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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第三部・キャプテンパンダと愉快な仲間達号の冒険

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否認することのできないナマで撃ち込まれた戦争

否認することのできないナマで撃ち込まれた戦争



 あらゆる方角ほうがくに星々がまたたく暗い海に三列の青い閃光が走り、System Schutzstaffel巡洋戦艦の正面からやや右にずれた位置へと突き刺さる。

 Space Synthesis System 中枢閣ちゅうすうかくが、全宇宙あらゆる銀河からの攻撃を絶対安心安全に防御すると閣議決定かくぎけっていした、アンチ・エネルギー・シールドが、想定外の100%混じりっけなしの純粋な暴力によって、一瞬でアンダーコントロール状態に追い込まれ破綻はたんする。

 戦闘指揮所のデジタルカウンターが0.001%の使用率を表示する前に、アンチ・エネルギー・シールドは想定外の暴力に蹂躙じゅうりんされ屈服くっぷくおかくされ、45口径46銀河標準センチメートル砲三連装の放ったエネルギーを、ナマで艦の体内へと迎え入れた。

 艦首右半分が消滅。それでも破壊のエネルギーは消費尽くされず、さら艦の内部へと突き進んでいく。艦のはらわたを収めた中心部を通過し、それでもまだ破壊し足りず、艦尾に向けて青い閃光がすべてを食らい尽くしていく。

 巡洋戦艦の右半身にあたる右舷に存在するあらゆる物質が、その分子結合ぶんしけつごう分断ぶんだんされて形を失い徹底的な破壊へと飲み込まれていく。

 ついに青い閃光は艦の右半身を艦尾まで駆け抜け貫通かんつうし、飛び出した先に広がる星の海が生みだす虚空こくうへと消え去って行く。

 三列の青い閃光が右半身の内部を駆け抜けた後には、艦の3分の1の質量が消え去った、半身を失った死んだ魚のような姿の艦が残った。

 大半の乗組員は脳が苦痛を認識する前に、原子領域以下に分解されて宇宙空間のダークマターの中へと飲み込まれていった。

 核熱ロケットエンジン消失。艦体制御装置の大部分が消失。艦内に閉じ込めていた空気の大半を宇宙空間に流失りゅうしつさせて喪失そうしつ。乗組員の大半を消失。まだ肉体が残ってる者は、大半が赤い液体にまみれ、無重力空間をただ漂っている。あらゆる被害報告が告げるのは、この艦はもう死んでいて、ただの棺桶かんおけに変わりましたよということだった。

 いまはただの金属製棺桶となった戦闘指揮所は、非常用電源がうみだす赤い光の中で震えていた。

「Space Synthesis System中枢閣によって、全宇宙あらゆる銀河からの攻撃を絶対安心安全に防御すると閣議決定されたアンチ・エネルギー・シールドが破られるなどあり得ない……」

 どういうことだ……。これはいったいどういうことだ……。

 ただのイチ民間船を沈めようとしただけなのに、なぜこんなことになる?

 こんなことがあり得るわけがない。

 ぼんやり灯る非常灯の赤い光の中で、System Schutzstaffel 部長少将ヘル・イヌオは震えていた。

「あり得ない……。あり得ない……」

 戦闘指揮所のあちこちから、呪文のようにあり得ないという言葉が繰り返される。

 だが、現実は残酷ざんこくだ。一方的いっぽうてき積極的せっきょくてきに平和力を先手先手の対策で行使しブチ込みまくったイチ民間船が豹変ひょうへんし、逆に否認ひにんすることのできないナマの戦争を撃ち込まれたSystem Schutzstaffel艦は、いまや死ぬことが確定した瀕死ひんしの状態で宇宙空間を漂っているに過ぎない。

 しかも、この艦に脱出装置はない。

 Space Synthesis System中枢閣によって、System Schutzstaffel艦は全宇宙最強の不沈艦ふちんかんと閣議決定されている。不沈艦に脱出艇だっしゅつていなど不要。この艦が沈むこと自体が想定外。

