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白虎を見た朝

初投稿です。

自分の妄想を召喚しました。

私は、清水橙子(しみず・とうこ)。


朝凪高等学校二年生だ。


高校では文化研究部に所属している。


現在は部活動の一環として、フィールドワークの真っ最中だ。


私は少し離れた場所から、その様子を観察し、記録している。


もっとも――


うちの部のフィールドワークは、少々普通ではない。


「尊流! 右から来る!」


「見えてる!!」


槍宮尊流(やりみや・たける)が地面を蹴った。


その手には長槍。


いや、一本ではない。


空中に次々と現れた槍が、豪雨のように巨大な怪物へ降り注いでいく。


怪物が吠え、地面が震えた。


その反対側では、白に近い金髪をなびかせた小柄な少女――槍宮灯莉(やりみや・あかり)が、巨大な白虎とともに駆けていた。


「円! そっち行ったわよ!」


「えっ!? こっち!?」


そして。


そんな彼らの中に、一人だけ明らかに緊張した様子の少年がいた。


一ノ瀬円(いちのせ・まどか)。


高校一年生。


彼が握っているのは――


一振りの刀。


それだけだった。


私はこのとき、まだ知らなかった。


その刀が何なのか。


彼が何者なのか。


そして――


この一年で私たちが何を見ることになるのか。


この物語は。


一ノ瀬円と槍宮灯莉が出会ったところから始まる。


     ◇


――帰りたい。


声が聞こえる。


誰の声だろう。


――帰りたい。


俺は夢を見ているようだった。


何もない。


どこなのかも分からない。


なのに――どうしようもなく寂しい。


――帰りたい。


……どこに?


分からない。


ただ、この夢から早く覚めたいと思った。


「円にーちゃん! 朝だよ!!」


「……うわっ!」


目を開ける。


見慣れた天井があった。


「…………夢か」


ここは、一ノ瀬孤児院。


俺の家だ。


「あら、起きた? 今日から高校生なんだから、自分で起きられないとね」


寝室の扉から、忙しそうに顔をのぞかせた女性。


一ノ瀬陽子(いちのせ・ようこ)さん。


俺の育ての親だ。


十二歳のとき、俺をこの一ノ瀬孤児院に引き取ってくれた人で――


「……って、えっ!?」


時計を見る。


「やばい! 入学初日から遅刻は、さすがによくない!」


「ごはん、食堂に置いてあるからね!」


「ありがとう、陽子さん!」


俺は食堂へ駆け込み、朝食を急いでかき込んだ。


それから手早く制服に着替え、鞄をつかむ。


玄関で靴を履きながら、ふと思う。


「高校か……」


新しい学校。


新しいクラス。


新しい生活。


「……友達、できるかな」


「円!」


振り返る。


陽子さんが廊下の奥からこちらを見ていた。


「いってらっしゃい」


「……うん!」


俺は笑って答えた。


「いってきます!」


     ◇


入学初日。


最寄り駅に着いた俺は、寝坊で失った時間を取り戻すように、少し早足で学校へ向かっていた。


後ろから、


タッ、タッ、タッ――


と、小走りで近づいてくる足音がする。


「まだ時間、大丈夫よね……」


そんな独り言が聞こえた。


俺と同じで遅刻したのかな?


