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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪
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ワクワクドキドキの仮説

ワクワクドキドキの仮説



「前衛は飛び道具持ちのあたしがやる。万が一接近されたら、近接戦闘特化のアークが殺って」

「了解」

 六本の銃身を束ねたヘヴィマシンガンをかまえて、サディのキャンディアップルレッドが、破壊とカオスと爪痕の大穴を進む。

 キャンディアップルレッドの背に、近接戦闘特化のブルーナイトメアが背をつけて、背後を警戒しながらアークが続く。

「しかし……。いったいなんだろうな? 爪痕は俺たちより先にきたお宝見つけ隊のものかと思ったが……。いまもこの宇宙戦艦の死骸の中で、ナニカが動き回っている音がする……。俺たちがここにくるまでに、生きている宇宙船は一隻だってみかけなかった。だとすると、この宇宙戦艦の死骸のなかを今動き回っているナニカは、昨日今日ここにきたわけじゃないってことになる」

「常識的に考えれば、まだ動いている原子炉駆動の自立自動化機動兵器あたり?」

 ヘヴィマシンガンの照準と探照灯を、大穴のカオスな世界に動かしながら、サディが奥に進みつつ言う。

「いかに原子炉駆動の自立自動化兵器と言えど、この宇宙の墓場に集まってきた死骸は古過ぎる。長期稼働型でも長くもって数十年程度の炉が、いまだに生きているとはちょっと考えづらいな」

 アークが背後に探照灯を走らせつつ、冷静に分析。

「だとすると、未知の動力を持つ、未知の自立自動兵器かな?」

「それもありえるが……。自立自動化兵器にしては、爪痕を残すなんてのは古風に過ぎる」

 アークがさらに冷静に分析。

「だとすると?」

 探照灯に照らされたヘヴィマシンガンの照準の中にうつる、溶けて固まりよじれたうえに、不気味な爪痕をつけられた壁をみつめつつサディが言う。

「ワクワクドキドキのモンスター説が有力だな」

「はっはっはっ。やっばり結論はそれだよね」

 サディは海賊放送中のアークがごとく笑って、モビルトルーパーの操縦席でニヤリと笑う。

 幽霊だったらめちゃ怖いけど……。モンスターなら弾が当たる。だったらぶっ放せばどうってことないからね。とサディは思う。




「モビルトルーパーでいけるのはここまでだな」

 破壊とカオスの大穴最深部までたどり着いてみつけた、機体を降りれば進めるであろう細い通路の前で、アークが言う。

 怪物はまだ登場していない。しかし、お宝見つけ隊という任務もまた、アークの頭の中にはしっかりと残っている。

 この先に進めるのは、破壊されつくした宇宙戦艦の死骸の中心へと伸びる、死体のひとつも漂っていない、人が通れる大きさの通路。

「ふたりで行く?」

 サディが問う。

「お化け屋敷には女の子と入りたいが……。ここはお化け屋敷じゃねえ、ガチのデンジャー・ゾーンっぽいからな……」

 アークが考え込む。

「アークだけで行くの?」

「そうしよう。サディはここで待機だな」

「でも、万が一の時は? ブルーナイトメアの装甲さえブチ抜ける弾を、通路の中に撃ち込んだら、アークのミンチができあがりだよ?」

「もちろんそいつはかんべんだ。俺の船外活動スーツのケーブルを持ってくれ。万が一の際には、とにかくバックレれば、俺も一緒についてくる」

「それはそれでミンチにならない?」

「まあ、そういう可能性もあるにはあるんだが……。一番は、俺が戻る道を覚えられない可能性が高いからだ」

 にゃるほど。つまりはアークちゃんの迷子防止のためのものか。とサディは納得。



 アークはブルーナイトメアから降りると、サディのキャンディアップルレッドに船外活動スーツのケーブルを結びつけると、細い通路の中へと進んでいった。

 通路入り口付近にヘヴィマシンガンを構えた状態で、キャンディアップルレッドを待機させたサディはアークの帰りを待つ。

「タッヤの言う通りだ。ここにも死体が一体もない」

 通路を宇宙戦艦の死骸最深部に向かう、アークからの通信。

「私も死体はひとつも見ていない」

 サディが返す。

「確かに不自然過ぎる。それと、通路にもやっぱり例の爪痕があるな」

「なんだろうね?」

「通路にまで傷をつけるとなると……。もとよりこの戦艦に搭載されていた自立兵器とかじゃねえな……」

 アークはそれでも通路の先にどんどん進んでいる。

「お宝の匂いはする?」

「んー、それは聞かないでくれ。まずは行けるところまでまっすぐ進む」

 アークの返答に、お宝の匂いはしないのか。とサディはため息をつく。

 しばしお互いに無言になって、サディは周囲の警戒にあたり、アークはどんどん戦艦の最深部へと進んでいく。

「マジカ」

 しばらく続いた沈黙の後に、アークが口にした言葉に、サディがぴくっと反応する。

「なに?」

「宇宙ってスゲエな」

「いったいなに?」

「くそがぁぁぁッッ!!」

 突然、アークの人格がネガに入れ替わったのかと思う罵声と鈍い音が響き。サディの鼓膜を震わせる。

「なになになになに!?」

 サディが無線に向かって叫ぶ!

「サディ! 悪霊退散鉄拳制裁大至急用意! ヘヴィマシンガンは撃つな! 俺に当たる可能性が高い! 正確な時間はわからないが、もうじき通路から俺が飛び出てくるはずだ! 俺は見逃せ! 絶対に見逃せ! そんでもって、次に出てきた奴に、全力で悪霊退散鉄拳制裁を打ち込むんだ! こいつは絶対に見逃すな! いいか!? わかったか!?」

「なになになになになに!?」

「ええい! もう一度言うぞ! 悪霊退散鉄拳制裁大至急用意! ヘヴィマシンガン絶対禁止! 跳弾が俺に当たる可能性が高い! もうじき通路から俺が飛び出てくる! 俺は見逃せ! 絶対に見逃せ! 全身全霊でもって俺を見逃せ! そんでもって、次に出てきた奴に、全身全霊全力で悪霊退散鉄拳制裁を打ち込むんだ! こいつは絶対に見逃すな! わかったか!? サディ!」

「え、えーと。つまりアークは殴るな! アークの次に出てきた奴をぶん殴れ?!」

「そうだ! それでいい!」

 サディが悪霊退散鉄拳制裁をブチ込むために、その照準を通路出口にあわせる!

 その直後、まるでロケットでもついているのかという速度でアークが通路から飛び出してくる!

「これはガマンッ!」

 優秀な戦闘要員であるサディは、引き金を引いてアークをミンチにするのをなんとか耐えるッ!

「ガマンなのかよッ!?」

 というアークの叫び!

「なんじゃ?! これぇぇぇぇっ!」

 アークの次に通路から飛び出てきたブツを照準にとらえた瞬間、サディはそう叫んで、悪霊退散鉄拳制裁パンチのトリガーをためらいなく引いた!

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