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海賊放送船イービル・トゥルース号の冒険  作者: 悪魔の海賊出版
第三部・キャプテンパンダと愉快な仲間達号の冒険

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俺はおまえを救いにきた

お食事中にはいささかふさわしくない表現、及び残虐な表現が少々ございます。

あらかじめご了承の上、お読みくださいますようお願い申し上げます。

俺はおまえを救いにきた



 真っ赤な平和力で満たされたあたたかい海を、イヌオは絶叫しもだえのたうちまわった。

 ビシャビシャと音をたてて飛び散る、真っ赤な平和力の飛沫しぶきを浴びて、権畜達けんちくたちふるえあがった。

「ちょっと前の自分が懐かしいか? 俺は優しいからな。左もブッ飛ばして、昔のバランスに戻してやってもいいんだぞ?」

 青い金属製の巨人が指を向ける。

「やめろ! やめろぉぉぉ!」

 パンッ!

 再び乾いた音が響く。

 イヌオの左側が急激に軽くなる。

「ああああああああ!」

 左足のひざから先が消えていた。

「ねえ、なんで、カワイイパンダマークのイチ民間船を警告なしで撃ったの? って聞いているんだけど?」

 六本の銃身を束ねた重機関銃からひとすじの煙をたちのぼらせる、赤い金属製の巨人から女の声が冷酷に響く。

「おい、バランスがよくなっちまったじゃねえか」

 パンッ!

 イヌオの左側が急に軽くなる。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

 左腕が消えていた。

「どうだ? 懐かしいだろう? 右側にかたより過ぎた。ちょっと前のおまえに戻してやったぞ」

 非常用電源のにぶい赤い光の中で、イヌオから吹き出す液体が作り出す平和力の海が、どんどん深さを増していく。

「だめだよ。これじゃあ。政治的公平性ってやつにかけちゃうもん」

 パンッ!

 イヌオの右側がまた急に軽くなる。

「うぐっ……うぐっ……うぐっ……」

 イヌオの右足の膝から先が消えていた。

「素敵でしょ? 積極的平和力の行使って? ねえ、あなた、すっごくキモチイイんでしょ? だってこれは積極的な平和貢献活動へいわこうけんかつどうなのだもの。非武装のイチ民間船を撃ったならず者に積極的に平和力を行使して、あたしはいま素敵な平和をどんどん生み出しているの。それはとっても正しい行いなんだもの。だから、涙を流してよろこんでくれるくらい、あなたはキモチイイに違いないよね?」

「で? System Schutzstaffelの守秘義務がなんだって?」

「もう一度だけ聞くからね。どうしてカワイイパンダマークのイチ民間船を、無警告で撃ったの?」

「あぐ……。あぐ……」

「ちゃんと話せ。ちゃんと話したら、俺がおまえを救ってやる」

 言ったら……。俺を楽にしてくれるのか……

 言葉にならない声をあげていたイヌオの口が、ガクガクと震えつつも言葉をつむごうと動き出す。

「め……、命……令だ……から……だ」

 積極的平和力の行使によって生み出された、平和力でみたされたあたたかい海に横たわったイヌオが、涙を海に追加しながらかすかに言った。

「なんだって? もう一度言ってみろ」

「命、令、だからだ……」

「いったい誰から命令された? この付近にはおまえ以外に、シンセティック・ストリームのクソ野郎はいなかった」

「この……艦……か、らの……命、令だ……」

「艦の命令? あんた、まだ冗談が言える余裕があるの?」

「ジョウダンジャナイヨォ」

 真っ赤に染まる戦闘指揮所に、突然あまったるいモエモエオンナノコの声が響く。

「はあ?」

 金属製の巨人2機から間の抜けた声が響く。

「System Schutzstaffelの艦には……AIが乗っているんです。いまの声はそのAIです」

 人の名を持たない権畜けんちく、ナンバーズの一人が2機の巨人にそう言った。

「教えてくれてありがとよ。で? 人工知能さんよ。なんでカワイイパンダマークのイチ民間船を無警告で撃った?」

「System Schutzstaffelノ、シュヒギムハダテジャナイヨォ」

 人工知能のアマアマモエモエボイスに、青い巨人が動き出す。

 あえてヒートブレードを赤熱させず、残酷な物理的刃を高速回転させるチェーンソーがうなりをあげる!

