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第二章 魔法ギルドと、口の達者な相棒

翌朝、透が目を覚ますと、顔の上に何かがいた。

重さはほとんどない。でも確かに、鼻の頭のあたりに小さな爪の感触がある。片目を開けると、金色の瞳がじっとこちらを見下ろしていた。

「おきた」

「……起きた」

「おなか、すいた」

「おはようの前に?」

セサミンは首を傾げた。「おはよう。おなか、すいた」

律儀にあいさつを足してくれたので、透は苦笑しながら起き上がった。セサミンはするりと肩に移動して、小さな尾を透の首に巻きつける。体温が高い。ちょうどいいマフラーみたいな温かさだった。

「今日は魔法ギルドに行く」と透は言いながら着替えた。「登録しないと、この街で正式に活動できないから」

「まほうぎるど」

「そう。魔法使いが集まるところ」

「セサミンも、まほうつかい?」

「どうだろうな。君は……なんだろうな」

セサミンは「ふうん」と言って、透の耳元で小さなあくびをした。歯が鋭い。でも不思議と怖くなかった。


アルヴィスの魔法ギルドは、街の中央通りを少し外れた場所にある石造りの建物だ。ゲームでは何度も入った場所で、透にとっては庭も同然だった——記憶の中では。

実際に足を踏み入れると、ゲームよりずっと人が多かった。受付のカウンターには三人の職員が立ち、待合の長椅子には魔法使いらしき人々が座っている。空気には魔力の匂いがした。魔力視のスキルのせいか、人々の体から薄い光の筋が漏れているのが見える。透にはそれが自然に見えたが、おそらく普通の人には見えないのだろう。

受付に向かうと、二十代後半くらいの女性職員が顔を上げた。目がセサミンに向いて、一瞬止まる。

「……その肩のは、ドラゴンですか」

「はい。昨日孵化しました」

「孵化。この街で?」

「宿の部屋で」

職員は何か言いたそうな顔をしたが、努めて平静に「わかりました」と言い、書類を出してきた。

新規登録には名前、出身地、職業、魔力測定の四項目が必要らしい。透はトオル・ミナセと書き、出身地は「東方の小国」と適当にごまかし、職業は「魔法使い」と書いた。

「魔力測定はこちらの水晶球に手をあてていただければ——」

職員が水晶球を置いた瞬間、セサミンが透の肩から身を乗り出して水晶球を覗き込んだ。

「きれい」

「セサミン、今は私の話だから」

「でも、きれい」

「……そうだね、きれいだね。ちょっと待ってて」

透が水晶球に手をあてると、球が光り始めた。最初は淡い青、次第に白くなり、やがて眩しいほどの輝きになって——割れた。

パン、と小さな音がして、水晶球にひびが入り、次の瞬間には粉々になっていた。

カウンターの周囲が、静かになった。

職員が固まっている。透も固まっている。セサミンだけが「わあ」と言って割れた欠片を興味深そうに眺めていた。

「……申し訳ありません」と透は言った。「弁償します」

「い、いえ、これは……ギルドの規定では、水晶球が破損した場合は上位魔法使いとみなして……」職員が震える声で言う。「あの、少々お待ちください。上の者を呼んでまいります」


しばらく待つと、奥から五十代くらいの男性が出てきた。ギルドマスターのヴェルナー・クラウスだ。ゲームでも同じ名前で登場するNPCだった。白髪混じりの顎ひげを撫でながら、透を値踏みするような目で見る。

「君が水晶を割った子かね」

「はい。すみません」

「謝らなくていい。あれはそういうために置いてある」ヴェルナーは苦笑した。「一応言っておくと、ここ十年で水晶を割った魔法使いは三人しかいない。うち二人はすでに王都の魔法院にいる」