 核熱ロケットエンジンを消失した今、この艦が帰還きかんすることは絶対にあり得ない。

 このまま宇宙空間を慣性かんせいのままに漂ったとしても、どこかにたどり着くまで酸素がもたない。

 つまり、もう絶対に助からない。いずれは非常電源が尽き、生命維持装置が停止する。戦闘指揮所に閉じ込められた空気が二酸化炭素に満ちるその時、この戦闘指揮所は永遠に我らの死体を保管する本物の棺桶に変わるだろう。

 冷たい恐怖が全身に回り、だらだらと汗が流れ出す。ひどく、気分が悪い。

 真っ赤な光に満ちる戦闘指揮所が、血にまみれた屠殺場とさつじょうにみえる。

「星の光がみたい……。生きている光学センサーはあるか?」

 イヌオは、震えながらそう言った。

「艦外光学装置が一機生きていました……。モニターに映像を出します……」

 アベガスキー6389が、生気のない声でキーボードを叩く。

 真っ赤な血の色に染まる戦闘指揮所のメインモニタに、広大な宇宙にまたたく星の光が現れる。

「ああ……。星の海だ……」

 血塗ちぬられた金属製棺桶の中で、イヌオは億千万を超える宇宙の光をみた。

 どこまでも広がる星の海。そのまたたきは無限の可能性を感じさせる。

 だが、イヌオはもうじき死ぬ。間違いなく。確実に。

 最後の瞬間に星の海をみて死ねるなら、まだいいのかもしれない。イヌオはそう思った。真っ赤な光に満ちた、屠殺場のような戦闘指揮所では死にたくはなかった。

「星の海よ……」

 かつて我が物顔でこの海を翔け、あらゆるものを暴力と権力と権威けんいでもって踏みつけ蹂躙じゅうりんし、好き放題にあらゆるものを奪い味わい尽くしたか輝かしき日々が走馬灯そうまとうのように脳裏のうりを走る。

 それが俺の人生。栄光の日々。それもすべてが過ぎ去った。俺はもうじき逝くのだ。

 イヌオの最後を彩る星の海を、何かが急速に接近してくるのがみえる。

 それは最初、億千万の星の光を背にした小さな小さな黒い点に過ぎなかった。それがやがて大きくなり、さらにどんどん大きくなり、ついにはモニターの大半を占めるようになった。

 星の海をおおい隠すそれは、巨大なドクロだった。もはや瞳のない真っ黒いふたつの穴が、ぼんやりとこちらをみつめ、下顎したあごを失ったむき出しの歯が俺を笑っているかのような錯覚さっかくを覚える。

 死神だ! 死神がこの艦を食いにきた!

 くるな! くるな! くるな! この死神め! こっちにくるな!!

 もう言葉は出なかった。恐怖にぐちゃぐちゃになった心の中で、いかに懇願こんがんしても無駄だった。

 巨大なドクロは笑い、巨大で鋭利えいり刺突衝角しとつしょうかく下顎したあごを失った口から伸ばす。もはや宇宙を漂うねじくれた金属塊きんぞくかいとなったSystem Schutzstaffel 艦を、その純粋な暴力の矛先ほこさき串刺くしざしにしていく。

 あらゆるものが物理的に破壊されていく断末魔だんまつまの悲鳴が、真っ赤に染まった戦闘指揮所の残存空気を震わせる。

 恐怖に耳をふさいでも無駄だった。戦闘指揮所自体が破壊の振動に揺れていた。あらゆるものが蹂躙じゅうりんされ、あらゆるものがゆがめられ、あらゆるものが分断され、あらゆるものがねじくれたクズに変えられていく断末魔の振動が、戦闘指揮所自体を震わせ、あらゆる場所から骨身ほねみ震撼しんかんさせる恐怖となって流れ込んでくる。

 それは純度100%の混じりっけなしの恐怖だった。どんなに言葉をこねくりまわしていじってみても、決して否認ひにんすることのできない、自身に撃ち込まれたナマの戦争だった。

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