第十三話 三章完結 手紙
目を開けると、なじみのある我輩の部屋の天井が見えた。
のそのそと起き上がると、ベッドの上だった。
布団が衣擦れの音がして我輩の体からベッドの上に落ちる。
ぼんやりとした意識のままで考える。誰かが、我輩の家まで送ってくれたのだろうか。
自分の姿を確かめると、我輩服のままだった。
一階に降りていく。木の階段がわずかにきしむ音がする。
夕暮れ時。料理をしている母の姿はなかった。母と談笑している父の姿もない。
無人の家は、がらんとして静寂に包まれている。どの部屋も空っぽだった。
ファミレスで見たのは、ただのシャドウじゃないか。
ただの、嫌がらせの――。でも、どうして二人はいない……?
「なにか、手掛かり……」
庭に出て、郵便ポストを確かめる。すると、手紙が一通入っていた。
宛名を見ると、父からだった。
我輩は、部屋に駆け戻って手紙を開封した。すると、手紙と写真が六枚入っていた。
「これは、レイフォト? なんで、お父さんが?」
それは、普通の写真ではなく、レイフォトだった。
おかしな話だった。あれほど、探偵の能力を否定していた父が、自らレイフォトを送ってくるだなんて。
そもそも、父が完全に消去されたのだとしたら、これを送って来れるわけがない。
希望があふれてきた。
しかし、肝心の手紙は真っ白だった。
仕方ないので、レイフォトをめくっていった。
「はは……」
乾いた笑いが漏れる。
レイフォトには、文字が書かれてあった。
「『①、写影子。』『②お前は』『③シャドウだ。』『④シャドウ』『⑤らしく』『⑥生きよ』かぁ……」
我輩は肩を揺らして、泣きそうになりながら笑った。
我輩の名前が大嫌いな理由がこれだ。
『写影子』という名前。
我輩はこの名前のせいで、ずっと誰かの写影だと思っていた。
恐れていたことが現実になった。我輩は、詩口写実のシャドウか……。
我輩の口から、疲れたため息が出た。
けれども、おかしなことに気づいた。
これは、レイフォトだ。フォトリベしたら、シャドウが真実を喋るアレだ。
父の残したものだからフォトリベしたくなかったが、意を決してフォトリベしていった。
シャドウは人形のような父の上半身の姿を模していた。
それが、笑顔で穏やかに喋り出す。
『①、写影子。お前は。消去!』
例によって、シャドウは用が済んだら勝手に消えた。
『②、本物でオリジナルだ。消去!』
「えっ!? どういうこと!?」
『③、私たちの愛する娘よ。消去!』
『④、私たちがいなくても。消去!』
我輩は、大泣きした。もう、両親に会えないのだろうか。
辛かったが、もう一枚のレイフォトをフォトリベした。
『⑤、強く生きよ。消去!』
我輩は、最後の一枚をフォトリベした。
『⑥、また会おう、写影子。消去!』
「えっ? また会おう? どういうこと?」
これは、父の悪い冗談なのか? ぴたりと涙が止まった。
そもそも、このレイフォトは手紙のようだ。
父がレイフォトを作ったとでもいうのか。
「もしかして、お父さんとお母さんは無事……? じゃあ、オリジナルの父と母はどこかで生きているってこと……?」
またなということは、再会できるかもしれないということだ。
だんだんと元気が出てきた。涙をぬぐって立ち上がった。
「月野原ァ!」
「写影子~!」
家の外から呼ぶ声がして、我輩は二階の自室の窓を開けた。
門の前に、露世と鑑が立っていて、手を振っている。
「露世、鑑、どうしたの?」
「一緒に、メシ食べようぜェ」
露世が買い物袋を持ち上げて笑った。
我輩は、一人じゃなかった。我輩はにっこりと笑って、声を張り上げた。
「ちょっと待ってね! 今、鍵を開けるから!」
そうして、我輩は露世と鑑を家に通して、夕飯を一緒に食べることになったのだった。




