四体目(セカンド)
ログイン地点はフォウアの宿屋だった。
昨日は巨狼に殺されてリスポンした直後にログアウトしたので当然だが。
「んーっ」
軽く動いて体をほぐす。VRだから無意味? わかってるよ、こういうのは気分なんだよ。
さて、もうこの宿に戻るつもりはないし、荷物をまとめて出て行こう。……杖すらないからまとめる荷物自体がないな。まあ、プレイスタイル的に身軽なのはいいことだ。
「よし、行くか」
今日の目標は四体目のガードナーを倒して次の街へ行くこと。まともに進めばそう時間もかからずに達成できるはずだ。
「いやー、売れた売れた」
あっはっは、笑いが止まらん。昨日貯めた素材が結構高値で売れ、ポーションもしっかり補充できた。
幸先がいい。今日はいい日になりそうだ。
どうでもいいが金が足りなければ適当にプレイヤーを狩って金を稼ぐつもりだった。でも、リスクが高いしやらないで済むならそれに越したことはない。
「さ、行くか」
街を出ると草原があり、そして森へと着く。森の先のエリアは三つのエリアに分かれている。
正面にある山脈を突き抜けていく洞窟ルート。
山脈を大回りして迂回する草原ルート。
そして、山脈の間の谷を通る渓谷ルート。
それぞれ別の街に辿り着く。どのルートを選ぶかでこれから先の展開が大きく変わってくるわけだ。
まあ、どの街も山脈の向こう側にある、相互に行き来もできるみたいだが。
で、どのルートを選ぶかという話だが。
単純な距離の話をすると短い順に洞窟ルート、渓谷ルート、草原ルートになる。まあ、山脈を突っ切れる洞窟が一番短く、大回りする草原が長いのは当然だろう。多少迂回する程度の渓谷はその中間だ。
とはいえ、洞窟ルートは迷う可能性もそれなりにある。そういうリスクを勘案するとそこまで早く着くともいえない。最短距離をいければ一番早いのは間違いないが。
出てくるモンスターの話をすると、一番安全なのは草原ルートになる。なにせ、今まで出てきたモンスターとほとんど変わらない。遠回りだが確実。安全に行くなら草原ルートだ。
まあ、草原ルートは選ばないけどね?
「だって、つまらないもんなあ……」
別にどうしても今日中に次の街に行きたいわけじゃない。今までと同じルートとか面白みが無さ過ぎる。
こうなると洞窟ルートか渓谷ルートしかない。
洞窟ルートで出てくる敵は昆虫系が多いらしい。洞窟内に昆虫系モンスターの生態系が出来上がっているとか。それだけ聞くと面白そうなんだが、話を聞く限り洞窟自体はそう広くないというのがネックだ。細かな道が入り組んでいるような形状らしく、プレイヤーとの遭遇率が非常に高いそうだ。色々と後ろ暗いところが多い俺にとっては結構なマイナスポイントである。
一方、渓谷ルートはほとんど分岐がない代わりにかなり広いそうだ。渓谷というと狭いイメージだが、実際は中央に大きめの川が流れていて両岸に草の茂った空間があるという形らしい。幅も片岸で百メートル以上はあるとか。明確な道が無いのは今までの草原と同じだが、身を隠すには好都合だ。
というわけで、渓谷ルートに決定。
ま、その前にフィールドボスを倒さないと森エリアを突破できないんだけど。
『セカンド・ガードナー』
通算四体目のフィールドボスにして、序盤に街への道を妨害する打倒必須のフィールドボスとしては最後になるそのモンスター。
ログが流れた瞬間、名前あってないじゃん、と突っ込んでしまった俺は悪くない。たぶん九割がたのプレイヤーは突っ込んでいるはずだ。
なんでセカンドなんだよ。セカンドなら二体目の場所に配置しろよ。ていうかガードナーシリーズなら命名法統一しろ。
言いたいことは色々あるが、現れた以上戦闘に集中しないと負けかねない。
こいつの推奨レベル70だし、ソロであることを考えると結構ギリギリなのだ。
「ウィンド・アロー」
騎士姿をした敵の頭に直撃。兜の隙間に当たった。クリティカルか?
