ気がある。思った以上に物分りがよく、予想以上に融通がきく。コイツが俺のパートナーで本当に良かったと思う。
俺の強化を鍛えるために一番必要なのは魔導力の使い方だ。細やかな魔導力の動かし方を身につけるというのが当面の目的だ。
魔導力とは、淀みなく体内に流れ続けているもの。強化とはその流れを激しくしたり、時に一点に集中させることで引き起こされる。故に、一番の初歩であり、戦闘において最も期待値が高い魔法だ。
まずは魔導力の流れをしっかりと感知すること。どのように、どれくらいの魔導力が流れているのか。そして強化の際にどういうふうに強化しているのか。そして、最終的にどうしたいのか。しっかりと行えば、目や耳という局部の強化もできるようになるのだとか。
まあ、カレンいわくそこまで到達するのは時間がかかると言っていた。特に俺が器用な方ではないというのもあるだろう。
模擬戦といい魔導力の操作といい、へとへとになったところでようやく開放された。おそらく、明日からはこれにレベル上げも追加されるわけだ。自分で言い出しておいてなんだがかなり面倒だ。