そう思った直後、その少女が俺の横を通り過ぎる。


すれ違いざま――


目が合った。


綺麗な琥珀色の瞳。


とても小柄で、小麦色の健康的な肌。


髪は白に近い淡い金色だった。


かなり目立つ外見だったと思う。


ただ――


そんなことよりも。


目が合った瞬間。


ある光景が、俺の頭の中へ飛び込んできた。


しんしんと雪が降り積もる、雄大な雪山。


白く霞む峰々。


そして、その奥に――


見上げてもなお全貌を捉えきれないほど巨大な、


白い虎。


「――白虎?」


「え!?」


少女が勢いよく振り返った。


「出てた!? ……あなた、白虎が見えたの?」


「え?」


しまった。


時々、こういうことがある。


人を見ると、なぜか知らない光景が頭に浮かぶことがあるのだ。


自分には妄想癖でもあるんじゃないかと思っている。


でも――


今のを口に出したのは、まずかったかもしれない。


「あ、いや……なんでもないよ」


「…………」


少女はしばらく、じっと俺の顔を見ていた。


「ふーん……まあ、いいわ」


そして俺の制服を見る。


「あなた、朝凪高でしょ? 一年?」


「あ! そうだよ。一ノ瀬円っていいます」


「私は槍宮灯莉」


少女――槍宮灯莉は、そう名乗ると。


「放課後、ちょっと付き合いなさい」


「…………え?」


     ◇


気の利いた自己紹介。


それをキッカケにできた新しい友達。


これから始まる高校生活――。


そんなものを少しは想像していた。


けれど。


朝の出来事がどうにも頭から離れず、心ここにあらずだった俺に、そんな青春の予兆は一切なく――


気づけば、入学初日の最後のホームルームが終わろうとしていた。


……まずい。


このままでは、本当に誰とも話さず一日が終わる。


ここがラストチャンスだ。


教室を出るまでの、このわずかな時間。


ここでフックをかける。


明日につなげるのだ。


俺は意を決し、隣の席の男子へ顔を向けた。


「あ、あの――」


ガラッ!


「あ! 一ノ瀬くんいた!!」


教室中の視線が、


廊下に立つ小柄な少女と――


俺に集中した。


「よかった! 隣のクラスみたいね」


槍宮さんは、朝と変わらない調子で言った。


「約束通り、付き合ってもらうわよ」


「…………」


さっきまで話しかけようとしていた隣の男子も、俺を見ている。


クラスのみんなも、俺を見ている。


そして俺は思った。


――友達、できるかな。


     ◇


廊下を、俺と槍宮さんは並んで歩いていた。


やがて彼女は、一つの部屋の前で足を止める。


「ここ」


扉の横に掛けられた札を見る。


文化研究部。


「文化……研究部?」


「そう! 兄さんが朝凪の三年なんだけど、文化研究部に所属してて。私も前から時々顔を出してるの」


「そうなんだ」


俺はもう一度、部室の札を見る。


「それで……俺をここに連れてきたのは?」


「…………」


槍宮さんは廊下をちらりと見た。


下校途中の生徒が何人か通り過ぎていく。


「まあ、ここじゃ話しにくいから」


「?」


「とにかく入って」


ガラッ。


「あ! 橙子さん!」


部室の中にいた眼鏡の女子生徒が顔を上げた。


何故か制服の上に白衣。


そして足元はクロックスだ。


「灯莉ちゃん! ああ、そうか。今日からついに朝凪生なんだね」


「はい! これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ」


「あ! そうだ!」


灯莉が俺を振り返る。


「連れてきたよ! 新しい仲間!」


「新しい仲間?」


橙子さんと呼ばれた女子生徒の視線が、俺に向く。


「それって……召喚士!? 能力者なの!?」


途端に目を輝かせて、俺の方へ身を乗り出してきた。


「えっ」


なんだ。


何の話をしてるんだ?


