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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第二部・アイアン ボトム サウンドの怪

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MELT IN THE ABYSS

MELT IN THE ABYSS



「本当に行くのか? タッヤ」

「本当に行きます。アーク」

 大銀河の有名巨大人型兵器メーカー、日の出産業製のマシーンをアークがいじりまわして、もはやオリジナル機体になってしまった、海賊放送船イービル・トゥルース号船外活動用人型重金属製マシーン、モビルトルーパーの操縦席にタッヤは乗り込んでいた。

「いかに財務的にピンチと言えど、経理担当のタッヤが直々に前線に出ていくことはないと思うのだが……」

 タッヤの座るモビルトルーパーの操縦席に、アークの冷静な声が響く。

「財務的にピンチということは、この船最大のピンチと言って過言ではありません。ということは、経理担当の私としても、ここは崖っぷちのギリギリなのです。こうなったら、財務状態を一気に改善するというそのお宝をこの手でつかまないと、もうどうにも気が済みません」

 タッヤの返答を、同じくモビルトルーパーの操縦席で聞いたアークは

 ああ、これはもう止めても無駄だな。との結論に達していた。

「よし、わかった。俺とサディがいるから、よっぽどのことがない限り大丈夫だろうしな。そして、タッヤよ。その様子では、幽霊はまったくもって怖くない。ということでよろしいか?」

「幽霊なんかより、底が抜けそうな財布のほうが何倍も怖いですからね」

 タッヤの声にアークは、ふむん、確かにゼニー系の恐怖ってやつはハンパねえからな。とうなづく。

「それでは、イクト・ジュウゾウお宝見つけ隊隊長がさきほど発見した、お宝が載っていそうな艦にGO TO !! アーク、ブルーナイトメア! いくぞ!」

 アークの声にあわせて、アークの搭乗するモビルトルーパー・ブルーナイトメア(タッヤいわく経済的に青色吐息モノの悪夢)が両足を置くカタパルトが火を吹き、アークと青い重金属製人型マシーンを格納庫から一気に宇宙空間へとぶっ飛ばす!

「サディ。キャンディ・アップルレッド! でます!」

 悪霊退散と書かれた両の鉄拳と、怨霊滅殺と銃身に書かれた悪霊封殺儀式をほどこされたヘヴィーマシンガンをたずさえた、通常の三倍は可愛くPOPなキャンディアップルレッドカラーのゴツいイカツイヘヴィーメタルマシンが、火を吹くカタパルトに乗って宇宙へと飛び出す!

「タッヤ。Get The Zenny! いっきまーす!」

 発見したお宝を回収するべく、バックパックを大型キャリアーに変更し、さらにその両腕をあらゆる物をガッチリつかむため、凶悪な大型クローに換装した、緑のモビルトルーパーGTZ財務改善カスタムが、足元のカタパルトから火を吹いて、お宝が待つ宇宙空間へとタッヤを飛ばす!

  

 

「ズイブン、ソダチヤガッタナ」

 全高4銀河標準メートルの重金属製人型マシーンになってやってきた、アークとサディとタッヤに、イクト・ジュウゾウはそう言った。

「あれか? 俺達より先にみつけちまった、諸条件に当てはまる艦というのは?」

 アークはブルーナイトメアの指で、宇宙空間に浮かぶ巨大なメカくじらの死骸のような艦を指差す。

 なんと都合のいいことか、アークがここから先はチョロいと言った通り、イービル・トゥルース号の到着前にジュウゾウ達は、目的の艦を探し当てていた。

「アレダ」

 確かに、熱核ロケットエンジン三基、口径まで目視では正確にはわからないが、三連装砲三基九門。連装砲四基八門。宇宙戦艦の特徴である巨体に比較するとやや小柄といっていい大きさ。武装の特徴と巡洋戦艦の条件が一致する艦だ。さらにデザインから推測するに、第19次宇宙大戦頃のものっぽい。当たりだな。アークは確信する。

「バラバラに艦内を探し回ったほうがはやいが……。何があるかわからんからな。戦力的にバランスがとれる、俺とタッヤ。サディとジュウゾウの2チームに分かれて探そう。俺とタッヤは艦首方向から、サディとジュウゾウは艦尾のケツからいってくれ」