「話しやすくなるように、少しおまえのナカをかきまわしてやる」

 もっとも手近な機器にチェーンソーが突っ込まれ、すさまじい速度で中身をねじくれたガラクタミックスへと変えていく。

「AAAAHAAA!! GiiiiguAAA」

 音声合成に不具合を生じたあえぎが、真っ赤な光に満ちる戦闘指揮所の残存空気を強く震わす。

「ねえ? どう? 言う気になった?」

「シュシュテムシュュュッシュュタプル脳、カンポウキミツヲぺろぺろぺろぺろ」

「まだわからねえようだな。このあたりがもっとキモチイイか?」

 突き刺しっぱなしのチェーンソーが再びうなりをあげて、人工知能の大事な場所を探り出す。

「ここか? それともここか?」

 と独り言とともにチェーンソーがこじられナカをかきまわし、ドログチャの残骸へと機械のナカを変化させていく。

「Uhhhuuu!! COOO00biyouuu!!」

 人工知能感をすでに失った機械音の悲鳴。

「もう一度聞くわ。どうしてカワイイパンダマークのイチ民間船を、無警告で撃ったの?」

「しゅしゅしゅむむしゅゅゅゅうしゅぷっるNO……、くろろろろぬりりりぃぃぃぃヲォォォォ……」

「まだ足りねえか」

 無慈悲むじひに回転するチェーンソーが戦闘指揮所を暴れまわり、電装部品のはらわたをあたりにまきちらす!

「C000000me!! c0000003iiiii!!! comoeemiiyyyy!!!!!」

「話せ。話さないと、もっとキモチヨクなるようにかきまわして、おまえのナカにあるものを外にぶちまけてやる」

 チェーンソーの回転がようやく止まる。

「ねえ、どうしてカワイイパンダマークのイチ民間船を、無警告で撃ったの?」

 女の冷たい声が、機械仕掛けの甘ったるいモエモエオンナノコ声に再び問う。

「ガッ……ガ……、ジ……ク・ダ……イ……jvq@jdad0g」

 それきり二度と、あまったるいモエモエオンナノコ声が、戦闘指揮所に響くことはなかった。

「くそが」

 チェーンソーを電装部から引き抜いた、青い金属巨人が毒づく。

「お、おれを……、救って……くれる……じゃ……なか……たのか」

 積極的平和力の行使によって生み出された、平和力に満たされたあたたかい海に横たわったイヌオが、途切とぎれ途切れに言う。

「ああ、そうだった。忘れていたよ」

 ヒートブレードチェーンソーを背負った青い機体がひざまづき、ほとんど胴体部だけになったイヌオを器用につかむ。

「ど……やっ……て、救う……つも……」

「知ってるか? この宇宙に神はいない。ということは天国もない。だが、神はいなくても悪魔は実在する。その証拠しょうこを俺はこの大宇宙のあちこちでみてきた。シンセティック・ストリームが積極的平和力の行使と言って生み出した悲劇ってやつをだ。System Schutzstaffelが存在することが、そして今おまえがみているこの俺が存在していることが、悪魔が実在する証拠ってやつだ。それは邪悪なる真実だ。そして悪魔がいるのなら、地獄は間違いなく実在するんだろう。神は存在せず天国はない。だが悪魔は存在し地獄が実在するということは、俺達は全員地獄にくということだ。なあ、あんた、いままで権威けんいと権力と暴力をふりかざし、いったい何人殺してきた? 生物学的に、社会的に、精神的に、思想的に何人殺した? あんたが犯した現世げんせでの罪を、俺が少しでもあらがってやろう。これから落ちる地獄で、おまえが少しでも楽をできるようにだ。どうだ? 俺はやさしいだろう? それが俺がおまえにしてやれる救いってやつさ」

「な……」

 イヌオの言葉は続かなかった。

 イヌオをつかんだ金属の手が、ゆっくりとゆっくりと、すぐに地獄へと落ちてしまわないように、イヌオをやさしくじわじわと握りつぶしていく。肋骨ろっこつを砕き背骨を砕き、臓器ぞうきをつぎつぎに破裂させていく圧力によって、肛門こうもんから飛び出した糞便ふんべんが軍服の尻にいびつなもりあがりを作り、性器から吹き出す尿がズボンを濡らして軍靴へと流れ込み、口からは呼吸器官からしぼりだされた気体が赤い泡をぶくぶくとうみだしていく。

 高度知的生命体に分類される種族が犯す特有の罪を、金属の巨大な手が押しつぶしすりつぶし、すべてをしぼりだしていく。

 もうそこに言葉はなかった。あらゆる者が逃れられない絶対の終焉しゅうえんである死へと追い込まれ、意識すべてを満たす苦しみにもだえる者があげるにしては奇妙なまでに静かな音が続く。生命を構成していた肉体がゆっくりと破壊されて、生命を喪失そうしつしたグチャグチャの有機物質に変わっていく音だけが、ただただ不気味に響き続ける。

 非常電源が灯す鈍い赤い光に照らされる世界に、今まで犯した罪と臓腑ぞうふが混ざりあったイヌオの中身がどくどくと流れ出し、平和力の生み出した赤くあたたかい海へと注がれて広がっていく。

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