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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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赤い大気のその先に

赤い大気のその先に



 

「反重力装置出力安定。船体姿勢制御問題なし。船体温度上昇非常に軽微。大気圏突入完了しました」

 タッヤが計器類を冷静に読む。

 艦橋前面のブ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がるのは、永遠に続く夕焼けに染まる広大な雲海うんかい

「雲海。分光分析ぶんこうぶんせきの結果。水によって形成される通常の雲と変わりありません」

 眼下に広がる、永遠に続く夕焼け色に染まる雲海をミーマが分析。

「よし。まさかの生物だったり、船をドロッドロッに溶かしちまう、強酸性の雲じゃなくて良かったぜ。SS艦が降下してくる前に、雲海に突入突破して、隠れ場所を探そうぜ」

 アークが眼下に広がる雲海をみつめて言う。

「キレイな光景ですよね」

 AXEが夕焼け色に染まる世界をみつめて言う。

「まだ日没前じゃないのにね」

 ミーマが緑の瞳をキラキラさせて言う。

「この先に、もっとキレイな世界があるといいねえ」

 サディは言った。

「くそが」

 ネガはいつもと変わらず毒づき、イービル・トゥルース号の操縦桿を、眼下に広がる夕焼け色に染まる雲海へと倒す。

 


 艦首のドクロが赤く染まる雲をかきわけ、海賊放送船イービル・トゥルース号は行方をくらませるため、様々な方向に舵を切りつつ雲海を降下していく。

「いったいどんな星なんだろう?」

 サディがワクワクしながら言う。

「銀河ヒッチハイクガイドによると、ほとんど無害。としか記載がありませんね」

 ミーマがモニターに表示された銀河ヒッチハイクガイドの検索結果を見て言う。

「ほとんど無害?」

 AXEがその奇妙な記述に?マークを浮かべる。

「もとより宇宙戦艦なんか建造できないような、かつての大宇宙戦争に参戦していない星は銀河中にいっぱいあるからな。そういう星のひとつなんじゃねえかな」

 アークが夕焼け色の雲でいっぱいの、ブ厚い硬化テクタイト製窓をみつめて言う。

「まったく予定外。急遽きゅうきょの惑星降下ですからね。ほとんど無害なら大歓迎ですよ。ここでドッカンドッカンやったら、それこそ意味がありません」

 タッヤが計器をみつめながら言った。

「雲海。突破します」

 ミーマの声に、全員の視線がブ厚い硬化テクタイト製窓に集中する。

 艦首のドクロが雲をかきわけた先にあったのは……

 広大な海だった。

「海だッ!」

 サディがいろめきたつ。

「魚を釣ってる暇はねえからな」

 アークがサディに言う。

「わかってまーす」

 サディは口をとんがらせる。

「着水して水深を確かめよう。SS艦が降下してくるまで、そんなに時間に余裕はねえ」

 アークの言葉に、ネガは船のスロットルをゆるめて船体を降下させる。

「反重力装置、出力安定。降下速度、着水可能範囲にむかって減速中」

 タッヤの冷静な計器読み。

「SS艦が大気圏突入を終える頃です」

 AXEがレーダー盤上で開いていたSS艦との距離から推測。

「見ず知らずの惑星の大気圏で、いきなりブッ放すには様々なリスクがあるはずだ」

 アークが静かに答える。

 反重力装置によって大幅に降下速度を減速したイービル・トゥルース号が、広大な海に着水する。

 巨大な船体によって押しのけられた海水が空に舞い上がり、ブ厚い硬化テクタイト製窓の先に、すさまじい豪雨となって降り注ぐ。

 本来、宇宙空間を航行するために設計された宇宙戦艦は、海上において自身が生み出す浮力だけでは洋上艦としての機能を果たせない。しかし、反重力装置によって艦の自重と海水との関係を変化させ、なかば無理やりに浮力を生み出して、夕焼けに色に染まる海面上にイービル・トゥルース号は浮かんでいる。