「あの……何が何だか……」


「まだしらばっくれるの?」


灯莉が呆れたように言う。


「もう部室なんだからいいでしょ?」


そして――


「これよ」


灯莉の足元に、淡い光が走った。


それは床の上に円を描き、複雑な模様へと変わっていく。


その中心で光が膨らみ――


白い獣が、ゆっくりと像を結んだ。


「……」


白虎。


朝、灯莉と目が合った瞬間に見えた、雪山の奥にいた巨大な白虎。


あれよりは小さい。


それでも、普通の虎の一回りか、二回りほど大きい。


真っ白な毛並み。


鋭い牙。


太い脚。


そして何より――


灯莉と同じ、澄んだ琥珀色の瞳。


怖い。


……はずなのに。


なぜだろう。


最初に出てきた言葉は、それじゃなかった。


「……綺麗な目だね……」


「なっ!?」


灯莉の顔が赤くなった。


「な、何言ってんのよ!」


それから少しムッとしたように俺を見る。


「白(はく)を見せたんだから、勿体ぶらずにやってみて」


白……白虎の名前かな


「俺も?」


「そうよ」


「いや、そうはいっても……」


「いいから!」


召喚。


さっき橙子先輩がそう呼んでいた。


灯莉の内側にあった、雪山と白虎。


そして今、その白虎はここにいる。


つまり――


内側にある何かを、こっちに呼び出している。


なんとなく。


本当になんとなくだけど。


分かる。


「……やってみる」


目を閉じる。


自分の内側を探る。


――暗い。


何もない。


朝の夢と同じだ。


ただ、真っ暗な空間の中を、小さな光の粒が漂っている。


山もない。


空もない。


白虎もいない。


でも――


何かがある。


もっと奥。


見えないけど、確かにある。


――あった。


「……いける気がする」


「ま、待って。あなた本当に初めて――」


灯莉の声が聞こえた。


でも、不思議なくらい集中できていた。


召喚陣。


灯莉がやったのと同じ。


内側と、こっち側を繋ぐもの。


――トンネル。


そんなイメージが自然と頭に浮かんだ。


向こうと、こっち。


二つを繋ぐ。


――来い。


足元に光が走った。


光は円を描き、俺の前へ集まっていく。


そして。


その中心から――


一振りの刀が現れた。


「……!」


反射的に柄を握る。


ずしりとした重さ。


ちゃんと、ある。


「で、できた……!」


「……本当に初めてだったんだ」


「うん!」


「すごいよ!」


橙子先輩が勢いよく近寄ってきた。


「召喚陣も綺麗だった! 初回なのに、ほとんど乱れてない!」


「そうなんですか?」


「うんうん、それに召力の流れも――」


橙子先輩が眼鏡を押し上げる。


「一ノ瀬くん」


「はい?」


「それ、もう一本出せる?」


「えーー!?」


刀を見る。


「……やってみます」


もう一度、自分の内側を探る。


暗闇。


光の粒。


さっき刀があった場所。


「…………」


ない。


「どう?」


「無理ですね」


「え?」


「もうないので」


「…………」


橙子先輩の動きが止まった。


「……もう、ない?」


「はい」


「……一本しか?」


「たぶん」


「…………」


ガラッ。


「何の騒ぎだ?」


部室の扉が開いた。


少し長めの黒髪。


整った顔立ちだけど、どこか近寄りがたい雰囲気の男子生徒。


「あ、部長!」


橙子先輩が振り返る。


「ちょうどいいところに来たよ。この子、一ノ瀬くん。さっき初めて召喚したんだけど、刀が一本しか――」


男子生徒――橘修二(たちばな・しゅうじ)先輩は、俺の手元の刀を見る。


「――それも気になるが」


そして、表情を変えた。


「初めてなんだとしたら、そんなことより――」


「?」


「一ノ瀬。お前、今どこに住んでる?」


「え?」


「家族は?」


「……一ノ瀬孤児院です」


「孤児院?」


修二先輩が一瞬黙る。


「……それは、あまり良くないかもな」


「あ!!」


灯莉が、明らかに「しまった」という顔をした。


「……どういうことですか?」


「そうだな……」


修二先輩は少し考え込む。


「最近、発生件数も増加しているし……」


そして灯莉を見る。


「灯莉。一ノ瀬に実物を見せてやってくれないか」


「…………」


灯莉の顔が固まった。


「……わ、分かったわ」


「実物?」


     ◇


灯莉に先導され、俺たちは校舎を出た。


さっきまでより、明らかに元気がない。


「槍宮さん」


