突入! レッドゾーン!
突入! レッドゾーン!
アークがヘッドセットマイクにどれだけ呼びかけようとも、System Schutzstaffel巡洋戦艦からの応答はなかった。
一切の応答をせず、ひたすら主砲を発射し続け、イービル・トゥルース号を執拗に追跡する巡洋戦艦の姿はあまりに異様過ぎた。
「……沈める?」
沈黙に沈む艦橋で、サディがリボルバーカノンを模した主砲操作桿をみつめて言う。
「……いや、あんなものを沈めてもなんにもならねえ……」
アークはそう言った。
「悪い報せです。この宙域に、複数のSS艦が接近しつつあります」
レーダー盤をみつめるAXEが、不都合な真実を告げる。
「System Schutzstaffel巡洋戦艦の応援と思われます」
ミーマが悪い状況を分析。
「ちょっとぉ。なんでそんなにやる気バリバリなんですかぁ」
タッヤがうんざりしたように言う。
「クソが!」
とはネガ。
「どういう理由かわからねえが……。これは俺達を明確に追い詰めに来ている。とみて間違いないだろうな」
アークが瞳をどんよりとにごらせて言う。
「戦争は、各個撃破が基本じゃない?」
サディがアークに視線をうつして言う。
「はしから順に、全部沈めるか? ハサウェイから巻き上げたゼニーを、ドッカンドッカンブッ放して、ここで全部ばらまいちまうか? そうなったら、来月の俺達の給料が出るかどうか怪しいぞ? せっかくの上陸日に、ナマザカナを食えない素寒貧になりたいか?」
「ううう……。それはヤダ……」
サディが一気にしゅんとする。
「逃げちゃいけない時ってのはあるが、いまはその時じゃねえ。第一アレを沈めても、金目の物なんざろくにもっちゃいないだろうしな。今ここはバックレるのが一番いい。いいか、こいつはうまいナマザカナをたらふく食うためだ」
「はーい」
大変ご不満ながらも、なんとか納得したサディ。
「さらにSS艦。近傍の宙域に続々集まってきています」
レーダー盤を見つめるAXEが、状況の悪化を告げる。
「逃げるにしても……。周辺宙域にSS艦がいるとなると、状況が厳しいね」
ミーマが緑の瞳でアークの背中をみつめて言う。
「これはもう船長のご英断だな」
ミーマの視線を背中に受けて、アークは振り返って言う。
全乗組員の視線が、艦橋最奥の艦長席に座るイカツイ艦長服のパンダ船長に集中。
その視線を一点に受けて、伝説の航宙機械艦ハサウェイとお知り合いのパンダ船長は、あいも変わらず無理難題に至ったところでようやく話をもってくる乗組員に激怒することもなく……
「ぱふぉっ!」
と言った。
「アーク、船長はなんて?」
サディがつまらなそうに、リボルバーカノンを模した主砲操作桿をいじりながら言う。
「遮るものがほとんど存在しない宇宙空間では、シンセティック・ストリームに簡単に見つかっちまう。とにかくどこか降りれる星に降りて、そこに潜んでやり過ごせ。船長はそう言った」
「なるほど、どこかの星に降りて隠れてしまえと」
タッヤが納得ですねという感じで言う。
「あれだけの数の宇宙戦艦が、どこかの星にすべて降りてくる。ということもあるまいよ」
アークはそう言うと、ミーマに視線をうつす。
「近場で降りれる星……。方位25に、膨大な海を持つと思われる惑星があります。この惑星への降下を提案。それまでSS艦に射程内に入られないようにしてください。大気圏突入時に主砲で撃たれることは、対抗障壁領域が展開中であっても艦姿勢に影響が生じます」
操作盤を叩き情報を伝えるミーマの言葉に
「イービル・トゥルース号、全力逃走! 了解ッ!」
銀河一逃げ足の速い操縦士が、元気よくこたえる!
