第十四話 夜桜鑑の思惑と豪邸
鑑の手配した高級車にもびっくりしたが、町の外れにある大きな会館のような屋敷にも度肝を抜かれた。ここにだれが住んでいるのだ? 王子様か?
光の灯る大きな屋敷をあんぐりと眺めていると、大きな玄関のドアが開いて誰かが出てきた。
「写影子お嬢様、ようこそお越しくださいました」
王子様ではなく、お爺様が出迎えてくれた。執事さんだろうか。恭しく一礼している。
「いらっしゃい、写影子。それと、なんで、一文字がいるのかな?」
「いいだろ、別に?」
一応、念のために露世を呼んだ。鑑はそれが気に入らないようだが、我輩はこれでひと安心だ。
鑑は、フォトグラン学院の制服ではなく、本当に育ちの良いお坊ちゃんのような服を着ている。
我輩はうっかり、宝探し気分でトレジャーハンターのような装いで出かけてしまった。
場違いなのだ! 我輩の馬鹿!
「どうしたの? 写影子?」
「い、いや。こんな服でもいいのかな?」
「構わないよ。夜会でも何でもないからね」
よ、よかった~。夜会じゃなくて、本当によかった~。
我輩はほっと胸をなでおろした。
「俺なんて、制服のまんまだぜ?」
「君には聞いてないよ。君は場違い丸出しだけどね」
「なんだと、こらァ!」
露世と鑑がいがみ合って、火花を散らしている。
我輩は慌てて、二人の間に割り込んだ。
「そ、それで、お屋敷の中を見て回ってもいいかな?」
「構わないよ。案内するよ」
豪邸の玄関ホールに足を踏み入れる。すると、高い天井にシャンデリアがぶら下がって暖かい光を部屋一面に広げていた。床には市松模様の黒曜石と大理石が敷き詰められている。目の前には木彫の赤い絨毯が敷かれた階段が緩いらせん状に二階に続いている。
「わぁ。大魔王の秘宝がいかにもありそうな感じがするのだ」
我輩は、興奮してピョンピョン跳ねる。鑑が執事に指示する。すると、執事が紙袋を鑑に手渡した。そして、鑑が我輩のほうに歩いてくる。
「探してくれていいよ。僕も写影子のことがもっと知りたいからね?」
露世の眉間がピクッと動いた。
我輩はさして気にしてなかったが、露世はその鑑のセリフが引っかかったらしい。
「わぁ。ありがとう! あっ、あっちに光のポイントがあるのだ! 鑑、撮りに行ってもいい?」
「うん、いいよ」
我輩は階段の下のピンクの光のポイントを魔法のカメラで撮った。
そんな我輩にゆっくりと歩みを寄せる鑑。そんな、鑑に露世が後ろから声をかけた。
「おい、何考えてるんだ、お前……」
「知りたい? もうすぐわかると思うけどね」
我輩は、何も警戒してなかった。露世だけが、鑑の変化に気付いていた。
遠くで、雷の音がする。雨が降り始めたようだった。




