勢いあまって肩透かし
「いかせる、か!」
急降下してアインホークを掻い潜ろうとする敵機に機関砲を撃ち込む。
避けられるが、軌道は変えさせた。援護はさせない。
鬱陶しそうにミサイルを撃ち込まれるが、ロックオンされていないミサイルなどそうそう当たってたまるか。
普通に回避し、お返しとばかりに牽制のミサイルを発射する。
『……――着弾!』
『……――撃墜確認したっす!』
「よしよしよし! ウィンドシューターの方行ったのが戻ってくる前に決めるぞ!」
『……――了解!』
お嬢様口調を忘れ去った了解の声が響く。
同時に、敵機の機動が変わった。ロックオンされまいと動き回っているんだろう。
ドッグファイト中にそれは隙になる。
「墜ちろ!」
撃ち込んだ機関砲はギリギリで躱された。
その手腕は見事という他ないが、ここにいるのは俺だけではない。
『……――とどめっす!』
抑えていた機体の撃墜を受けてこちらに接近してきたスカイハンターが機関砲を撃ち込む。
あれだけの練度だ。ヘヴィーライナーとアインホークに狙われた状況下とはいえ、スカイハンターの接近には気づいていただろう。
しかし、ヘヴィーライナーからのロックオン回避、そしてアインホークの機関砲を避けるために大分無理のある機動をとった状態ではわかっていても対応できるものではない。
一直線に大気を切り裂いた機関砲弾が敵機の右主翼を噛み砕いた。
「着弾確認!」
右主翼を壊された敵機は火を噴き、バランスを崩して落下していく。
苦し紛れに撃たれたミサイルはあらぬ方向に飛んでいき避ける必要もなかった。
『……――やったっす!』
『……――墜としたー!』
歓喜の声が通信から聞こえてくる。
気持ちはわかる。滅茶苦茶わかる。
でも、まだ終わってない。
「まだもう一機いる。ウィンドシューターの仇とって終わりにしよう」
『……――了解っす!』
『……――そうだね!』
元気のいい返事と共に三機で旋回。
味方機の識別信号の下へ加速する。
ウィンドシューターはまだ生き残っているみたいだが、こちらとは距離がある。到着まで生き延びている可能性は低いだろう。
しかし、しっかり仕事は果たしてくれた。ウィンドシューターが囮になってくれたおかげで数的有利を用意できた。今回のMVPは文句なくフィッシュベッド――
『……――着弾確認。撃墜した』
「……え?」
通信が来た。フィッシュベッドから。
聞き間違いかと思ったが、すぐに勝利メッセージが流れた。
いや、え?
「フィッシュベッド?」
『……――強かったな。随分手間取った』
平然とそんな声が流れてくる。
「……」
いや、いいんだよ? いいんだけど。いいんだけどさ。
この盛り上がった気持ちはどこに持っていけばいいの……?
この試合をもってレートが2500を超えた。
不本意……でもないが、納得いかない……わけでもないが、なんかこうもやもやする終幕……いや勝ったからいいんだけど、うん……
なんだこの感情。
ていうか、どうやって勝ったんだよフィッシュベッドは。一対一だろ? なんでウィンドシューターで勝てるんだ。それで勝てるならもう素直に高機動型使えよ。
と言ってみたところ、返ってきたのはこの一言。
「撃墜王の方が強いぞ」
「……」
そうなんだよなあ……
あいつなら今回の敵くらい一機で全滅させられるもんなあ……それも数分で。
やっぱこれ無理ゲーでは?
