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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
モッキンバード侵攻作戦

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キシダイスキー3421の忖度

キシダイスキー3421の忖度




 ……まずい。これはまずい……。

 半ば白目をむいて、あんぐりと口を開きっぱなしのオトスをみて、キシダイスキー3421は歯ぎしりした。

 この調子ではやがて前後不覚におちいり完全にイカレたオトスが、正体不明の宇宙戦艦とドンパチやらかしてこの主力艦をオシャカにする可能性が頭に浮かぶ。もしそんなことになったなら、この艦の乗組員全員は艦をオシャカにした責任を追求されるどころか、あらゆる汚点を全身と経歴に塗り塗りされて、社会的に完全に死ぬことは間違いない。それはつまり、この俺の人生が完全にアウトになると言うことだ。

 ようやく潜り込めたSystem Schutzstaffel。銀河臣民どもから巻き上げた消費税を流用した、官房機密費から出ている高い給料のおかげで、俺には妻もいるし子供もいるし愛人もいるし応援している少女もいる。そして家のローンもまだまだあるし、屠与太(トヨフト)自動車の最高グレードなアフォファードとヴァカファイヤーのバカッ高いローンもある。ここで人としての正常さと引き換えに得た、System Schutzstaffelの高給をフイにするのはまったくもって許されない。

 俺の収入が途絶えたら、愛人と応援している少女の明日はどうなる? 最高グレードのアフォファードとヴァカファイヤーはどうなる?

 俺はいったいどうすればいい?

 オトスの半ばむいた白目がどんどん充血していくのが見えた。

 これはヤヴァイ……。

 実は絶体絶命の危機に人は立たされると、およそ正常とは言えない判断を得てしてするものだ。

 いままであったあらゆる事例が頭に浮かぶ。

 正確な情報がまったく出回らない、変な呼吸器症候群がSpace Synthesis Systemで流行りだした時もそうだ。奴らは誰一人まともな判断をしなかった。そんな事例がSpace Synthesis Systemにはいくつもあり過ぎるくらいにあるのを、誰も口にはしないが知っている。

 だからオトスがイカレちまって、どう考えてもまともではない性能を持っている宇宙戦艦とドンパチやる。そういうアホな自滅的選択を選んでしまう可能性は多分にある。第一、普段からオトスはまともではない。これはヤヴァイ。

 だが、オトスのご乱心を踏みとどまらせるヤツがいるだろう?

 周囲を見回す。

 泣く子からも消費税を巻きあげて、自分の腹に収めてホクホク顔するほどの肝っ玉をみせるナンバーズどもが、いまは全員どいつもこいつも口をあんぐりあけていつつも、当たってもいやしないのにはじめて撃たれた恐怖にガタガタ震えていやがる……。

 ダメだこりゃ……。

 あいつら、妻も子供もいるのかもしれねえが、愛人と応援している少女まではいないんだろう。だからだよ。こういう時に、冴えた判断ってのができないんだ。

 応援している少女から、お札の代わりにいただいたお礼の手紙を胸ポケットに入れたまま、こいつをクリーニングに出しといてくれと妻に頼んでしまうような、ギリッギリの命のやりとりってやつを、こいつらはやったことがねえんだ。

 ……だから、こういう時にビビっちまう。こういう時に、クソの役にも立ちゃしねえ……

 まあ、もしかしたら、何人かはさっきの一発で本当にクソをちびるくらいはしたかもしれんが……

 ならば、俺がやるしかない!

 キシダイスキー3421が、横にいるナンバーズの足を蹴っ飛ばし、

「メインモニタのパンダを消せ」

 と耳打ちする。

 予想以上の想定外のケツの穴が凍りつくような威嚇射撃を受け、心神喪失状態のナンバーズは蹴り飛ばされて言われるがままに、微動だにしないパンダの映像が映るモニタを消した。

「さっきの、実体弾発射時の映像をループで流せ」

 さらに隣のナンバーズを蹴っ飛ばし耳元にささやく。

 メインモニターに、爆煙の中に消える所属不明の宇宙戦艦の映像が繰り返し流れ出す。

 そしてキシダイスキー3421は、自席から立ち上がり叫ぶ!

「やったぞ! 所属不明の宇宙戦艦弐番艦を撃沈したぞ!」

 その声は沈黙に包まれた過度に華美な戦闘指揮所に響き渡った。

「みろ! アベンシゾー級森羅万象宇宙戦艦の圧倒的な平和力を! やつらは宇宙のチリになったぞ!!」

 爆煙に包まれる所属不明の宇宙戦艦がうつるモニターをキシダイスキー3421は指差し、さらに叫ぶ!

 メインモニターに表示される、繰り返し爆煙の中に消えていく所属不明の宇宙戦艦の姿。

 繰り返されるその映像は、何度も何度も映しだされ、沈黙するナンバーズとオトスの脳にゆっくりと浸透していく。

 繰り返せ。繰り返せ。100回くらい繰り返せば、こういう認識が主流派で正当だとなるのが、Space Synthesis Systemだろうが。

 キシダイスキー3421であるこの俺自身が繰り返し言ってやる!

 愛人と応援している少女と、屠与太(トヨフト)自動車のバカっ高い最高グレードのアフォファードとヴァカファイヤーを守るために!

