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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦

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WIN・WINの結末

WIN・WINの結末




「SSS宇宙戦艦、核熱ロケットエンジン停止。逆噴射スラスターの稼働を確認」

 ミーマがメインモニタに映像を出す。

 イービル・トゥルース号の船首に描かれたドクロと睨み合いをしていた、SSS宇宙戦艦の艦首から後進用スラスターが噴射ふんしゃされる。イービル・トゥルース号を追跡するSSS宇宙戦艦の追跡速度が低下し、やがて静止。そこからさらに後進用スラスターを噴射し続け、ゆっくりと後退していく。

 逃走中に実体弾の発射による急速180度回頭を行い、現在はメインエンジンの推力を停止しているイービル・トゥルース号は、SSS宇宙戦艦を船首のドクロがみつめたまま、宇宙空間を慣性かんせいによっていまもかなりの速度で後退し続けている。

 イービル・トゥルース号とSSS宇宙戦艦との距離はどんどん開き、やがて互いの主砲の射程外へとだっするだろう。

「助かりましたぁっ。急速回頭用の実体弾と主砲3発で済むなんて、おんの字の中のおんの字ですよぉ。一時はモッキンバード星での稼ぎを、全部パーにしちゃうかと思いましたよ〜」

 船の懐事情ふところじじょう大変穏便たいへんおんびんな形で収まった安堵あんどの声を、タッヤが漏らす。

「あ・た・し・は、ドッカンドッカン撃ちたかったんだけどね」

 サディがむーーっと、不満そうな表情で言う。

「主砲三連装一基発砲の時点で、もうドッカンドッカンドッカンぐらいは撃っています」

 レーダーの中心から離れていく光点からようやく目を離し、AXEがため息をつきながら言う。

「くそがぁぁぁ……」

 ドデカイミスター宇宙戦艦に真っ向勝負を挑む急速180度回頭の時から、クソがクソがクソがクソがと叫んでいたネガが、ようやく静かにクソがと毒づく。

「機関長、コタヌーン殿。万が一がありえるので、補助動力機関への対抗障壁接続継続をたのむ。対抗障壁解除は互いの射程外への離脱を確認してからにする。対抗障壁解除後、本船は未開の宇宙へ向かって航行を再開の予定」

 アークがヘッドセットを操作して、艦尾の機関室につめるコタヌーン機関長に連絡。

「あいよぉ。去り際にドカン! じゃたまりませんからなぁ」

「うるわしき本船のケツを、ようやくドッカンドッカンから解放してやれたな」

 アークはそう言うと、コタヌーンが笑うのを確認して通信を切った。

 アークが席から立ち上がって振り返る。

「交渉。ありがたきであります。船長」

 アイアンブルーとガンメタルグレイの艦橋の最も上座かみざ鎮座ちんざする、ゴツい艦長服に身を包んだパンダ船長に、親指と人差し指で拳銃を作る、あの独特の敬礼をアークがする。

「ぱふぉっ」

 アークの敬礼にパンダ船長は敬礼を返すこともなく、それだけ言うと再び思慮しりょ深き沈黙へと戻る。

「それにしても、最初から最後まで一切話は噛み合いませんでしたが、結果的には言うことを聞く相手でしたね」

 タッヤがのびをして、羽をひろげてこわばった体をほぐす。

「あのままやりあったら、ドスゲエ面倒なやっかいごとに足を突っ込むことになるのはあちらさんだからな。捏造忖度ねつぞうそんたくしてでもことなかれ主義、ってやつをみごとに踏襲してくれたってわけよ」

 そう言ってアークものびをする。

「でも、どうするんでしょうね? 手ぶらで帰ったら……オトスさんでしたっけ? さすがにマズイんじゃないですかね?」

 タッヤがご親切にも、ドデカいミスター宇宙戦艦殿のご心配までして差し上げる。

「ダイジョブ、ダイジョブ。急速180度回頭用の実体弾は、はたから見れば船が爆発したみたいにみえるからな。バッチリ映像撮っているだろうから、うまーいこと編集して、あの船は爆散しましたって報告すれば、それ以上誰も追求なんかしねえよ。なんてったって、バッチリ撃沈したエビでやんすってものがあるんだからな」

 アークがあくびをしながら言う。

「エビでやんす……」

 アークの意図的なのか本気なのかわからない言い間違いに、AXEがクスクスと笑う。

「どっちにしろ、ドッカンドッカンぶっ放すばっかで、こっちが撃ち返してくるなんて想定もしていなかったんだろうよ。自分が殴られないで済むのなら、理由なんざなんだっていい。そこに俺たちは、食いつきやすい餌をぶらさげてやっただっけってことよ。ねえ、船長?」

 アークがパンダ船長にふりかえって言う。

 パンダ船長はアークに答えることなく、艦橋最奥の艦長席でイカツイ艦長服姿で鎮座し沈黙する。

 その瞳はつぶらだが、目の前に広がる艦橋と、ぶ厚い硬化テクタイト製窓の先に広がる、広大な宇宙をみつめるまなざしは、いつも人ならざるほどの存在感をしめす光を宿す。あらゆる些事さじと大事に、なにひとつ動揺どうようすることもなく、常に冷静に威厳いげんある、ぱふぉっを口にする。パンダ船長のその威厳いげんの前に、カスヒデェのヘル・オチタは屈し、完全にその闘争の牙を抜かれたのだった。

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