「……なに?」


「見せるって、一体何を?」


少しの沈黙。


「……異客(いかく)」


「いかく?」


「『異なる』に、『客』って書くの。私たちはそう呼んでる」


灯莉は前を向いたまま続ける。


「橙子さんの話だと、ここじゃないどこかから、この世界に来てるんじゃないかって」


「ここじゃないどこか……?」


「うん。詳しいことは、私にはよく分からないけど」


「異客って……どんな人たちなの?」


「人じゃないよ」


「え?」


「獣みたいなのもいるし、空を飛んでるのもいる。もっと変なのもいる」


「…………」


「それで……」


灯莉の声が小さくなる。


なんだか、嫌な予感がした。


「……大丈夫?」


「うん……」


「それで?」


灯莉が足を止める。


「召喚術を持つ人間は……異客に狙われやすいの」


「え……?」


「私たちが召喚するときに使う力を、召力って呼んでるんだけど」


「うん」


「どうも異客は、その召力を持つ人間に引き寄せられやすいみたい」


「……」


「一ノ瀬くんには、もともと才能はあったんだと思う」


灯莉が、申し訳なさそうに俺を見る。


「でも……たぶん、さっきので眠ってた召力が表に出ちゃった」


「それって……」


「うん」


灯莉は視線を伏せた。


「これから一ノ瀬くんも、異客に襲われる可能性がある」


「…………」


「しかも、異客って普通の人には見えないの」


「見えない……?」


「召喚術に目覚めてない人には、基本的に認識できない」


俺が襲われる。


それだけなら、まだいい。


でも――


孤児院のみんなには見えない。


胸の奥が、すっと冷たくなった。


孤児院にいると。


孤児院のみんなが、危ないかもしれない。


「だから……」


灯莉が拳を握りしめる。


「わたし、一ノ瀬くんに謝らないといけない」


「えっ?!」


「わたしが軽はずみに……あなたの召喚術を呼び覚ましてしまったの」


「…………」


「……本当に、ごめんなさい」


灯莉は深く頭を下げた。


「…………」


正直。


何か特別な力に目覚めたようで、浮かれていた気持ちがなかったといえば嘘になる。


刀を一本だけとはいえ。


自分にも何か特別なことができる。


そんなふうに思っていた。


でも。


まさか、こんなタイミングで孤児院から離れなきゃいけなくなるかもしれないなんて。


陽子さん。


院長先生。


小さい子たち。


みんなの顔が浮かぶ。


「槍宮さん……」


「……本当に――」


バチッ。


「え?」


バチ、バチバチッ。


突然。


目の前の何もない空間が、帯電したみたいに光った。


「なに……?」


バチバチバチッ!!


空間が裂ける。


何もないところに、黒い亀裂が走った。


そして――


ぎょろり。


「……っ!」


目だ。


裂け目の奥から。


三つの目が、こちらを見ている。


ずるり。


巨大な何かが這い出てきた。


蛇。


いや。


蛇に似ているだけだ。


異様に太い胴体。


濁った色の鱗。


頭には三つの目。


その太さは、アナコンダなんて比じゃない。


三倍はあるんじゃないかと思うほど巨大だった。


「こ、こんなのが……」


灯莉が一歩前に出る。


「これが、異客……」


異客が大きく口を開く。


巨大な牙。


「――来て!」


灯莉の足元に光が走る。


「白!」


召喚陣が広がる。


光の中から白が飛び出し、そのまま異客へ向かって駆ける。


「俺も……!」


反射的に俺も刀を召喚した。


「一ノ瀬くんは下がってて!」


「でも――」


「まだ戦ったことないでしょ!」


「……っ」


俺は何も言えず、ただ後ずさった。


「大丈夫」


灯莉は異客から視線を外さない。


「これくらいなら、私一人でやれる!」


異客が大きく頭を振った。


牙が灯莉へ襲いかかる。


「危な――!」


そう思った瞬間。


灯莉はわずかに身体をずらした。


牙が空を切る。


続けて、巨大な尾が振るわれる。


それも。


当たらない。


一歩。


半歩。


必要最低限の動きだけで、すべてかわしていく。


異客の牙も。


尾も。


槍宮さんには、かすりもしない。


「白!」


白が跳んだ。


鋭い爪が、異客の顔面へ迫る。


異客はそれを避けようと、大きく身体を捩った。


その先には。


灯莉がいた。


「……え?」


いつの間に。


拳を握りしめる。


小さな身体を沈め。


一歩、踏み込む。


「――ふっ!」


拳が振るわれた。


ゴシャッ!!


