第十二話 大魔王の秘宝と夜会の関係
「いや、写影子ちゃんのご両親の手がかりがまったくなくてね。今、手を尽くしている最中なんだけど、向こうの方が一枚上手みたいだ」
残念な話を聞いても、我輩は特に落ち込まなかった。
「でも、我輩の元には毎回父から手紙が届くのだ。感情のあるレイフォトだから、罠の能力で作っているのかもしれないけど」
手紙が届くということは、どこかで生きているということに違いない。何故、両親が我輩の元に返ってこないのかは謎に包まれているが。露世が気遣わしそうにこちらを見ている。
「どこかで、月野原のことを見守っているのかもな」と、露世。
露世は励まそうとしているに違いない。
我輩はうなずいた。露世の言うとおり、どこかで我輩のことを見守ってくれていたら、嬉しいのだけど。
「じゃあ、父からの手紙は誰が郵便受けに?」
我輩はかねてからの疑問を口にした。
「その手がかりも調べたんだが、どうやらシャドウが郵便受けに入れているらしくてな。写影子ちゃんの家に来て入れた後にイレイスしているらしくて、足取りが全然つかめないんだよ」
シャドウか。どうやら、父の写は、居場所を特定されたくがないために、シャドウを駆使して、手がかりを消しているらしい。
しかし、四ツ葉が手がかりつかめないなんて相当だ。我輩は、素直に舌を巻いた。
露世が面白そうに笑っている。
「なんかすごいな。月野原の親父さん」
「何が何でも見つけられたくないみたいなのだ」
でも、我輩はその足取りをいずれ辿ってやるつもりでいた。父から手紙が来るということは、生きているという証拠だ。だから、我輩は寂しくなんてなかった。
「写影子ちゃん。夕飯買って来たから、一緒に食べよう?」
「ありがとう、連辞!」
「俺も一緒に食べていいかな?」
「うん、いいよ」
その日は、露世と連辞と一緒に夕飯を食べて、お開きになった。
この日、我輩は露世と仲直りできたので不安要素がなくなり、夜は快眠を得られたのだった。
★ ★ ★
次の朝は早かった。ドアの鍵を開けると、ようやく、空が白み始めていた。
我輩はあくびをかみ殺しながら庭に出た。
郵便受けを開けると、白い封筒が一通中に入っていた。それは、やはり父の写からだった。
我輩は嬉しくなって、その場で開封した。
「また、レイフォトが入ってるのだ」
そこには、レイフォトが三枚入っていた。
番号が①~③入ったレイフォトだった。絵も何もない、番号だけのレイフォトだ。
「よ~し、フォトリベするのだ」
レイフォトを二枚に裂くと、中から煙がもくもくと形作られ、張りぼてのような形になる。
「げっ!?」
それは、空中で盛んに泡立てたボディソープの泡の塊のようになり、大男の形を成した。初対面なのに初対面ではない。けれども、この人は我輩のことを知らない。けれども、我輩は彼を良く知っていた。まるで、芸能人に会ったような気分だった。
それが昔、世界を恐怖のどん底に落とした大魔王だと分かるのに時間はかからなかった。大魔王の肖像画なんて、テレビや授業で何回も見たことがあるので、真新しくもなんともないのだ。
「な、なんだ……。レイフォトのシャドウか……」
襲ってきたらどうしようかと思ったが、レイフォト特有の上半身だけの作り物じみたシャドウだった。目も死んだ魚のような半透明だった。我輩は冷や汗をかいたが、ホッと胸をなでおろした。
『①。大魔王の秘宝が。イレイス!』
これは、感情のないシャドウだから、真実を言っているのだろう。
そして、用が済んだら、そのシャドウは消滅した。
我輩は、シャドウが述べた内容に興奮した。
「大魔王の秘宝が!? 大魔王ってあの大魔王なのかな!」
ドキドキしながら、二枚目をフォトリベした。
また、感情のない大魔王のシャドウが出来上がる。
『②。夜桜鑑の。イレイス!』
そして、また、シャドウは用が済んだので消滅した。
「えっ、鑑の?」
風向きが変わって来た。
我輩は恐る恐る三枚目をフォトリベする。
『③。屋敷の中にある。イレイス!』
「ええっ!」
我輩は躊躇した。大魔王の秘宝は鑑の屋敷の中!?
★ ★ ★
学校に登校した後、我輩は鑑の方ばかりを見ていた。
休み時間、露世は用を足しに席を立っている。
だから、鑑のほうばかりを見ていた。
なんと、切り出そう。大魔王の秘宝のことを言うべきか、言わざるべきか。
でも、大魔王の秘宝目当てに鑑の家に行くのか……。
じろじろと眺めていた我輩に気づいた鑑は、読んでいた本を閉じて立ち上がった。そして、我輩の方に歩いてきた。
「何かな? 写影子?」
面白そうに、鑑は我輩の方を半眼で見下ろしている。
「い、いや……。ま、前に言っていた夜会って何するのかなって」
「じゃあ、遊びに来る?」
「いや、夜会の準備するところだけちょこっと見せてくれればいいから!」
やはり、夜会に参加する勇気はない。夜会の会場だけでも見れたら、光のポイントがあるかもしれない。
「じゃあ、今日の夜迎えに行くから、僕の家に遊びにおいで?」
よ、夜!?
「じ、じゃあ、露世も!」
「写影子だけ招待しているんだけど」
にっこりと笑った鑑に、我輩はそこはかとない嫌な予感を感じた。
行くべきか、行かざるべきか。