「俺達はモッキンバードタウンを! モッキンバード星を! Space Synthesis Systemを守ったんだ! 俺達は英雄になったんだ!」

 静まり返る純白と鮮烈な赤とドブラックな壺鉤十字の戦闘指揮所に、キシダイスキー3421の言葉がさらにさらに繰り返される。

 撃沈……。撃沈……。英雄……。俺達は英雄……。

 沈黙するナンバーズとオトスの脳に、あまーい言葉が繰り返し流れ込んでくる。それはすでにグツグツに煮えたぎった後にグラグラに揺れまくった脳を、急速に染めていく。

「こいつは昇給間違いなしだぞ! 俺達全員、銀河神民栄誉賞ものだ! この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ! Space Synthesis Systemバンザイ! System Schutzstaffelバンザイ!」

 全身全霊のバンザイを繰り返しながら、両隣のナンバーズを蹴っ飛ばし、

「貴様は不敬者か非銀河神民か? それとも強酸主義者なのか? そうじゃねえなら、貴様もこの栄光を全身全霊でたたえやがれ」

 とキシダイスキー3421がささやく。

 両隣のナンバーズがのろのろと起立。

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ…… Space Synthesis Systemバンザイ…… System Schutzstaffelバンザイ……」

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ…… Space Synthesis Systemバンザイ…… System Schutzstaffelバンザイ……」

 さらに隣のナンバーズ達が立ち上がる。

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ。Space Synthesis Systemバンザイ。System Schutzstaffelバンザイ」

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ。Space Synthesis Systemバンザイ。System Schutzstaffelバンザイ」

 メインモニターには、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し流れる、爆煙に包まれる所属不明の宇宙戦艦の映像。

 さらに隣のナンバーズ達が立ち上がる。

 またひとり立ち、またまたひとり立ち。またまたまたひとり立ち。気がつけば、純白と鮮烈な赤で彩られるドブラックな壺鉤十字の戦闘指揮所は、万雷の歓声と拍手に包まれていた。

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ! Space Synthesis Systemバンザイ! System Schutzstaffelバンザイ!」

「この偉大なる功績を成し遂げた、ヘル・オトス親衛隊大将・オーバーグルッペンフューラー閣下バンザイ! Space Synthesis Systemバンザイ! System Schutzstaffelバンザイ!」

 その力強い称賛の嵐の中で、半ば白目をむいていたオトスの目に焦点が戻る。

「すまん……。所属不明の宇宙戦艦を叩き潰すなどどいう、森羅万象宇宙戦艦には退屈に過ぎる任務ゆえ……。しばし、居眠りをしていたようだ……」

 目の前にあるのは、爆散する所属不明の宇宙戦艦の映像と、万雷の歓声とバンザイ。

 ああ……。夢か。

 オトスは理解した。

「私は不愉快な夢をみてしまっていたようだな」

 オトスは頭を振り、さっきまでみていた夢の残滓(ざんし)を振り払うと、万雷の歓声をあげる部下にそう言った。

「カピスコ(わかりました)!!」

 万雷の歓声の中心にいるキシダイスキー3421が、拳を天に突き上げ、オトスが居眠りして夢をみていたことをわかりました。つまりはカピスコと意思伝達する。

「私が居眠りし、悪い夢をみていたこと、君が理解したことを朕(ちん)は理解しておるよ。つまりは、カピスコ」

 満足げに片手をあげて、オトスは万雷の歓声の中心にいるキシダイスキー3421に答える。

「カピスコ」

「カピスコ」

「カピスコ!」

「カピスコ!」

 権畜ナンバーズ達が、ヘル・オトス新鋭大将・オーバーグルッペン・フューラーに

「わかりました(カピスコ)」

 の大合唱で答える。

 そしてその声は、いまだつなぎっぱなしの公開チャンネル通信へと流れてもいた。だが、そんなことを知っているのは、この万雷の歓声を生み出した、本物の修羅場をくぐったことのあるキシダイスキー3421のみ。

 オトスは自席から立ち上がり、眼下のナンバーズ達に言う。

「System Schutzstaffel主力森羅万象宇宙戦艦は、所属不明の宇宙戦艦を撃沈した。これは積極的平和力行使の結果もたらされた宇宙の平定であり、つまりそれは平和である。ご苦労であった。任務は終了した。帰ろう。我らの星に。System Schutzstaffel主力森羅万象宇宙戦艦、ガース・ヒーデはこれより転進し、領宙域へと帰還する! だが、油断するな! 所属不明の宇宙戦艦三番艦がいつまた現れるかもしれん! 外宇宙に艦首を向け、平和の敵に最大の警戒を払いつつ……。帰ろう! 我らが宇宙に!」

「カーピスコ!(わかりました)」

「カーピスコ!!(わかりました)」

「カーピスコ!!!(わかりました)」

 俺はやったぞ! うまくやったんだ!

 拳を突き上げカピスコの大合唱を続けながら、キシダイスキー3421は心からほっとしていた。

 よし、今夜は応援している少女と祝杯だ!! そして、この調子なら、もっともっと応援を重ねてふたりの関係を加速することもできるかもしれん! そしてこれからはもっと気軽に検討に検討を重ねて少女に要求するのではなく、有事のさいにはふたりのために、もっと気軽に少女を病院に行かせて不都合な不具合を解決できるかもしれん! これはめでたい!

「カーピスコ!(わかりました)」

「カーピスコ!!(わかりました)」

「カーピスコ!!!(わかりました)」

 ナンバーズ達のわかりましたの大合唱とともに、System Schutzstaffel主力森羅万象宇宙戦艦ガース・ヒーデは、その輝かしい戦果に満足し、自身の領域である宙域に向かって、転進を開始した。

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