爆炎、爆走、爆散
五日間の連戦も後半に入ると状況は変わりだした。
そもそも、一周年イベと銘打ってはいるが実質お祭りである。記念に参加しようという層も多かったのだろう。レートが上がっていない頃はまともな戦闘機動もとれない相手がかなりの数存在していた。
そうでなくともリアルモードの習熟者を五人も集めるのは至難の業だ。習熟者が一人二人いれば勝ち上がれる状況下で五人揃っている俺達が完勝を収め続けたのも当然といえる。
たまには全員習熟者のチームとあたることもあったが……うちの編隊、初見殺しの変態が多いんですよ。そりゃ一発勝負ならこっちが有利だよねっていう。
他のチームだとあんま……というか一度も見ないからなあ。初見殺し系の戦闘機は輪をかけて習熟が必要になる傾向にあるから、リアルモードに慣れたプレイヤーでも操縦できるとは限らないんだよ。実際、俺も初見殺し系はほとんど使えないし、かろうじて使える機種もある程度以上のレベルになると通じない。無理して使うより素直にアインホーク乗った方がよほどましな結果になる。
ていうか、普通にこんなもんだから。習熟しているあいつらの頭がおかしいだけだから。
それが三機も揃ってるとかどう考えても狂ってる。
とまあ、そんなわけでいい感じにはまって勝ち続けられたため、このまま余裕でいけるかー、なんて思っていたのだが世の中そんなに甘くない。
試合自体は非公開でも情報が流出する場所がある。
掲示板だ。
良くも悪くもこのチームの変態編成は目立つ。当然話題にも上がりやすい。
そんなこんなで掲示板経由で情報が漏れだし、先制奇襲を警戒してくるチームも増えてきた。
レートも2000を超えると単純に相手が強くなってきたこともあって5:0の完勝はほとんどなくなった。負けも挟むようになり、レートの上昇速度も目に見えて低下。当初『あ、いけるわこれ』と思われた目標の2500は『え、いけるかこれ?』という状況まできてしまった。
現在、五日目にしてレートは2466。最高値は四日目の途中の2484だから、わりと足踏みしている状態だ。
いや、まあ、足踏みっていうか一時連敗してレートガタ落ちしたんだよね……四日目の終盤とか2300割ったし。レート下の相手に負けるとガクッと下がるんだよ。
ちなみに対戦相手のレートはわかる仕様になっているが、2500オーバーには出会っていない。ランキングが公開されていないのでトップがどこかは知らないが……そんないないんじゃないかな。2400より上のチームとか四日目以降ほとんど遭ってないし。
今戦っている相手もレートは2390だ。
『……――ごめん、墜ちる!』
センカから悲鳴のような声で死亡宣告が飛んでくる。
十数秒前のセンカの報告によれば敵は高機動型五機。連携を重視しまともな手法でここまでレートを上げてきたであろう正統派のチームだ。
先制ステルスミサイルで一機墜としたフィッシュベッドはさすがとしかいいようがないが、先行したステラリウムの奇襲は失敗。普通にバレてほぼ瞬殺で墜とされた。
これで4対4。
『……――バレてるっすね。どうします?』
レーダーには一直線にこちらに迫ってくる敵編隊。
完全に居場所がバレている。こうなるとまずい。
『……――このままドッグファイトに持ち込まれれば負けだな……俺が一機受け持とう』
「いける?」
向こうの練度もかなり高い。乱戦中にステルスミサイルは面倒だから無視される可能性はないだろうが、しかし一対一で勝てるかは微妙だ。機体性能が違いすぎる。
向こうの練度も高そうだし、どうしても追われる状況になるから余計に不利だ。
『……――時間は稼ぐ。ヨツバは初手で一機は落とせ。二対三ならテンもシーもいけるだろう?』
『……――ていうか、そこまでいわれたらやるしかないっすよ』
「一番キツいの請け負ってもらうわけだしなあ……」
事実上時間稼いで墜ちる宣言に等しいわけだし。
この場合一番大変なのが時間を稼ぎ切らないと負けに繋がるフィッシュベッドであり、一番プレッシャーがかかるのが……
「頼むわ。外すなよ、ヘヴィーライナー」
『……――ヨツバさん、お願いするっす』
『……――プレッシャーだよ……あ、ですわよ』
ロールプレイを思い出す程度の余裕はあるみたいだ。
『……――では、いってくる』
ウィンドシューターが旋回し、加速。
敵編隊の強襲を受けない程度の距離を保ってすれ違い、引きつけに向かう。
『……――かかった!』
ヨツバから喜びの声が伝わる。
敵編隊から一機が離脱、ウィンドシューターを追随しだした。
逝ってらっしゃい、ウィンドシューター。
「さて」
犠牲になったフィッシュベッドはともかく、こっちはこっちでやることをやる必要がある。
スカイハンターとアインホークはヘヴィーライナーの護衛。俺達から攻撃することはない。
しかし、先制攻撃はこっちが奪う。
ヘヴィーライナーの本領はここにある。
『……――ロックオン、発射! ですわよ!』
「……」
緊張感が……
放たれたミサイルは緊張感と共に後方の大気を吹き飛ばし、敵機に向けて直進していく。
しかし、敵機はチャフとフレアを撒きつつ上昇、鋭角機動を繰り返して躱し切った。
標的を見失ったミサイルはあらぬ方向へと飛んでいく。
「うわ、マジか」
練度たっか!