さすが銀河一逃げ足の速い操縦士。本気を出したイービル・トゥルース号は巡洋戦艦の射程外へと飛び出し、さらに惑星への突入降下を開始する。
「大気圏! 突入します!」
ミーマが叫ぶ。
艦橋前面のぶ厚い硬化テクタイト製窓に広がるのは、赤い大気。
集結し迫りくるSS艦隊から逃れるため、海賊放送船イービル・トゥルース号は、銀河のどこかの星の赤い大気圏へと降下を開始。
「反重力装置、出力全開」
タッヤが計器類を冷静に読む。
アークがヘッドセットマイクのスイッチを入れて、機関室に連絡。
「機関長、コタヌーン殿。本船はこれより大気圏内への航行へ移行する。大気圏への降下中にSS艦からの砲撃も考えられるため、対抗障壁領域は展開状態のままで大気圏に突入している。補助機関の能力から対抗障壁領域への心配は無用だが、降りた先の状況によっては、トンボ返りで大気圏を離脱しなければいけなるなることも考えられる。メインエンジンの面倒を頼む」
「あー、それは降りた先がまともであることを願うしかないですなぁ」
「降りてみたら地獄でした。は確かに勘弁だな」
コタヌーンの言葉にアークはうなづいてヘッドセットマイクのスイッチを切る。
「SS艦、追跡をやめていません」
AXEが背後の宇宙空間の状況を確認。
「まだ追ってくるのかよ」
ブ厚い硬化テクタイト製窓の外に広がる赤い世界をみつめつつ、アークがうんざりしたように言う。
「いったい何が気に食わないんだろうね?」
各種兵装、照準器、弾道補正を大気圏内用に切り替えながら、サディが言う。
「まったくわからん。俺達は海賊放送が商売だが、誰のものでもない宇宙空間においては、まだ法なんてものは存在しない。つまりは違法な放送である海賊放送ということ自体が成立しない。しかも、さっきやってた放送内容は、シンセティック・ストリームはバカだアホウのアスホールタロウだってやってたわけじゃねえしな。いったい何が気に食わねえのか、まったく見当がつかねえし、こっちの通信にも一切の応答もない」
アークの言葉にサディは
「まあ、私としては、向こうが手を出してくるのなら、SS艦にブッ放せる理由になるからいいんだけどさ」
と言って肩をすくめる。
「船外温度上昇……しませんね。大気圏に突入したら、大気の圧縮熱で過熱するはずなんだけどな。この星の赤い大気が特殊なのかな?」
ミーマが半透明の氷砂糖のような顔に、不思議そうな表情を浮かべる。
「ああ、そいつは対抗障壁領域を展開したままでの大気圏突入だからだな」
アークがミーマの疑問にこたえる。
「対抗障壁領域が? あれは極大威力のエネルギー兵器と相殺して、その破壊力をゼロにするものですよね?」
AXEがレーダー盤から顔をあげて言う。
「その通り。極大威力のエネルギー兵器が直撃した時に生み出す熱量に比較したら、大気が圧縮して生み出される熱量はそんなに大きくない」
アークが説明を続ける。
「つまりは、大気が圧縮されることによって生み出される熱量が、対抗障壁領域によって相殺されているということですか」
タッヤが計器類をみつめながら言う。
「だったら、対抗障壁領域をいつも展開して、大気圏降下したほうがいい気がするけど?」
サディが言う。
「あー、それな、昔、そう思って派手に事故った奴がいるのよ」
アークが言う。
「派手に事故った?」
サディが視線をアークにうつして言う。
「そう。対抗障壁領域を展開したまま大気圏降下をした奴がいてな。船外温度が上昇しないだろ? だから調子にのった速度で大気圏降下をぶちかまして……」
「地表にキスした?」
「そのとおり。それに、反重力装置をフル回転させて、降下速度を遅くするほうが効率がいい。なにより、反重力装置によって落下速度をコントロールできなければ、最終的な結末は地表にキス。宇宙戦艦ともなると、極大威力のエネルギー兵器の相殺時に生まれる強烈な熱に、艦がさらされることは前提の設計だ。だったら、対抗障壁領域を展開したままでの大気圏降下による船外温度上昇の抑制効果なんてのは、ほんのちょっとの利益しかないわけよ」
アークの説明に
「にゃんか、アーク。別人みたいだね」
とサディは言った。