「ヘンセイヒョウヲダシヤガレ」

「了解」

「とっととお宝をみつけて、こんな宇宙の墓場とはおさらばです」

 アークのブルーナイトメアとタッヤのGTZがタッグを組み、サディのキャンディ・アップルレッドとジュウゾウがタッグを組み、巨大なメカくじらの死骸のような艦へ侵入するため、艦首と艦尾にわかれていく。



 アークとタッヤは、お宝が眠っていると思われる艦の死骸の艦首にあいた大穴の近くに、モビルトルーパーで降り立った。

「バッコンバッコン打たれてドッカンドッカン穴が開いているからな、ここから艦内に入ろう」

「ボッコボコですよね」

「スコスコにやられたな。こりゃ」

 操縦席のモニターには、艦首にあいた真っ黒な大穴。

「お宝まで砲撃でスコスコってことは……」

「うーん。莫大ばくだいな。だからな。大部分はダイジョブだろ」

「そういう意味の莫大ばくだいではないと思うんですが……」

 アークが機体の探照灯で真っ黒い大穴を照らす。内部には極大威力のビーム兵器でめちゃくちに溶けた後にねじくれて固まった、悪夢のような破壊された世界。

「まあまあ、艦内を捜索すればわかるって」

 アークはそう言って、よじれ狂ったまま固まった金属を手で押して、モビルトルーパーを艦内に開いた大穴の中へと進める。

「障害物をつかんで移動できるのは、推進剤の節約になっていいですね」

 タッヤがアークの後に続いて、周囲の障害物をゴツいクローで掴んで機体を移動させながら言う。

「推進剤が切れたら二度とイービル・トゥルース号に戻れず、ここの死骸どもの仲間入りだからな」

 真っ黒い大穴の中で、アークの声が不吉に無線から響く。



「うっわ……」

 サディは艦尾に開いた大穴の先にのびる暗闇に、表情を歪ませていた。

 通常の三倍可愛いポップに赤い人型機動兵器、キャンディアップルレッドの探照灯が照らし出したのは、艦尾の核熱ロケットエンジンがしっちゃかめっちゃかに破壊されたカオスの大穴。

「うーん……。これは間違いなく、たーくさん死んでるね……」

 サディがモビルトルーパーの操縦席でつぶやく。

「コワイトイウナラ、カンテイショヲダシヤガレ」

 すでに大穴の中に入ってサディを待つ、イクト・ジュウゾウがサディをそくす。

「うーん……。ダイジョブだよね。幽霊が出てきたら、アークが悪霊祓いの儀式をしてくれた、このヘヴィマシンガンで撃てばいい……」

 サディはキャンディアップルレッドの、まだ安全装置がかかっているトリガーに指をかけて自分を安心させる。

「トットトコイヤ、トクソクジョウヲソウフスル」

 ギンギラギンの銀色メタルボディのイクト・ジュウゾウが、手招きしてサディをそくす。

「近づかれたら、悪霊退散鉄拳制裁で天国までぶっ飛ばす……」

 サディはモノアイを三つ搭載したターレットの前に、機体の拳を持ってきてみつめる。

「悪霊退散」

 と書かれた、ゴツいヘヴィーメタルな拳。

 よし……。なんだかだまされているような気もするけれど……。

 めっちゃ怖いけど! 幽霊をみてみたくもある!

 サディはねじくれ曲がった残骸に機体の手をかけ、真っ黒い破壊とカオスの大穴についに足を踏み入れた。



「なんか変ですね……」

 タッヤが艦に開いた大穴の中を、アークの後を追いながら言う。

「何がだ?」

 機体の探照灯で大穴の中を照らし、ゼニーめの物がないか探すアークが返す。

「あんまり言いたくないですけど……。死体がひとつも見当たりません」

 タッヤが操縦席の中でぶるっと体を震わせて言う。

「そうだな。確かに一体もないな」

 アークがゼニーめの物から、死体に標的を変えて大穴の中を探照灯で照らす。光の中に現れるのは、溶け落ちねじくれ曲がった金属ばかりで、一体の死体もない。

「ここに来る前に、永久フリーズドライの死体さんがいたじゃないですか。なのに、この艦内には死体さんがひとつもいらっしゃらない。これはなんだかとっても変ですよ……」

 タッヤの声が無線から響く。

「うーむ。確かにそうだが……。死体をみつけてもゼニーにはならんぜ?」

 アークの言葉。

「ゼニーにはなりませんけど……。とにかくこれ、なんか変なんですよ」

 タッヤの声に不安な響きが漂いはじめる。

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