第六話 暗躍する者たち
露世が帰宅途中、黒塗りの自動車が彼の隣に追従して止まった。
それに気づいて、露世は立ち止まる。
露世は肩に乗せていたカバンを違う方の肩に背負い直した。
路肩に停まった黒塗りの自動車の人物と話しやすいようにである。
そして、露世はコンコンと窓を軽くノックした。
すると、窓が軽いモーター音を立てて開く。
「……あれは手に入りましたか?」
サングラスをかけた女は厳格そうな声で露世に尋ねた。
詩口写実ではない。
詩口写実は高校一年生だが、彼女は四十代後半だ。
彼女は、我輩もテレビでよく知っている人物だ。
本日人なら、彼女の顔を知らないという方が変だ。
それぐらい有名な人物だった。
しかし、奇妙なことに彼女は露世と知り合いらしかった。
「いや。あれは手に入らなかった。夜桜鑑が持って帰ったからな」
「……じゃあ、あのこともあきらめるのですか?」
「まあ、他を探してみるよ」
露世が諦念したように笑うと、彼女は落ち着いた調子を一変させて怒気を強めた。
「何を悠長な! 夜桜鑑から取り返すべきでしょう!」
「いいよ、他人のもんだから」
「でも!」
露世は眉をひそめた。
その時の露世は自分より必死な彼女に違和感を持ったという。
しかし、彼女の気まぐれだと自己完結していた。
露世は、ふうと嘆息した。
「あんた、もう帰ったら? 仕事あるんだろ?」
そうして、露世は手を振って帰っていった。
我輩に露世のレイフォトが警告したのは、彼女のせいだった。
本日国の総理大臣、有栖川黒烏。
彼女が、かかわっていたからである。




