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八年前②

心のお話です(笑

 数分前、城門前にて。

「ふふ、本当に来るとは思わなかったなあ。」

 ヴァイアスはどこからか聞こえる声に耳を傾ける。

「こっちだよこっち。君の後ろ。」

「!」

 その言葉で、ヴァイアスは直ぐ様後ろを向く。

 そこには、少し不気味な雰囲気を持った青い髪の青年が立っていた。

「はは、そんな怖い顔しなくてもいいのにさあ。」

「今更俺に何のようだ。」

「分かってるだろう?

 これが最後のチャンスさ。

 戻ってくる気はないのかい?」

「俺は戻らん。それは変わらん。

 俺に戻る気がないことくらい、お前には分かっていただろう。ヤコブ。」

 青年、ヤコブは不気味な笑みを浮かべる。

 そのどこか不気味な雰囲気が、この白銀の世界の中ではとても歪に見えた。

「そう。残念。

 じゃあ、仕様がないね。

 ヨハネ、ダダイ、後は頼むよ。」

「なにっ!」

 ヴァイアスはその名を聞き、目を見開く。

 ヤコブはパチンと指を鳴らすと、その場から消え、入れ替わりにヤコブが消えた場所の左右に一組の男女が現れる。

「お久しぶりね。ヴァイアス。」

「・・・。」

「まさか使徒が三人も出てくるとはな・・・。

 何を考えてやがる。」

 紺色の髪をした寡黙そうな大男、ダダイと、赤い髪をしたうるさそうな女、ヨハネ。

 どちらも強いことを知っているヴァイアスは、どうにかしてこの場を逃れなければと考える。

「ふふ、私たちから簡単に逃げられるわけはないと、あなたも分かっているでしょう?

 余計なことはしないことね。

 ダダイ。彼を見張っていてちょうだい。」

「うむ。」

 ヨハネはダダイに命令すると王城の方へと入っていく。

「何をする気だ!」

「ふふ、じき分かるわ。」

 ヨハネが笑みをたたえながら中に入っていく中、ヴァイアスは一歩前に出る。

「ここからは行かせん。

 どうしても行きたくば、俺と戦うことだ。」

 低く小さい声、だがそれには圧倒的な威圧感が込められている。

「くっ、仕方ねえな。

 あまりお前らとは戦いたくなかったけどなあ。」

「俺は戦ってみたかったぞ。使徒最強だった男、ユダ。

 貴様の実力、見せてもらおう。」

 その言葉と同時に、二人から強大な魔力が放出される。その波動であたりの雪が粉となり、辺りを白く塗りつぶす。

「この魔力にならさすがにみんな気付くだろう筈だ。

 迂闊だったな。簡単に俺の誘いに乗ったのは。」

 その言葉を聞き、ダダイもふっ、と笑みをこぼした。

「そんなことで俺達の計画は潰れん。そのことも予測してヨハネが結界を張ったのだ。」

 ヴァイアスは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 一か八かにかけたが、やはりそう簡単に行かないということだ。

「なら、ここでお前を倒すだけだな!」

 ヴァイアスから放出されていたマナが収束し、魔装が展開される。

 それを見て、ダダイもすかさず魔装を展開。

 ヴァイアスのハルバードとダダイの大槌がぶつかり、火花が散った。




 時は戻り、パーティ会場。

 私はあまりの揺れに足を取られ、倒れこむ。

 皆もあまりの揺れで、椅子から落ちるもの、床に倒れこむものがいた。

 だがそれもほんの十秒の出来事だった。

 グラスや椅子は倒れたりしたが、シャンデリアが落ちることはなく、怪我人も少ないだろう。

 辺りにざわめきが広がる。

「落ち着いて下さい。

 皆さんお怪我はありませんか?」

 隣に倒れこんでいたクロウが即座に体勢を立て直し、安否を確認する。

 私もすぐに国王と王妃の方を見たが、怪我はないようだった。

 その後、すぐに扉が開かれ、多くの騎士が入ってくる。

 皆が無事かを確認しに来たのだ。

 その光景を見て、その場にいた全員が安心感をあらわにしたその時だった。

 黒い光の粒子が、辺りを舞い始めた。

「こ、これは?」

 私は思わぬ光景に声が出る。

 その黒い光が辺りを舞い始めたと同時に少しだけ明かりが弱くなったような気がした。

 それを見て、私の心のなかに、人知れず強大な不安感が現れた。

 何か大変なことが起こるのではないかという疑問が、それを高めていく。

 そんな私の心の事などどうでもいいように、客達が辺りを見回す中、突如、私の後ろに気配を感じた。

「あなたは強い人間でありながら、弱い心をもっているのね。」

 その女性の声に背筋がゾッとする。

 全く気づけなかった。まるで最初からそこにいたかのように。

「あなたは自分の力を恐れている。日に日に力が強くなるのではないかと、恐れているのね。」

 本心が見ぬかれているような錯覚を覚える。だが、私がそう考えているのは事実だ。

 本当に心の中を見られているのか、という疑心が私の心の不安を更に大きくする。

 疑心だけではない。恐怖心も、心のなかで大きくなっていく。

 早くこの感情の渦から逃げ出したいと思えてくる。

 だが逃げ出そうとしても、黒い光が道を遮り、逃げ場がなくなる。

 心が黒く塗りつぶされるような感覚、自分が自分でなくなってしまいそうな、そんな気分だ。

 周りの音が遠くなっていく。

 代わりに自分の心臓の鼓動が、呼吸音が、やけに大きく聞こえた。

 そして、頭のなかに声が響き渡る。

「私に従えば、その感情からすぐに逃げられるわ。

 さあ、手を伸ばして、私の手を取りなさい。

 ふふふ。」

 その言葉に、私の頭のなかに警鐘が鳴り響く。

 だが、早くこの渦から抜け出したいという気持ちが、私の中で鳴り響く鐘を破壊した。

 見ず知らずの人間だ。どう考えても、これは可笑しいと気づけるはずだった。

 だが、今の私にそんな事を考える余裕はなかった。

 私はただ、開放されたい一心で、無意識の内に、心の中へと伸ばしてくる手をとった。

 それは一筋の光に見えたのかも知れない。

 けれど、その光が黒く染まっていたことに、この時、私の弱い心では、気付くこともできなかった。

「これで、あなたは開放される。

 さあ、周りにいる人間を殺しなさい。

 そうすれば、あなたはその感情から開放されるわ。」

 私の心が、為す術もなく、黒く、黒く、塗りつぶされていった。


 

 


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