あ、これやばいわ。あんな変態機動しておきながら編隊行動が崩れてないとか練度高すぎでしょ。普通にやりあえば普通に負けそう。
でも、ヨツバの機体は普通じゃない。
『……――ロックオン、二発目発射!』
元々一発目は追い込むためで次弾も用意していたのだろう、敵機がミサイルを振り切る直前で二発目発射の通信が来る。
あれだけ滅茶苦茶な機動をしている戦闘機に追随するでもなくロックオンできるのはさすが特化型といったところか。アインホークでは絶対真似できない。
距離こそ長くないもののレーダー性能とロックオン性能に優れ、高速ロックオンと高精度の誘導をコンセプトとしたヘヴィーライナーの本領発揮だ。
『……――一機撃墜!』
高速ロックオンは想定外だったのだろう、敵編隊の一機が避けきれず爆散する。
お互い機種を判別できる距離ではなかったし、仕方ないといえば仕方ない。初見殺しすぎるこっち(の質)が悪い。
逆に、ここからはそう簡単にヘヴィーライナーの攻撃は通じない。今のロックオン性能で警戒してくるだろう。
「テン!」
『……――了解っす!』
アインホークを加速、ヘヴィーライナーの前面に出る。
敵機は二機。アインホークが一機、スカイハンターが一機を受け持つ形だ。
「うおっ!」
すれ違い様に機関砲を撃たれた。しかも下方から。
「ちゃんと旋回したんだけどな……!」
体勢的に不利な状態から叩き込んできやがった。
ほんと、練度高いな敵さんは!
左主翼下損傷。消火装置を起動させそれ以上の被害を防ぐ。
こういうシステムが自動化していないのは墜落率を上げる仕掛けの一つだ。ゲーム性も上がるからいいっちゃいいんだが、ギリギリのときは本当に面倒に感じる。
「っ!」
敵機、宙返り。
背面飛行状態でこちらを追尾してくる。
反転したいところだが、下手に反転するとヘヴィーライナーに狙いが変わりかねない。引きつけておかないと。
ロックオンアラートが響く。
「背面状態で!?」
いやできなくはないけど、わざわざやるか普通!?
チャフとフレアを展開、ピッチアップし加速。
ミサイルが後方で誘爆した。
背面状態から戻る時間すら惜しんだってことだろうが……焦ってるな。数的不利もあるし、向こうはウィンドシューターの方に行った機体が戻ってくるまで時間稼ぎに徹すると思ってたんだが。
落とす気満々だよこいつら。
「どうするかな」
ミサイルこそ凌いだが、追随されている状況は変わらない。
リスクを受け入れればドッグファイトに徹することもできる。あまり時間をかけすぎるとウィンドシューターの方に行った機体が戻ってくる危険もある。
相手は強いが、一対一で勝算を見込めないほどではないぃぃっっ!?
「っぶねぇ!?」
急旋回。
正面上方から飛んできた機関砲弾を回避、同時に距離を詰めてきた後方の機体から放たれた機関砲弾を宙返りで避ける。
旋回と宙返りで嫌な浮遊感を感じるが、操作に影響が出るほどではない。
ていうかそれより……!
「テン! ちゃんと抑えとけよ!」
上方からの攻撃はテンの担当していた機体のものだ。
連携させまいと引き離していたんだが、いつのまにかテンの方の戦闘空域がこっちまで移動している。
何やってんだと文句を発したが、返ってきたのは悲鳴だった。
『……――そんな余裕ないっすよ! こいつ、強い!?』
かなり苦戦しているらしい。受け答えの声に余裕がない。
「……マジかよ」
一応いっておくと、この発言は強い云々に対してではない。そんなもん知ってる。苦戦している事実に対してでもない。それも今察した。
単純に、敵機の動きが変わったからだ。
編隊行動になった瞬間、その連携力を叩きつけられた。
『……――「やっば!」』
テンと声が揃った。
攻撃する余裕が消えた。さっきまではやろうと思えば攻勢に転じることもできたが、今は逃げ回ることしかできない。
あ、これ本当にやばい。
連携行動になった瞬間にこれか。センカの気持ちがわかった。これが四機も揃ってりゃステラリウムも瞬殺されるわ。
まずい、長く持たない……!
『……――ロックオン! 発射!』
遅い! でも助かった!
ヨツバからの通信が天からの救いのように感じる。
敵機の編隊行動が揺らいだ。一機がヘヴィーライナーのロックオンを受けて回避に動いたんだろう。
させるか。
「テン!」
『……――了解っす!』
スカイハンターが上昇し、急旋回。ロックオンされた敵機の上方を確保して回避軌道を制限する。
当然もう一機がスカイハンターを排除して回避を援護しようとするが……
「お前はこっちだ」
ミサイル発射。
当たる軌道ではないが、気を引くことには成功した。
ヨツバは乱戦に持ち込まれたことで味方への誤射を恐れて発射を躊躇っていたんだろう。後は意識から外れて確実に墜とせるタイミングを狙ったのもありそうだ。一発目は避けられたわけだし。
つまり、今なら誤射もなく確実に墜とせると判断したから撃ち込んできたということ。
撃墜までの数十秒、こっちに付き合ってもらおうか。




