小悪魔子猫になりたいにゃん
小悪魔子猫になりたいにゃん
「語尾はにゃんだ。絶対に忘れるな」
キリリと表情を引き締めたアークが、白銀の髪がキラキラ揺れるサディの頭部に、ヘッドセットマイク付き猫耳カチューシャを取り付けながら言う。
「赤い瞳の銀髪少女が、小悪魔子猫になりたいにゃん。と思うがあまり、通常の三倍カワイイ猫耳美少女のところまではきた。という設定です。絶対忘れないようにしてください」
AXEがサディのお尻につけた尻尾の位置を微調整しつつ、設定を再度サディに念を押す。
「アーク……。このドデカイ宇宙には、絶対なんてありゃしねえ。みたいなこと言ってなかったっけ……」
サディは猫耳少女に変身させられながら、ワナワナと震えつつ言う。
「んー? 猫耳美少女の語尾がにゃんじゃねえのは、ドデカイ宇宙的にも許されない感じはする」
これでよし。と、ヘッドセットマイク付き猫耳カチューシャを、いい感じにサディの銀髪ロングの上にセットしたアークが言う。
「えええ……」
サディは絶句。
「いいですか、こういうのはキャラクターのなりきり度、つまりはシンクロ率が大事なんです。それは絶対なんです」
AXEがレーダー盤に視線を落とすように、サディのお尻につけられた尻尾をみつめて言う。
「あああ……」
サディは絶句。
猫耳美少女に変身したサディを、後ろの席に座るミーマが緑の瞳に
「いいな〜」
という光を宿してみつめている。
「私がやってもいいんだけどなー」
と言っていたミーマは、実際テストで一回しゃべってみたのだが……
銀河中の乙女を潤し濡らす、ブラック・レーベル作品(通称BL)の話題が常にメインで、かつそれを規制するシンセティック・ストリームはマジデ腐っている! 腐った組織は蹴っ飛ばすべきだッ! という内容に行き着く放送になってしまい……
「これはもう、海賊放送となんら変わらないです」
とかぶりをふったタッヤの判断で、ミーマは放送開始前にあえなく降板とあいなったのだ。
「それではいってみよう!」
アークが天に向けた人差し指と親指で形作った拳銃を振り下ろす!
「ナイン・トゥー・ポイント・トゥー 92.2銀河標準メガヘルツ! RADIO ちぐにゃにゃん! NOW ON AIR!!」
ドクロマークの上に猫のシールが貼られた赤いボタンに、ミーマが半透明の拳を振り下ろす!
アイアンブルーとガンメタルグレイの世界に並ぶモニターに、お魚くわえる猫耳美少女のサムネイル画像が表示され
「RADIO ちぐにゃにゃん 初配信!」
のテキスト表示がデッカク踊る!
「にゃ……。にゃにゃにゃにゃ!?」
ちぐにゃにゃんことサディが、真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳のお目々を白黒させて、ぷるぷるぷるぷると震えている。
しーーん……
アークがすっ飛んできて、サディの猫耳ではないほうの耳にささやく。
「銀河を翔けるお仕事中のみなさん! 銀河を行き交う旅人のみなさん! はじめまして! 私はこあーくま子猫になりたくて、猫になる方法を探して銀河を翔けているちぐにゃにゃん。今日は初配信なの! よろしくね! だ。俺は省略したが、語尾は全部にゃんをつけろ。絶対に忘れるな」
サディが背筋を伸ばして、焦点の定まらない真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳で、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる、これを聞いてるリスナーがどこかでぷかぷか浮かんでいるであろう星の海を、ぼんやりとみつめて口を開く。
「ギンガヲカケル、オシゴトチュウノミナサン……、ギンガヲイキカウタビビトノミナサン……。ハジメマシテにゃ。コアークマコネコニナリタクテ、ネコニナルホウホウヲサガシテギンガヲカケテル、ちぐにゃにゃんにゃ。キョウワ、ハツハイシンナノニャ。ヨロシクにゃ」
しーーん……
「ちぐにゃにゃんは通常の三倍カワイイ量産型猫耳女の子なんだけど、今日がデビューでこういうことはなれてないから、みんなにやさしくして欲しいな。俺は省略したが、語尾は全部にゃんをつけろ。絶対に忘れるな」
アークが続けて、サディの猫耳ではないほうの耳にささやく。
「ちぐにゃにゃんワー、ツウジョウノサンバイカワイイ、リョウサンガタネコミミオンにゃノコにゃんダケドー、キョウガデビューデ、コウイウコトニワナレテにゃイカラー、ミンナニヤサシクシテホシイにゃぁぁ……」
しーーん……
「星がまたたく海をずっと航海しているけれど、星の海にお魚がいないのは悲しいな。星の海をピチピチ泳ぐ、新鮮なお魚が食べたいな。だ。俺は省略したが、語尾は全部にゃんをつけろ。絶対に忘れるな」
「ホシガマタタクウミヲズットコウカイシテイルケレド……、ホシノウミニオサカにゃガー……
焦点のさだまらない真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳。猫耳ではないほうの耳にささやかれ続けるアークの言葉を、ちぐにゃにゃんが絶対忘れてはいけない語尾にゃんで話し続ける。
ブ厚い硬化テクタイト製窓の投影スクリーンに表示される、リスナー数がパラパラと変わり、やがて次々に増えていく。
「シンクロ率、完全ゼロなの草」
「チープ草」
「チープそうに読めるの草」
艦橋前面のスクリーンに流れ始めるコメント。
サディの猫耳ではないほうの耳に、アークはささやき続ける。
「ちぐにゃにゃんワー。コウイウノナレテナイカラー。ヤサシクシテホシイノにゃー。オニイチャーン、センパーイ、ドーカヤサシクシテオクレにゃー……」
すでにどこにも赤い瞳の焦点があわなくなったちぐにゃにゃんことサディが、語尾にゃんを爆裂させる!
「でも、声カワイイ」
「このチープさがなんかくる」
「チープさがくるの草」
「なんだか危うい感じがアブナクていい」
「定番テンプレキャラのくせに、めちゃハズレてる感。草」
まばらだったコメントが、やがて読みきれない濁流に変わっていく。
頃合いか?
アークが再び手で形作った拳銃を振り下ろし、ネガを指差す。
「くそが!」
猫耳カチューシャマイクにのりかねない声でネガは応えて、$マークが描かれたボタンをポチりと押す。
ブ厚い硬化テクタイト製窓のスクリーンに並ぶアイコン達。ガスマスクアイコンのリスナーから、ちぐにゃにゃんへとギフトが贈られた演出が走る!
スクリーンを横切るお魚。
スーパーチャージ! to ちぐにゃにゃん! from NEGA!
「ハツ・スーパーチャージにゃぁー。アタシノハジメテがー、イマウバワレテシマッタノにゃー……。アリガトウ、ネガさーん、イタイノハー、サイショダケー、アトハキモチヨクナルノカシラにゃぁー……。オニーチャーン、センパーイ、カクユウゴウネンリョーおーサーン、モットモットー、ちぐにゃにゃんにオシエテにゃー。ちぐにゃにゃんヲ、ワカラセテにゃー。ちぐにゃにゃんカラノ・オ・ネ・ガ・イにゃーぁぁん……」
仕込みのリスナー、NEGAからのスーバーチャージが呼び水となったのか、ぱらぱらと飛び始めるスーパーチャージ。
「ニャンカー、ヘンナ・キ・モ・チにゃー。アタマガー、マッシロにナッテー、ぼーーーーっとシテェェ、ちぐにゃにゃん、ワカラサレテ、ナニモワカラナクナリソウにゃーぁぁ」