「……うん」
考えるのやめよう。勝てるビジョンがなさすぎてテンション落ちる。
今は目先のことを優先しよう。
ということで。
「これからどうするよ?」
今のレートは2508。ギリギリで2500を超えた状態だ。
練習や他チームのレート上昇を妨害する、という意味ならこのまま続けるのもありだが……
「一度終わりでいいだろう。無駄にリスクを負う必要もない」
「だよな」
妥当な判断だ。
次も勝てる保証はない。ここで負けてもう一度2500を目指すのは勘弁してほしい。
「そうだね。それが一番かな。続けるのも面白そうではあるけど」
「……やめてくださいよ? やり直しは勘弁っす」
念押ししてくるテンに対し、苦笑交じりにセンカが応える。
「わかってるよー。テンちゃんは心配性だなぁ」
「日頃の行いっすよ……」
「なにか言った?」
「なんでもないっす」
ブンブンと首を振って目を逸らすテン。
彼女に向けて笑顔を向けるセンカだが、明らかに笑顔の裏に邪悪の気配が漂っている。
そのままじりじりとセンカがテンに迫り、テンはひきつった笑顔で後退っていく。
仲が良さそうで何よりだ。
テンが目で助けを求めてる気がするけど、仲の良い二人の間に入るとか野暮だから放置。
「……っ! ――っ!」
なんかめっちゃこっち見てくるなー、なんだろうなー、全然わかんないなー。あんなに瞬き繰り返して、ドライアイ?
ま、どうでもいいか。
助けを求めてくる視線をスルーして意見を表明していない残りの一人に話を振る。
「ヨツバはどう?」
「私もそれでいいと思うよ……ですわ」
「じゃ、そういうことで。これからどうすんの? 練習?」
誰とも指定せずに問いかけると、テンににじりよっていたセンカがこっちを向いた。
「練習はいいけど、私少し休憩したいな。そろそろいい時間だし」
「私も時間がほしいですわ」
あー、もう七時手前だもんな。2500が間に合うかの瀬戸際で休憩もなしに何時間もやってきたわけだし、疲れも溜まってるか。
「たしかに時間はほしいっすね。ちょっと疲れてきたっすよ」
「俺はどっちでもいいけど……どうする?」
今回の挑戦の発案者にして事実上最終決定権を持っている男に目を向ける。
フィッシュベッドは少し迷っていたようだったが、ゆっくりと頷いた。
「……一度休憩するか。二時間後にここでどうだ? 一時間程度練習して、それで解散にしよう」
「うん、了解」
「了解ですわ」
「了解っす」
「わかった」
口々に同意が告げられる。
二時間後ねえ、どうするかな。
ログアウトし、ベッドから起き上がる。
「んー、っと」
体を捻るとぽきぽきと音がした。ぶっ続けだったし、結構固まっている。
まあでも、間に合ってよかった。今日の開始時点では正直間に合わないかな、とも思ってたし。
今日だけでレート200ぐらい上げたからね。それもトップ層で。本当によく間に合ったわ。
「……珍しい」
部屋を出て居間に降りて呟く。
誰もいない。夕飯前だから母さんくらいはいると思ったが、買い物にでも行ってるのか?
「ふぅ……」
ドスっとソファに沈み込む。いやまあ、沈み込めるほどいいソファではないんだが。なんならちょっと硬いし。
いいんだよ、こういうのは気分なんだよ。
「あー、そっか。もう四月か」
なんとはなしにつけたテレビから数日後のエイプリルフールの話題が流れてきた。
エイプリルフールが終わればすぐ学校が始まる。
「……行きたくねー」
特に嫌なことがあるわけじゃないんだけど、長期休み明けって学校行くの死ぬほど面倒になるよね。すぐに慣れるとはわかってるんだけどさ。
でも、学校始まるとゲームする時間も減るんだよなあ。
「……」
やっぱカルシナ進めるか。
時間がある今のうちに進めるだけ進めておきたい。
深夜にできればいいんだが、明日寝不足でWWRに臨むわけにはいかない。明日はもっと厳しい試合になるだろうし。
となると隙間である今しかない。
「二時間……いけるな」
夕飯と諸々で今から一時間。風呂とかはWWRの練習が終わってからでもいいし、一時間、短くても30分程度はカルシナをする時間が見込める。
中級職に上がるかカードランクの更新か、どっちかくらいはできるだろ。




