遠い世界
夢を見ました。昔の夢です。
温かいベッドの中、母の温もりを感じました。
「昔々、ある所に一人の英雄がいました。」
いつも聞いていたお伽話(実話)は決まって同じ言葉で始まるのです。
私はまるで少年のように、心を踊らせて聞いていた。
「その英雄の名前は光の勇者、ユアンと言いました。」
とても有名な話。この惑星の中では知らない人はいないであろう、原初の物語。
聖書の中にも出てくるこの時代の原点の物語。
「勇者ユアンは、一匹の竜とともに、全てを破壊する翼を持った怪物と、十二の眷属と戦いました。
ユアンは三日三晩、眷属達と戦い続け、ついに翼を持った怪物のもとに辿り着いたのです。
怪物はこう問いました。
『光の勇者ユアンよ、よくぞわがもとに辿り着いた。だが、本当にわれと戦う覚悟はあるのか?』と。
そしてユアンはこう答えました。
『覚悟はもうできた。迷うこともない。
この世界を滅ぼさせたりはしない。
自分を犠牲にしてでもみんなを守るんだ!』と。
ユアンはその手に持った正義の聖剣、テミスを掲げ、怪物へと挑みました。
怪物との戦いは熾烈を極めるものでした。
そして遂に、怪物との戦いに終止符を打つ時が来ました。
怪物は言います。
『お前はよくやった。だが我は倒せぬ。貴様が人間である限り、我は倒せぬのだ。
未来は変わらぬ。今も、そしてこれからもだ。」
ユアンはボロボロの体で俯きました。
そして、もう一度翼の怪物へと、もう一度顔を向けるのです。
そこに絶望の色はありません。
『僕はみんなの、この世界の意思を背負っているんだ。決して負けたりはしない。
言ったはずだ、自分を犠牲にしてでも、この世界を守るんだ!』
その時、ユアンの持つ聖剣に光が集まってきたのです。
その輝きはユアンの思いに呼応するように、除々に大きくなっていったのです。
輝きが最大に達した時、ユアンは言います。
『僕は一人の人間だけれど、心は一人じゃない。
みんなのくれた思いが、意思が、僕の心に宿っているんだ。
それを踏みにじるお前は、この世界にはいらない!』
その言葉とともに、ユアンは怪物へと剣を振り下ろしました。
聖剣は怪物へと、まるで吸い込まれるように振り下ろされました。
そして、遂に、怪物の体を切り裂いたのです。
その時、怪物は言います。
『さ、さすがだ。光の勇者ユアンよ。だが、言ったはずだ、我はこの程度では破れぬ。
決して、な。』
怪物はその言葉とともに、光となって消えました。その光は、水晶となって、転がり落ちました。
ユアンは見事、怪物を打ち倒したのです。
ですが、ユアンの傷はとても深いものでした。
魔力さえも使い果たしたユアンはその場に倒れこみます。
『僕は、守ったんだ、この、世界を・・・。』
そして、ユアンは闇の中へと沈んでいきました。
こうして私たちの世界、エリアは守られたのです。 」
私はその後、こう言いました。
「ねえ、ユアンはどうなっちゃったの?」
この時の私には、ユアンがどうなったのか、さっぱり分かりませんでした。
直接言えなかった母は、こう言いました。
「遠い世界に行っちゃったんだよ。」と。
ですが幼い私には、やっぱり言葉の意味が分かりませんでした。
そして、急に母が遠くなったように感じました。
母が少しずつ小さくなっているのです。
私は叫びました。
「お母さん、行かないで!」
ですが母は、少しずつ、少しずつ小さくなり次第には見えなくなってしまいました。
その時、目の前が真っ暗になりました。
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次に視界が開けると、そこはお城の中でした。
皆が走り回っています。まるで逃げているように。
たくさんの人が倒れ、辺りは赤く塗りつぶされていました。
「裏切り者。お前がみんなを殺した。」
目の前に、一人の男が現れました。それは、私の後輩です。
「お前が皆を裏切った。お前がみんなの思いを踏みにじった。」
そして隣にまた一人、今度は女性が現れました。今度は私の上司でした。
「どうしてお前が生き残ったんだ。お前なんて、生まれてこなければよかった。」
後ろを振り向くと、私の同級生がいました。
そして、幼なじみが、友人が、仲間が、多くの後輩が、先輩が、上司が、守るべき国民たちが、私にこういうのです。
「死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。」
突然言葉やみました。
目の前には母親が立っていました。
「お母さん!」
私は叫びました。母に助けを求めました。
そして、母はこう言いました。
「どうして、どうしてあなたを産んでしまったの。」
まるで時が止まったようでした。
そしてまた呪詛のように、言葉が始まりました。
「私は悪くない・・・。」
私は突然泣きだしたくなりました。心が壊れてしまいそうでした。
「止めて・・・。」
みんなの思いが、私の心の中に流れ込んでくるようで、とても恐怖しました。
「そんなこと・・・言わないで・・・。」
そして、最後にみんなはこう言いました。
「お前何か、いらない。」
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「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおあ!」
うとうとしていたヴァイアスは突然の叫び声に、びくっとする。
体を起こした、ミアは異常なほど汗を流している。
「はあ、びっくりさせるなよ・・・。」
ヴァイアスは安堵したように溜息をつく。
「はあ、はあ、はあ・・・。うっ、痛っ。」
ミアは息を落ち着かせると、脇腹の辺りに激痛を感じた。
「あまり無理するなよ、まだ傷口が塞がってねえんだからな。」
ミアはヴァイアスの言葉にコク、と頷くが、とても辛そうだ。
ある程度落ち着くと、ミアは辺りを見回す。
見たことのない部屋だ。
「調子はどうだ?」
ミアはその言葉で、ようやくヴァイアスの方を振り向く。
その時、ミアは眼を大きく見開いた。
「だん・・・ちょう・・・?」
ミアの時間が、まるで夢のように、止まったような気がした。




