心の傷
短いです。
「久しぶりだな。ミリア。」
昔の名、本名を言われたミアは、ヴァイアスの顔を見る。
八年前の記憶が思い起こされる。
「?」
ふと、ミアは違和感を感じた。やけに涼しく、肌に触れる感触がいつもと違うことに気がついた。
「・・・。」
ミアの顔が、性格に似合わず真っ赤に染まる。
ミアはその場から立ち上がり、ヴァイアスの頬を殴った、ということはなく、恥ずかしがるようにして掛けてあったシーツで体を隠した。
「ああ、悪いな。勝手に脱がさせてもらった。
後、あの服はたぶんもう来ないだろうから、下着以外は勝手に捨てさせてもらったぞ。」
ヴァイアスは羞恥心など一切見せず、淡々と答える。
ミアはその言葉で、まるで火が吹き出すのではないかというほど、顔が熱くなった気がした。
ヴァイアスが替えの服をアリアに持ってこさせた後、ミアは早々にヴァイアスを退散させ服を着る。
「姉ちゃん。傷は大丈夫なのか。」
体のあちこちにある包帯やガーゼを見て、アリアは心配そうに聞く。
「ええ。少し痛むけれど、無理をしなければ大丈夫よ。」
脇腹を刺されているはずだが、ミアは何事もないように答える。
「そんなことよりも、あなたの方は無事だったみたいね。」
「ああ、うん。なんにもなかったよ。」
自分のことには無頓着なのか、ミアは自身よりもアリアの身の心配のことを考えていた。
「おい、もういいか。」
「あ、はい。」
ミアが着替えを終えると、部屋の外からタイミングよくヴァイアスの声が聞こえる。
ミアが答えると、ヴァイアスは部屋に戻る。
「おとこもんだが、結構にあってるじゃねえか。」
ヴァイアスは先程まで座っていた椅子に腰掛ける。
ミアも先ほどまで寝ていたベッドに腰掛け、アリアもその隣に腰掛ける。
「さて、なにがあったか話を聞こうじゃねえか。
どうせ、『奴ら』となにか関係があるんだろう?」
いきなりそこか、とミアは心のなかで愚痴る。
「その前に、私も聞きたいことがあります。」
「何だ、だん・・・、ヴァイアスさんは、何故こんな場所に?」
ミアは最初に疑問に思ったことを答える。
ヴァイアスは、八年前、アルテア王国騎士団団長を務めていた。
ミアは当時の一騎士だったが、学園の卒業成績と、ミアが事件を起こすまでの一年間の功績を称えられ、未来の副団長を約束されていた。
事件の日、ミアが『死亡』した後、団長への責任は追及されはしなかったものの、ヴァイアスは監督責任を取り自主退団した。
ヴァイアスはこの国において当時の最高戦力だったため、国家は手放したくなかったがために責任を追求しなかったのだ。
その後のヴァイアスの行方は全く分からず、ミアも今日まで全く行方をつかめなかったのだ。
「何故、それはお前が一番よく分かっているはずだが?」
ヴァイアスは肩をすくめる。
「では彼女が・・・。」
ミアはちらっとアリアの方を見る。
「?
何?」
「あなた、親は?」
「ばあちゃんがいたけど、一年くらい前に死んじゃったよ。
それがどうかしたの?」
「あなたはそのおばあちゃんから、何か話を聞かなかった?
自分の秘密とか・・・。」
「ううん。母ちゃんも父ちゃんも死んだから、引き取られたんだってことくらいかな。」
「そう・・・。」
ミアはアリアの話を聞き、うつむく。
「俺はどうしようが構わんぞ。」
ヴァイアスは面倒くさそうに答える。
「・・・。」
数秒の沈黙。
先に口を開いたのは、アリアだった。
「何か知ってるなら、教えてよ。
僕のことさあ。」
真実を知らないアリアは懇願する。
ミアの瞳が揺れる。
ミアは今にも泣き出しそうだった。
「ミリア、強がってもいいことはねえぞ。
お前の性格だ。どうせ引きずってんだろ?
ここで話した方が楽になるかもしれんぞ?」
ヴァイアスはまるでミアのことを全て分かっているかのように話す。
だがミアにとっては、事実そのとおりだ。
「・・・、分かったわ。
話を聞いた後に、公開しないでね?」
「うん。」
ミアは話す決意をする。
その時、アリアが見たミアの顔は、とても悲しそうで、とても弱々しく感じた。




