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★毎日更新★わたしのことだけ忘れるとかひどくない?燃やしたら思い出すかしら。  作者: ゆくかわ天然水


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068.旗章と水菜月

「ななお。ちょっといいか?」


放課後の自習室。

いつになく深刻そうな表情で旗章が声をかけてくる。


「どうかした?」

「今年の研究課題はどんな感じだ。元々は謙心と共同だったんだろ?」


その深草謙心はいなくなった。

ぼくの記憶から消えていたが、旗章は覚えていたのか記憶が戻ったのか。

きっとぼくにとっては、水菜月と同様に本来はというか設定上は関係しない人物だったのかもしれない。


調べてみるとニュースにもなっていた。

当時の新聞記事も見つけることができた。

しかし他の行方不明事件と同様に見つからないままだ。


「そうだったんだけど、それぞれ内容は分けていたから研究自体はそれほど問題はないよ。ただ居たはずの協力者が居なくなってしまったというのは、確かにダメージが大きい」


「ショックは大きいだろ。失踪事件はたびたび報道されてはいたけれど、まさかこんな身近で起こるとはな」

「それに一人失踪者が出ると、その周辺で別の人がいなくなることがよくあるらしいから。ぼくたちの近くでもまたあるかもしれない」

「どう気をつけたらいいんだろうな。付近の小学校が集団登下校をやっているが、誘拐というわけでもないようだが」


犯行声明も身代金要求もない。


「原因もなにもわからんしな」


もし遺体が見つかれば、それはそれで悲劇ではあるが、事故なのか殺人なのかまだ現実味がある。

警察が捜査することも可能になる。原因を突き止めることもできるだろう。

しかし忽然と消えてなにも見つからない。そのことが不気味さを増していた。



「ななお。桂川、とは知り合いなんだよな?」


話題を変えてくる。


「そうだけど」

「よく話はするのか?」

「まあときどき。なぜそんなことを気にする?」


有希葉や玲奈について話すのとは違うようだ。


「気にするというか、桂川ってあまりいい話を聞かなくてな」


旗章は部活の繋がりもあって、校内に知り合いが多い。


「人から聞いた話だけで判断していいものではないのはわかっているが、学校は休みがちであまり人と交流せず友達らしい友達もいないらしい。会話してもいまいち話が噛み合わないとか。むしろなぜお前は親しいのか」


その質問は答えが難しい。

休みがちなのは彼女がなにかをやっているからなのだろうけど、ぼくもよくわかっていない。

それについてきっと誰にも話していない、というか話せないだろう。


「話してみると真面目な印象だけどな」

「どんな話をするんだ?」


これも答えにくい。


「いや別に普通に雑談だよ」

「あんまり想像できんな」

「だけど彼女は悪い人とかじゃないよ。確かにちょっととっつきにくいところはあると思うけど、ぼくはいい人だとは思っているけどね」

「どういうきっかけで知り合ったんだ?」


旗章はあきらかに水菜月とぼくに不審なものを感じている。


「…旗章はぼくにどうしろと?」

「いやそうじゃない。ただなんというか、桂川にはなにか普通じゃないものがある気がしてな。ななおが桂川と関わることで、面倒なことに巻き込まれてはいないか?」


その読みは、あたっているといえばあたっている。

水菜月と知り合わなければ、他の人と同様になにも気づかずに、少なくとも表面的には平穏に過ごしていただろう。


「気難しさはあるかもしれないけれど、特に大きな問題があるとは思わないけどな。旗章はなにか知っているのか?」


首を横に振る。


「なんとなく妙な予感がするというだけだ。だから踏み込んだりはできない。ただお前はどう感じているのかと思ったまでだ」

「心配ないよ。彼女は信頼できると思う。ぼくも十分に理解しているわけではないけれど、彼女があまり人と交わろうとしないのは事情があるみたいなんだ。それは彼女自身が悪いというわけじゃないようで」

「ななおはそれを知っているのか?」

「ある程度は。しかもそれは…ぼくにも関係があることみたいなんだ。だから彼女とはたびたび話をしている」


旗章は返答に困っているようだった。


「水菜月を一人にしてはいけないと思う。ぼくは彼女を助けたいんだ」


旗章がため息をつく。


「あまり俺が口出ししていい話じゃなさそうだな。だがなもし、なにか厄介な…どうしようもなく困難な状況になった場合は、自分だけでどうにかしようとはするなよ」


旗章はあまり納得しない表情で「部活に行く」と言って去っていった。



確かに水菜月には友達らしい友達はいなさそうだった。

ぼくが知る限りでは、玲奈がいたく水菜月を気に入っている様子だったが、それ以外は知らない。

有希葉や五十鈴とも面識がある程度で、決して親しい間柄ではない。

玲奈についても、水菜月はやや戸惑っているようにも見えた。


学校での水菜月は存在感が薄く、かつ好印象を持たれていないのはわかっていた。

だがそれは皆が彼女について知る機会がないからというだけで、彼女自身はとても魅力的なのだが。

とぼくは思っていた。

しかし、彼女が抱えていることは人には話せない。


(どうすればいいんだろう)


たとえば水菜月が、他の生徒と軽めの話題で会話する機会があればいいのだろうか。

多少なりともコミュニケーションがあれば印象は変わるはずだ。

だけどそれは余計なお世話な気がした。


とはいえ旗章が話していたことが、多くの生徒の水菜月に対する印象なんだろう。

それは心が痛む思いがした。

彼女も「普通」だったのならもっと普通に過ごせただろうに。


水菜月を支えたい。

なんて考えが湧いてくるのだが、それは傲慢な考えかもしれない。

なにができるわけでもないのに。

彼女も本音ではそんなことは期待していないかもしれない。



自習室に一人で残る。

周りを見渡しても、今日はいつもよりは人が少ないようだった。

それでもどことなく陰気な気配を感じるのは、ぼく自身の気分が沈んでいるせいか。

窓の外は曇り空。

雪や雨が降る感じでもないけれど、灰色のもやもやしたものが日の光を遮っている。


無気力にタブレットで参考書を開く。

だけどあまりなにも頭に入ってこない。神経細胞がやる気をなくしているようだ。

こういう時はあまり頭を使わず、惰性的にただ文章に目を通す。

がしかし長続きせず。


壁に掛けられた絵画が目に入る。南欧風のカラフルな街並み。

どこかの運河か水路に小舟が浮かび、明るい笑顔の若い女性がなにかを見つめている。

青い空に白い雲。陽気な雰囲気が漂う。

気分が盛り上がっている時に見るといいかも知れないが、いまは自分との対比で余計に沈みそう。


スマホがわずかに振動して、有希葉からメッセージが入る。


『描けない(>_<)』


スランプらしい。

勉強に身が入らないし、アトリエを覗いてみるか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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