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好奇心、ソロを強いる


「あー、疲れた」

 

 深夜十二時を回り、俺はベッドに寝転がっていた。

 ログアウトしてからは大変だった。一階に降りた瞬間から始まった強制イベント(母親の説教)は一時間近くに及び、それから夕食。ゲームを禁止されてはかなわないとご機嫌取りのため洗い物をし、母親の目に怯えつつ諸々を済ませた頃にはもうこの時間だった。

 本当に疲れた。精神的に。

 え、超越種について? 五分と持たずに殺されたけど何か?

 まあ、無理だよ。わかってたよ。最終的に避けきれなくなって踏み潰されたよ。

 一矢報いたかって? 炎の矢も風の矢も直撃はしたよ。無意味だったけど。

 あれはダメだ、根本的にレベルが足りない。レベル76では話にならない。放浪魔法使いの職業効果で補正がかかってるはずなのにまったくダメージが通らないとかないわ。どれくらいのレベルが必要かもわからないほどの差があった。あれに勝てる日とか来るのか?

 ま、過ぎたことはいい。それよりこれからのことだ。


「明日どーすっかなー」


 四体目のガードナー潰すのは確定として、次の街いけるか? ぶっちゃけ、金が無さすぎてやばい。MPポーションが在庫不足だ。最後に襲ってきたハンティング・ウルフ以外にも鹿やら鳥やら結構狩ったし、それがいくらで売れるかってとこだ。ポーション類を補充できればそのまま次のフィールドも攻略してその先を目指せる。

 可能なら明日中に次の街に行きたい。売れることを願っておこう。


「ふぁあ……」


 欠伸が漏れた。

 寝転がっているせいか、精神的な疲れのせいか。普段ならまだ起きている時間なのだが眠くなってきた。

 でもまだ掲示板チェックしてない……まあいいか。差しあたって知りたい情報もないし。もう寝よう。

 じゃあ電気を……立ち上がるのめんどい。リモコン操作だったらいいのに。

 数秒ベッドの上でうだうだしてから諦めて立ち上がり、電気を消す。そのままベッドに倒れこんだ。すぐに意識が遠のいていく。

 おやすみなさい。





 はい、おはようございます。

 時刻は午前八時、朝ですよー。

 この起床時間を早いととるか遅いととるかは人によって違うと思うが、まあ長期休み中の高校生としては普通か、若干早いくらいじゃないか? 完全に個人の感想だけど。俺が知らないだけで部活勢とかならもっと早いのが普通かもしれないし。

 実際、兄貴はもうとっくに起きてる。あれはあれで特殊例かもしれないが。

 いやー、大学生なのに大変だなー(他人事)

 帰宅部ゲーマーというある意味青春を謳歌している俺にはわからない世界だ。


「んー、っと」


 立ち上がり、伸びをする。さらに腕を伸ばしたまま体を倒し、軽く前屈。凝り固まった体をほぐしてから部屋を出て階段を降りる。

 朝食済ませて今日もゲームしようか。 





 とまあ、そのつもりだったんだが、ゲームを始めようという段になって少し調べた方がいいことがあると思い至った。

 フラグメンツについてだ。

 半強制的に入れられたコミュニティとはいえ、自身が所属する以上ある程度調べておくべきだろう。

 そんな考えで掲示板を巡ってみたわけだが……


『兎の悪魔に殺されたんだが』

『フラグメンツと遭遇したときの対処法:逃げろ、振り返るな』

『フォウアにフラグメンツの主力が二人いた。今すぐフォウアから逃げろ』

『ファビアにあの魔女がいた。脱出を推奨』

『ニューウェルで話題のマッドラビットキラーがフラグメンツに入ったらしい』


「ひでえな……」


 主にフラグメンツの評判が。

 やだ、俺の入ったコミュニティ、評判悪すぎ……?

 いやほんと、評判悪すぎるだろ。ただ見かけただけで街からの脱出を推奨されるってなんだよ。罵倒スレ、被害報告スレ、目撃情報スレ、対処法スレ、実績スレとかもう乱立レベルでスレ立ってるし。どんだけやらかせばこんな扱い受けるんだ。

 例で挙げたのはトップクラスにぬるい奴だからね? 罵倒スレとか酷かったわ。下手すれば運営へのヘイトと同レベルだぞ。あの運営と同レベルってもう人としてヤバいよ。

 わー、抜けたい。もう手遅れだけど。入っちゃったこと広まってるっぽいし。


「もしかして俺、これと同じ扱い受けるのか……?」


 だとすると普通に凹む。知らないうちに対人関係に致命的なデバフがかかってるじゃないか。身に覚えのない罪状が大量に降りかかってきた気分だ。いやまあ、CRPKとか身に覚えのある罪状もあるんだけどね?

 ていうかこれ、下手にプレイヤーと関わってフラグメンツのメンバーってバレたら袋叩きに遭うんじゃないか? 気軽にフレンドも作れないぞ。


「……マジか」


 見なきゃよかった。フラグメンツの情報は手に入ったけどテンションがた落ちしたわ。

 職業性能の次は人間関係が人と関わるプレイスタイルを阻害するのか。もうソロを貫くしかないのかもしれない。協力型オンラインゲームのはずなのに。


「まあいいや、しばらくはソロのつもりだったし。いけるとこまでソロでいこう」


 自分に言い聞かせて気分を切り替え、ヘッドセットを着けて寝転がる。

 

「…………」


 自分でいっといてなんだが、これ、最後までソロでいくフラグになってる気が……

 

 短いので、少し裏話を。

 主人公は数日で辿り着いたフォウアですが、通常プレイだと結構かかります。理由はモンスターやフィールドボスに初見殺しが多いこと、通り魔キルが横行していること、パーティーメンバーが裏切ること等が挙げられます。運営の悪意+プレイヤー足の引っ張り合いでなかなか進まないわけですね。CRPKで異常なレベリング効率を実現したシーだからこそ四日という記録的ハイペースで到達できたのです。

 最初からリアルの友人などの固定パーティーを持たないプレイヤーだと、フォウアまで情報を集めた上で最短を目指して十日、一月前後かかる人も珍しくありません。固定パーティーでも平均二週間から二十日ほどかかります。これはモンスターやプレイヤーにキルされまくって経験値効率が低下するせいです。はっきりいってPKされるかどうかは運の要素も大きいのが現実なので、情報を集めようが万全を期そうが襲われるときは襲われて死にます。カルシナにおけるプレイヤー間の生態系はそれほど厳しいものなのです。

 ……なんで協力型MMOなのにプレイヤー間の生態系が出来ているのか、という突っ込みは禁止です。

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