留まることなく詠唱続行。ついでに距離を取るために走り続ける。
距離を詰めようと右手に剣、左手に盾を構えて突っ込んでくる顔面を狙って魔法を発動。
「アクア・バレット」
盾を構えられ防がれたが、牽制くらいにはなっただろう。というか、昨日の巨狼に対しての絶望的な手応えのなさと比べれば防いだというだけで効いてるように見える。
でも、防がれたこと自体はマイナスだ。こいつの特性を考えると結構痛い。
セカンド・ガードナーの特性。それは、一度受けた攻撃を次に受けた場合ダメージが半分になるというもの。しかも半減効果は重複する。同じ魔法なら二発目には二分の一、三発目には四分の一、四発目には八分の一しかダメージがでなくなる。事実上効果があるのは最初の一発だけと考えた方がいい。
この効果は盾であっても発動する。つまり、ウィンド・アローもアクア・バレットもこの先使える手札では無くなったということだ。この戦いに限り、一度切った魔法はそれ以降使い物にならなくなる。
正直、相性は最悪だった。フォウアに来る以前はレベル上げしまくってから挑むかパーティー組むしかないかと諦め半分だった程に。使える魔法が少なかったため、ダメージを与え切るだけの火力を用意できなかったのだ。
しかし、放浪魔法使いになった今、その問題も解決された。魔法自体の火力が底上げされた上に、手札も激増した。全種の魔法をぶちこんでいけばそのうち倒せるだろう。
と、思っていたわけだが。
「ウィンド・アロー」
検証代わりにもう一度風の矢を撃ち込む。狙いは肩のそば、何もせずともギリギリで外れる位置だが、セカンド・ガードナーは無視どころか避けようともせず盾を掲げて防いだ。
「うわ、マジか」
この行動と今までの運営の悪意を考慮した結果、嫌な結論が出た。
こいつ、積極的に盾を使ってくる。当たらないものに関しても、だ。プレイヤーのダメージソースを潰そうという執念深い悪意を感じる。おそらく、盾で受けたものも判定に入るんだろう。
くそ、毎度のことながら思考ルーチンが悪辣すぎる。地味に厄介だ。動き自体も守備的だし、下手に遠距離から魔法を撃っても防がれそうな気配がある。この辺はソロでなければまた話が変わってくるのだろうが、できもしないパーティー戦を想定するのは無意味か。
いちいち盾で防いでくれるなら労せず距離を保てるし、安全な間合いを確保できる。ただ、それだとダメージを与えられずこっちの手札を潰されていくだけだ。HP的に安全なだけで実際のところはジリ貧でしかない。
どうすればいいかといえば、盾を使わせないしかないわけで。そしてそのためには相手が盾を使えない状況に持ち込まなければならない。どういう状況かといえば向こうが攻めてきて、かつ防御が間に合わない距離で戦うこと。
すなわち、近距離オワタ式だ。
「やることは同じか……」
仕方ない、やるとしようか。仮にもフィールドボス、まともに一撃喰らえば間違いなく即死、それどころか俺の対物理性能を考えると掠った程度で死にかねないが、いつものことだ。当たらなければどうということはない。
「よっと」
逃げる足を止め、誘い込む。斬りかかられたが躱し、顔に手を向ける。
「ファイア・ボール」
撃ち出された火球は過たず顔面を直撃した。
この調子、この調子ぃ!?
「ぶなっ!」
真横に振るわれた盾を真後ろに跳んで躱す。それも武器にしてくんのかよ!
一旦仕切り直すためウィンド・アクセルで距離を取る。
「ふぅ……」
危ねえ、昨日の巨狼のスピードに慣れてなかったら避けられなかった。盾のバッシュくらいは想定していたがまさか普通に振るってくるとは。盾ってそういうもんじゃないだろ。
普通の近接職なら大したダメージにもならない、不意打ち以上の意味がない攻撃だが俺には致命的なものになりうる。紙防御はこういう不意打ち一発で死にかねないのが面倒だ。
気を引き締めていかないと。
設定開示コーナー
セカンド・ガードナー
毎度おなじみガードナーシリーズ第四弾。名前はセカンドだけど第四弾。
こいつのうさざはただ一つ、一度受けた攻撃を次に受けた場合ダメージが半分になる点。もちろん効果は重複する。スキル、魔法は二発目以降効果が激減していく。そのため多彩な攻撃手段が必要になる。
そして何よりもプレイヤー達を阿鼻叫喚の渦に叩き込んだ原因は、通常の物理攻撃もその判定に入るということ。斬撃なら斬撃、刺突なら刺突と判定されるためスキルなしで普通に大剣とか振り回す場合、数発でまともなダメージが出なくなる。近接アタッカーの多くに絶望を与えた悪意の塊。
通常、ソロ攻略はまず無理。よほど多彩な攻撃手段でもない限り現実的ではない。というかこのレベル帯だと相当レアな特殊職でもない限りそんな職業はない。
なお、最悪なことに判定は一戦単位ではなくプレイヤー単位。一度負けて戻るとかなり悲惨なことになる。手札を使い切っても肉壁にはなれる近接職はましだが、魔法職の場合は完全に役立たずになることも。救済措置として同じ魔法でも違う人が使えばダメージは出る。救済ってか当然だろと思うかもしれないがカルシナ基準では救済になる。
ちなみに、リジェネあります。強力ではないものの自動で時間回復します。気づかないと詰む可能性が上がりますが、HPバーがないというカルシナの仕様的に気づきにくいです。長期戦を選ぶとダメージソースが無くなって詰みます。
……前々から思ってたけど運営は攻略を進めさせる気ないよね?