「船体。海面に着水」

 ミーマがイービル・トゥルース号の海面に到着したことを告げる。

「アクティブソナーで水深を確認します」

 AXEがアクティブソナーを海中に放つ。

「潜水可能です」

 AXEの言葉にアークがうなづく。

「メインタンク注水開始! 未知の星の未知の海。未知の深海を拝みに行こう!」

 そう言うアークに、

「この船にメインタンクはないんですけどね。反重力装置逆転率上昇。潜航を開始します」

 タッヤがいつものセリフでこたえて、計器盤を操作する。

 シンセティック・ストリームにたった一隻で対抗しうる、驚愕驚異きょうがくきょういの宇宙戦艦、海賊放送船イービル・トゥルース号を重力下の大気圏でも浮遊させる、反重力装置が逆転運転を開始。イービル・トゥルース号を引き寄せる重力を強化させ、船体が海中へと没していく。

 上甲板に鎮座ちんざする、45口径48銀河標準センチメートル砲三連装二基六門の主砲達が、夕焼け色の海へと波に飲まれながら没していく。二基の巨大な暴力装置を海がゆうゆうと飲み込み、海面はさらに艦橋へと迫っていく。やがて海面は艦橋に達して、ブ厚い硬化テクタイト製窓が海中へと没し、いままで見たことのない魚が目の前を泳ぎだす。

「おおおお〜。これはうまそうだなー」

 サディより先に言ったのはアーク。

「でも、釣りをする暇はないんでしょ?」

 食べられなくては意味がない。という表情を浮かべたサディが口をとがらせ、窓の先に広がるめくるめくお魚の世界をみつめながら言う。

「SS艦をまいたら、魚獲って食ってもいいと思うんだがな」

 アークの言葉に、サディの真っ赤なリンゴみたいに赤い瞳がキラリと輝く。

「それだ! 後でゆっくり食べてあげるからね〜」

 硬化テクタイト製窓の先を泳ぐお魚達に、サディが手をふりながら話しかける。

 サディの食ってやるぞ宣言に

「クソが」

 とはネガの談。

 存在しないはずのメインタンクに海水を呑み込んでいくかのごとく、反重力装置を逆転運転させたイービル・トゥルース号は、お魚達の世界へと深く静かに潜航していく。

 ミーマがパッシブ・ソナーに耳をすまし、海中に潜んでいるかもしれない敵対的な存在に神経をとがらせる。

 艦橋前面ブ厚い硬化テクタイト製窓は潜航が進むにつれて暗くなり、アイアンブルーとガンメタルグレイの世界から漏れ出る光に、奇妙な姿の魚達がキラリと輝く。

「500……。600……。700……。現在水深800メートル。海底まではだいぶあるみたいですが……。さらに潜ります?」

 タッヤが問う。

「そうだな。シンセティック・ストリームのクソ野郎にみつからないためには、もう少し潜るか。あいつら、中抜きだらけのスカスカ艦だからな。俺たちを追いかけて深いところまでは潜ったら……ボンッ! だ。怖くて追いかけちゃこないだろう。しかし、海底まではどれくらいあるのかは確認したい」

「詳細一切不明の惑星です。アクティブソナーは音波を発射して測定するので……。この星に潜水艦がいるのであれば、こちらの所在を明かすようなものですが……。アクティブソナー、もう一回いきます?」

 イービル・トゥルース号が水中に没して、役に立たなくなったレーダー盤から、AXEが顔をあげて言う。

「そうだな。広い銀河だ。銀河ヒッチハイクガイドに、ほとんど無害としか書かれない星だって、知的生命体がいる可能性もある。そうなれば、この星の海に潜水艦が存在している可能性もある。しかし、情報収集は必要だし、海底までの正確な距離が必要だ。アクティブいってみよう」

 アークが同意。

「それでは、アクティブいきます」

 AXEが操作盤のアクティブソナーの発信ボタンを押す。

 未知の惑星の未知の海に、イービル・トゥルース号からの海中発信音が響き渡る。

「海底までおよそ2800。周囲に潜水艦と思われる存在なし。海中に多数の海洋生物が存在。全長20メートルを超える大型生物も存在します。今のところ、アクティブソナーに対する知的生命体と思われる存在からの反応はありません」

 海中をかけめぐり反射してイービル・トゥルース号に帰ってきた、アクティブソナーの発信音から得られた情報を、AXEが読み上げる。

「全長20メートル超のおさかな!」

 サディがいろめきたつ!

「20メートルもあったら、俺たち総出でも釣り上げられんぞ」

 アークがサディをみつめて言う。

「夢はおっきいほうがいいじゃない?」

 サディがむーーっといった感じの表情で、アークをみつめる。

「確かにそうだが……。20メートルの魚は、さすがに食いきれないんじゃ?」

 とアークは言った。

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