第一話 出生の秘密と警告
連辞がインターホンを鳴らしたのは、我輩たちの食事が済んだ後だった。
出迎えると今日の連辞は大人の姿だった。
買い物袋をたくさんぶら下げて、主夫のように入ってきた。
「写影子ちゃん、お待たせ~って、あれっ?」
連辞はキッチンで食事を済ませた露世を見て、瞬きした。
露世が椅子に手をかけて振り返った。
「連辞ィ、メシならもう済んだぜェ」
「来るのが遅かったね」
「おなかいっぱいなのだ……」
我輩たちは出来合いのお弁当を食べて、至福の時をまどろんでいた。
連辞は残念そうに眉を下げた。
「ええっ、お寿司買ってきたのになぁ」
「食べるのだ!」
買い物袋に飛びついた我輩に、連辞はにっこりしている。
露世と鑑はあきれたように笑っている。
「月野原は、まだ食うのかァ」
「そうだね! 写影子を養殖した後は、僕がおいしく調理するから!」
「夜桜ァ、寒いんだよォ!」
わけわからん鑑のギャグに、露世が食って掛かっていた。険悪な二人の雰囲気に、我輩は慌てて入っていった。
「もう、やめなよー」
連辞は、止めずに我輩を眺めていた。元気そうな我輩に安心しているのかもしれない。
けれども、鑑は煮え切らない連辞が気に入らなかったようだ。
「連辞は、写影子のことが色々と分かったから来たんじゃないのかな?」
「……ああ。でも、それは今はいいかな?」
我輩は、言葉を濁した連辞にすがった。
「教えてほしいのだ!」
我輩の目が真剣だったせいか、連辞は嘆息した。
そして、真剣に我輩を見返した。
「……市役所行って調べてきたんだが、写影子ちゃんの戸籍謄本を見たら、特別養子縁組していたようだよ」
「特別養子縁組……」
「特別養子縁組は、実親が養育看護することができない場合の特別な養子縁組だよ。義親がシャドウの二人になっていたようだよ」
やっぱり、父と母はシャドウだったのか!
「じゃ、じゃあ、我輩の本当の親は!?」
「シャドウではないオリジナルの親がどこかにいるってことじゃないかな?」
連辞が言葉を濁した。
「写影子の、本当の親御さんは分からないの?」
「ああ。特別養子縁組の場合、実親とは縁が切れるからね。調べられないように徹底しているわけだ」
「そ、そんな……」
落ち込んで今にも泣きそうな我輩に、露世が明るい声を出した。
「月野原、親父さんから手紙が来たって言ってただろ?」
「そ、そうだったのだ! 消印を見れば!」
我輩は涙をぬぐって、二階の部屋に駆けあがった。
そして、封筒をひっつかんで戻ってきた。
「これ!」
期待を込めて、連辞に封筒を渡した。
連辞は、封筒の裏表を確かめて、再び気落ちしたように嘆息した。
「ダメだ。これは消印がない」
「誰かが、郵便受けに入れに来たってことかなァ」
「じゃあ、これは四ツ葉が調べるから、写影子ちゃんは今まで通り普通に暮らしてね?」
「う、うん。でも、父から来た手紙にレイフォトが入っていたんだけど……」
我輩は、レイフォトが手紙のようだったと話した。
まるで、暗号のようだった。嘘で塗り固められたレイフォトを破ると、真実が隠されていた。
我輩はメモしてあったタブレットを見せて説明した。
「これが、もとの文面『①、写影子。』『②お前は』『③シャドウだ。』『④シャドウ』『⑤らしく』『⑥生きよ』で、これをフォトリベすると、父のシャドウができて、『①、写影子。お前は』『②、本物でオリジナルだ』『③、私たちの愛する娘よ』『④、私たちがいなくても』『⑤、強く生きよ』『⑥、また会おう、写影子』に、なったの」
タブレットから顔を上げると、三人は絶句していた。
その一時後、鑑がようやく言葉を発した。
「ちょ、ちょっと待って、写影子」
鑑に続き露世も動揺の限りを尽くしている。
「そ、そんなこと不可能だろ? そもそもレイフォトは、自然にできるものだから、真実を手紙の文面にするなんて無理だろ?」
我輩は相槌を打った。
「だよね、変なんだよ、だから」
「連辞なら、四ツ葉だから分かるかな?」
鑑が連辞を見上げた。
連辞はフォトリベの事件を主に扱う警察組織の四ツ葉の特別捜査員だ。だから、何か知っているかもしれない。
「普通はそうなんだけどね。特殊能力を使えたら、できないこともないんだよ」
「そ、そうなの? なんかすごいのだ……」
「レイフォトを手紙にするだなんて、写影子ちゃんのお父さんも相当なつわものだね」
「う、うん」
そうして、この日はお開きになって解散した。
そうして、翌日。また、行方不明の父から手紙が届いたのだ。
開封すると、二枚のレイフォトが出てきた。
『①、写影子は』『②、元気でやっているか?』
我輩はうれしくなって、そのレイフォトを何度も眺めた。
「でも、これが本当の文章じゃないんだよね。レイフォトだから」
我輩はまた、①から順番に、フォトリベしていった。
すると、詩口写実の上半身だけの例のシャドウになった。作り物のそれは、淡々とした口調で喋り出す。
『①、詩口写実に、消去!』
例によってシャドウは用が済んだら勝手に消滅した。
「詩口さんが何だろう?」
父の手紙に、詩口写実のことが書かれるとは思っていなかった。
首をかしげながら、二枚目をフォトリベする。
『②、気を付けろ。消去!』
「えっ、どういうこと……?」
それは、父からの警告だった。
心寂しくなった我輩は、露世にスマホで電話を掛けたのだった。




