第十一話 この木片の使い方はな~んだ?~回答編~
「月野原写影子を助けたければ、その鍵を渡せ」
少しの緊迫。鑑の歯噛み。
間合いを図る露世の足が躊躇する。
唐突に拳銃を撃った音がして、弾がニセモノの肩に貫通した。
あれは、シャドウにしか効かないイレイスの効果のあるイレイスガンだ。
我輩は空から落とされて、何者かに抱き留められた。
その腕がどこから伸びているのか確かめると、それは露世だった。
「大丈夫か、月野原」
「う、うん!」
「クソ、本物が現れたのか! チィ!」
イレイスガンで撃たれた有栖川総理のシャドウは悔しそうに消滅した。
えっ? 本物? 本物って露世のことじゃないよね?
顔を上げて、周りを探ると我輩の隣に誰かが立った。
四十代後半ぐらいの威厳のある顔には金縁のメガネがかけられてあった。
背はすらっとして、モデルのようだ。
肩までの髪を後ろで一つにまとめてある。
それは、我輩がよく知った人物だ。
「あ、有栖川総理!?」
「今度は本物なの?」
「じゃあ、俺を最近そそのかしていたのは……?」
「おそらくデッドキスですね。我輩が多忙な時にスキを突いたらしい」
「すっかり騙されたぜ……!」
鑑の迎えの自動車が道に停まった。
鑑を振り返ると、鑑はスマホで迎えの車と連絡を取っていたらしい。
「場所を変えよう」
我輩たちは有栖川総理と別れて、鑑の黒塗りの自動車に乗った。
その自動車は、静かに発進した。
暫くのちに降ろされたのは、鑑の屋敷の前だった。
この間、鑑の家の方角できな臭いドンパチがあったのは、見間違いだったのだろうか。
鑑の屋敷は、こないだ訪れた時と、全く変わっておらず静穏そのものだった。
「実は、これは大魔王の秘宝の鍵じゃない」
我輩たちは、鑑の部屋に通された。
そして、ソファに座り、鑑がカバンから取り出した木片と相対していた。
鑑が、木片をテーブルの上に置いた。
「じゃあ、何の鍵なの?」
「……フフッ。この鍵の使い方を教えてくれたら、教えるよ」
「また、交換条件かァ?」
「まあまあ。じゃあ、鑑のレイフォトをフォトリベしてみるのだ」
我輩は、鑑のレイフォトを一気にフォトリベして行った。
すると、もくもくとシャドウが鑑の上半身を模る。
『①。夜桜鑑の木片は。イレイス!』
『②。からくり箱。イレイス!』
用が済むと、鑑のシャドウは消去された。
「からくり箱?」
「要するに、開け方を工夫しなければ開けることができない仕掛けのある箱のことだね」
手に取って露世がじっくりと確かめている。
露世は、感嘆の息を吐いた。
「これ……。滅茶苦茶スゲー。木と木の模様のつなぎ目がほとんど分からないようになってるから、普通の木片にしか見えなかったみたいだ」
「からくり箱なのはわかったけど。これ、どうやって開けるんだろう?」
我輩はハッと閃いて、スマホを操作した。
「ネットで、からくり箱の開け方を見たら載っていたのだ!」
「やるなァ、月野原」
「へへへ」
露世に褒められて、まんざらでもない。
木片の使い方がわかった鑑もうれしそうだ。
「写影子ありがとう。じゃあ、開けてみて」
「えっと、こうやってこう……?」
すると、それまでただの木片だったそれは、開いて小箱になった。
我輩は、片目をつぶって、箱の中を覗いた。けれど、暗くてわからない。
指を入れて探ってみる。
「何かが箱の底にテープで張り付けてあるのだ」
我輩はそれをはがして、中身を取り出す。
すると、鉄製の鍵が出てきた。
「鍵なのだ」
「今度は普通の鍵だな」
「鑑、これはいったい何の鍵なのだ?」
「これはね、僕の――」
鑑が告白しようとしたその時だった。
唐突に、セキュリティのアラームが部屋の中に鳴り響いた。
そして、正面の大きな窓が割れて、誰かが侵入してきた。
「えっ!?」
我輩は、その侵入者の顔をあらためて、驚いた。
振り返ると、鑑は歯噛みしていた。