「はあ」

「それで、君はどこで魔法を学んだんだ」

透は少し迷った。「独学です」と答える。嘘ではない。ゲームで覚えた知識だが、この世界では確かに独学に相当する。

ヴェルナーは眉を上げた。「独学でこの魔力量か。信じがたいが……」彼の目が透の肩のセサミンに止まる。「そのドラゴンは?」

「セサミンです。昨日孵化しました」

「ドラゴンに名前を?」

「つけました」

ヴェルナーは何かを考える顔をした。「……ドラゴンの使役は、それ自体は珍しくないが、孵化から育てるのはほとんど前例がない。卵はどこで入手した?」

「気づいたら持っていました」

また沈黙。ヴェルナーは透の目を見て、嘘をついているかどうかを確認しているようだった。透は正直に目を合わせた。本当のことを言っているが、信じてもらえるかどうかはわからない。

「……まあいい」とヴェルナーは言った。「登録は通す。ランクはCからではなく、特例でBランクにしよう。水晶の結果を考えれば本来Aでもいいが、実績がない状態でいきなり高ランクにすると面倒が起きる」

「ありがとうございます」

「ただし条件がある。しばらくこの街に滞在しながら、ギルドの依頼を何件か受けてもらいたい。君がどういう魔法使いか、私自身で見ておきたい」

透には断る理由がなかった。むしろちょうどいいと思った。この街でしばらく過ごしながら、世界のことを学ぶ時間が必要だったからだ。

「わかりました」

「セサミン」とヴェルナーがドラゴンに声をかけた。「君の主人をよろしく頼む」

セサミンはヴェルナーをじっと見て、それからきっぱりと言った。

「トオルは、セサミンのもの」

場が静止した。

ヴェルナーが目を瞬かせる。「……人語を話すのか」

「はい」

「孵化して一日で?」

「はい」

「……そうか」ヴェルナーは何か言いたそうな顔をしたが、最終的に小さく笑った。「面白い子だ。大切にしなさい」

セサミンは「もちろん」と答えた。自分が大切にされる側だということに気づいていないような口調だった。


ギルドを出ると、昼近い陽光が石畳に降り注いでいた。透は登録証を受け取りながら、ゆっくりと歩き始める。

「セサミン」

「なに」

「さっき『トオルはセサミンのもの』って言ってたけど」

「うん」

「逆じゃないか?」

セサミンは首を傾げた。しばらく考えて、「ちがう」と言い切った。

「どうして」

「セサミン、トオルのこと、まもる。だから、トオルのもの、じゃなくて、セサミンのもの」

透は思わず立ち止まった。

「……守ってくれるの?」

「うん」セサミンは透の頬に額をすりつけた。小さくて温かい。「セサミンが、まもる」

孵化して一日のドラゴンに守ると言われたことへの返答を、透はしばらく考えた。ありがとうと言うべきか、心強いと言うべきか。

「ありがとう」

それだけ言うと、セサミンは満足そうに尾を揺らした。

透は噴水広場のベンチに腰を下ろして、受け取ったばかりの依頼一覧をめくる。初心者向けの薬草採集、街外れの魔物調査、農村への使いなど。どれも難しくなさそうだ。しかし透はすぐに選ぶ気にはなれなかった。

「セサミン、腹減ってるか?」

「すこし」

「じゃあ先に昼にしよう。この街においしそうな店がある」

「しってるの?」

「まあ……いろいろ知ってる」

セサミンはまた「ふうん」と言った。不思議そうに透を見て、でもそれ以上は聞いてこなかった。

透はそのことに、少しほっとした。この世界に転生した理由も、自分がどこから来たかも、まだ誰にも話せない。セサミンにはいつか話せるかもしれない、とふと思った。まだ孵化して一日だが、この小さなドラゴンは、透が思うより多くを理解している気がした。

市場の方から焼き肉の香りが漂ってきた。

「あっち」とセサミンが鼻をひくひくさせて言った。

「そっちじゃなくて、噴水の向こう」

「でも、あっちもいいにおい」

「帰りに寄ろう」

「やくそく?」

「約束」

セサミンは「よし」と言って、透の肩の上でちょこんと座り直した。尾がゆったりと揺れている。

透はゲームの記憶を手繰りながら、アルヴィスで一番おいしいと評判の食堂——ゲームでは単なるロケーションスポットだったが——への道を歩き始めた。頭上の青空は、ゲームのグラフィックよりもずっと鮮やかで、少しまぶしかった。


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