「…………!」


鈍い音。


とても、素手で殴った音とは思えなかった。


重く硬い鈍器を、とんでもない速度でぶつけたような――


そんな音。


「グギャァッ!」


異客の巨体が大きく揺れる。


明らかに効いている。


動きが止まった。


「はくちゃん! 止め!」


白が跳躍する。


巨大な爪が、異客の胴を振り抜いた。


ザンッ――


異客の身体が、二つに分かれる。


そのまま地面へ崩れ落ちた。


「…………」


俺は刀を握ったまま、動けなかった。


強い。


白が、じゃない。


槍宮さん自身が――


めちゃくちゃ強い。


     ◇


「ただいま」


俺たちは部室へ戻ってきた。


中には橘部長と清水先輩。


そして――


もう一人。


「……でか」


思わず、そんな感想が浮かんだ。


筋骨隆々。


高身長。


制服姿なのに、どこか武人然とした雰囲気がある。


そして灯莉と同じ、健康的な小麦色の肌。


「おー!」


その男子生徒が、俺を見るなり豪快に笑った。


「お前が一ノ瀬か!」


「お兄ちゃん!」


……お兄さんか。


なんか。


ものすごく分かるな。


「お、灯莉! どうだった?」


「……うん」


「異客、見せられたか?」


「見せた」


「そうか!」


尊流先輩は俺へ向き直る。


「一ノ瀬! 俺は槍宮尊流。灯莉の兄だ!」


「あ、一ノ瀬円です」


「よろしくな!」


差し出された手を握る。


……力強い。


「それで一ノ瀬」


尊流先輩が少しだけ真面目な顔になる。


「異客、どう思った?」


「…………」


さっきの異客を思い出す。


三つの目。


巨大な牙。


そして。


もし、あれが孤児院に現れたら。


「……とても怖かったです」


「だよな」


「自分が襲われるだけならまだいいです。でも……周りの人が巻き込まれると考えると、とても恐ろしいです」


「そうだよな」


尊流先輩が頷く。


「一ノ瀬は孤児院に住んでるんだってな」


「はい」


「なら、お前も考えてる通りだ」


「……」


「少なくとも、自分で自分と周りを守れるようになるまでは、孤児院に住むべきじゃない」


「……そうですね」


異客を見たあとでは。


俺自身、そう思う。


でも――


「じゃあ、俺……」


「そこでだ!」


尊流先輩が、にっと笑った。


「一ノ瀬」


「はい」


「うちに住め!」


「…………」


「え!?」


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」


灯莉が勢いよく振り返る。


「なんだよ。部屋ならあるだろ?」


「そういう問題じゃないでしょ!」


「何か不都合があるか?」


「…………!」


灯莉が言葉に詰まる。


尊流先輩は、そんな妹を見て続けた。


「それにな、灯莉」


「……なによ」


「一ノ瀬がこうなったことに、俺らに何の責任もないってわけじゃないだろ」


灯莉の顔が曇る。


その後ろで、清水先輩までしゅんとしていた。


「誰が悪いとか、そういう話じゃねぇぞ」


尊流先輩は二人にそう言ってから、俺を見る。


「でも、この結果には俺らにも責任がある。その上で、困ってるこいつを放っておくのは違うだろ」


そして、胸を張った。


「そんなことしたら――槍宮の名が廃る」


「そうだろ?」


「…………」


灯莉は少し黙ってから、


「……それは、そう」


と頷いた。


「よし!」


尊流先輩が豪快に笑う。


「なら決定だ!」


「え」


「親父もお袋も文句は言わんだろ!」


「いや、そんな簡単に――」


「一ノ瀬!」


「はい!?」


「今日からうちに来い!」


「今日から!?」


灯莉が大きくため息をつく。


「…………分かったわ」


「槍宮さんまで!?」


こうして。


高校生活初日。


友達が一人もできていない俺は――


なぜか、朝に出会ったばかりの女の子の家に住むことになった。


……いや。


本当に、どうしてこうなった?

AIで作成した挿絵やキャラクターイメージなどを、こちらに投稿予定です。

気になりましたら、ぜひ覗いていただけると嬉しいです。

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