奴らは死の棘からやってきた
本話には、未開の宇宙からやってきた野蛮人がまきおこす、残酷な現実というものが記載されております。
あらかじめご了承のうえ、お読みいただきますようお願いいたします。
奴らは死の棘からやってきた
右半身をねじくれた金属塊と化したSystem Schutzstaffel艦に突き刺さる刺突衝角がうみだす、全身が総毛立つような金属同士がこすれあう音。冷たい硬度を持った重量物が金属を破壊しねじ曲げながら、血塗られた屠殺場のような真っ赤な光に染まる戦闘指揮所に迫る音。
そして……
メタクソにねじくれ曲がった金属塊ではない、正確な工作精度で作られた機械が冷たく動作する音が戦闘指揮所に届く。
重機械が駆動する冷たい音が酷く冷酷な匂いを漂わせて響き、死の棺桶と化した戦闘指揮所に近づいてくる。
くるな! くるな! くるな! くるな!
あの巨大なドクロがこの艦に挿し込んだ棘から、死神が注入されたのだ!
やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! もう決着はついているではないか?! なぜこんな恐怖を俺に与える?!
星の海でただやすらかに死なせてくれ!
最初は遠かった銃声がどんどん大きくなっていく。クソ重たい金属が駆動するアクチュエーターの冷たい音が聞こえる。立ちふさがる耐圧扉を次々ぶち破ってくる、比喩ではない鉄拳の音がする。まだ生き残っている者たちが、つぎつぎに肉塊に変えられていく悲鳴が聞こえてくる。
近づいてくる! 近づいてくる! 俺を狙って死神が近づいてくる!
視線の先にあるのは、戦闘指揮所を外界から守る厚い装甲耐圧扉。
キュィィィィン! ズッガーーーーーン! キュィィィィン! ズッガーーーーーン!
戦闘指揮所を守る装甲耐圧扉を破壊し侵入しようとする、凶悪な音が大音量で響きわたる。
キュィィィィン! ズッガーーーーーン! キュィィィィン! ズッガーーーーーン!
何発も叩き込まれる比喩ではない鉄拳に、装甲耐圧扉が少しずつだが歪んでいく。
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ! 絶対に耐えろ!!
おまえは銀河臣民達の血税で作った最後の砦なんだぞ。銀河臣民とは違う銀河神民であるこの俺を、扉一枚へだてた向こう側にいる死神から絶対に守りやがれ!
イヌオは懇願した。華美な装飾に彩られた戦闘指揮所の艦長席で懇願した。お母様に懇願した。全知全能絶対無謬の神に祈りを捧げた。だが、我は森羅万象を司ると豪語した、総統陛下には一度として祈りなどささげなかった。
神に祈りが通じたのか、銀河臣民の血税によって作り上げた最後の砦が勝利したのか、最後の防衛線を殴り続ける鉄拳の音がやんだ。
骨身を震わせる振動が消えた戦闘指揮所の空気が、一瞬にしてゆるむ。
やったぞ! バカが! 銀河臣民の血税を吸い上げて作り上げた、採算度外視の防御力を甘くみやがって!
ざまあみやがれ! こいつは無理だとあきらめたな!
だがそれは……
誤解だった……
戦闘指揮所を閉鎖する、厚い装甲耐圧扉から火花が吹き出る!
いくつもの赤熱する刃を高速回転させる、無慈悲なヒートブレードチェーンソーが装甲耐圧扉を貫き現れ、ゆっくりと装甲を切り裂いていく。
斬り刻まれた隙間から巨大でブ厚い無骨な金属板がブチこまれ、テコの原理を使って生みだされた暴力によって、裂け目がじょじょにこじ開けられていく。
臓腑がひっくりかえるように凶悪な大音響を戦闘指揮所に響かせ、押し開かれた裂け目がじょじょに大きくなり、それはついに巨大な開口部へと変わった。
贅沢に高い天井を持ち、華美な装飾に彩られかつては壮麗ですらあった赤い光に満ちた戦闘指揮所に、全高4メートルの金属の巨人が2体、暴力の臭いをふりまきながら押し入ってくる。
「艦長はどいつだ?」
赤熱するヒートブレードチェーンソーは凶悪な赤い光を宿し、いまだ惰性で無数の刃を回転させる作動音を不気味に鳴り響かせる青い機体から、氷のような冷血さを漂わせる低い声がした。
アベガスキー、スガガスキー、キシダイスキー、すべてのナンバーズ達が、すみやかにかつ正確にイヌオを指さした。
青と赤、2体の金属製の巨人が、冷たいレンズの焦点をイヌオに合わせる。
「なぜ無警告で、カワイイパンダマークをつけた非武装のイチ民間船を撃った?」
「貴様……。いったい、何人殺したと思っている?」
イヌオは言った。
「そうねえ、存分に死んだよね。ここにくるまでに蹴ッ飛ばして踏みつけて、ぐしゃぐしゃのひき肉にされちゃった、死体の山をこさえたのはあんただよ」
悪霊退散と書かれた両の鉄拳と、左肩に六本の銃身を束ねた重機関銃を装備した赤い機体から、女の冷たい声が響く。
「私の権畜達を殺したのは貴様らだ」
イヌオは言った。
「いいや、しこたま殺したのはおまえだよ。すべては、無警告で最初に撃てと命令した、おまえの責任だ」
ヒートブレードチェーンソーと無骨な金属盾で耐圧装甲扉をこじあけた、青い機体から響く低く冷たい男の声。
「艦を棺桶にしたのは貴様らだろうがッ!」
「物理的にはな。だが道義的には違う。うなるようなゼニーを注ぎ込んで作り上げた、抑止力と称する過度な装飾品すらついている過剰な武力を、ただのねじくれまがった金属塊と肉塊に変えちまった原因はおまえにある」
ああ? 何言ってやがるんだ? この艦をこんなにしちまったのは間違いなくおまえらじゃねえか!
道義的にってなんだ? 意味がわからん。コイツの言っていることは、まったくもってわからない。
「貴様の言うことはまったく意味がわからない」
「すまんな。おまえには過ぎた話をしてしまった。いいんだ、気にするな。おまえがカワイイパンダマークの非武装船を、どうして無警告で撃ったのか? 俺はその理由がわかればいい」
「言うとでも思っているのか? System Schutzstaffelの守秘義務をナメ……」
パンッ!
と乾いた音がして、イヌオの身体の右側が急に身軽になった。
「え?」
イヌオが視線を急に軽くなった身体の右側に向けると、もうそこには右腕がない。肩から先は、ダラダラと血を流すぐしゃぐしゃの赤い断面に変わっていた。
え?
意味不明の光景に意識が混乱する。そして、意識が混濁するような激痛が脳を満たす。
「ああああああああああああああ!」
イヌオの悲鳴が、真っ赤な鮮血のような光に照らされる戦闘指揮所に満ちる。
「おまえは右に寄り過ぎた。どうだ? バランスがよくなっただろう?」
巨大な人差し指から煙をひとすじたちのぼらせる金属製の青い機体から、一切の感情を感じさせない男の声が響く。
イヌオは艦長席から転がり落ち、戦闘指揮所の床をのたうち転がりまわる。踏み潰された軟骨入りツミレ料理レベル以下に分解された右腕が作り出した赤い海を、イヌオは残された一本の腕と2本の足でもがき泳ぐ。
「好きなだけ泳ぐといい。それがお前が愛した積極的平和力行使がたどりついた、平和力に満ちたあたたかい海ってやつだ」
一切の表情を浮かべない金属製の巨人が、平和力の海をのたうつイヌオをじっとみつめる。




