第百六話 誤魔化せない
僕らの方へ近づいてくる。僕は、頭を下げて、彩葉も僕を見たまま、目を動かさない。それでも、止まらずこっちに向かってくる。
下を向いてても視界に入る距離まで来た。
「ゆうちゃん!!」
この呼び方は……
「ゆうちゃん!?」
彩葉が驚いて先に反応してしまった。
「そう。ゆうちゃん!」
「ゆ、ゆうちゃん?ね、どういう事!?分かんない。」
完全に動揺して、混乱している。
「美桜さん、からかうのはやめてくださいよ。」
「ごめんね。」
「ねえ、ゆうにい。知り合いさんなの?」
「うん。実はそうなんだ。」
「なんでゆうにいは、可愛い人とばっか知り合いなのよ。変な薬でも使ってるの?」
「使ってないぞ。」
美桜さんも横で笑っていた。さっそく、意気投合してるのか。
「その子は、ゆうちゃんの妹さんね。初めまして。私は、桃山美桜です。里桜のお母さんです!」
「初めまして。彩葉です。一応、ゆうにいの妹です。」
「おい、一応ってなんだよ。」
「里桜さんはどの子?」
「文化祭の受付のとき、横に座ってた子だよ。僕の友達なんだ。だから美桜さんは、そのお母さん。」
「里桜さんってあの子ね!美桜さん、改めていつもゆうにいが、お世話になっています。」
「おいおい。」
「ゆうにい、絶対迷惑、掛けてるでしょ。」
「掛けてないよ。」
美桜さんは、微笑んでいた。
「二人とも仲が良いのね。」
「美桜さん、ゆうにいは、普段どんな感じですか?聞かせてください。ぜひこちらに。」
彩葉が僕らの席に座るようにお願いしている。美桜さん、頼むからその誘いには、乗らないでくれ。
「じゃあ、喜んでそうしようかな。」
これは、ピンチだ。美桜さんもこっちに来て、喋りたいのは、分かっていたけど歯止めが効かなそうだ。
彩葉の隣に美桜さんが座った。自然と危険を感じる。この圧というか、二人並んだら、やばそうな予感しかしない。
「で、美桜さん。ゆうにいはどんな感じなの?」
「う〜んと。」
「美桜さん、余計なこと言わないでくださいね。」
「ゆうにい。普通にしていれば余計な事とか無いでしょ。」
彩葉がいちいち嫌なところをついてくる。
「いや、まあそうだけど。」
「なら関係ないね。美桜さん、全部教えて。」
まずいな。家に行ってるあたりからまずいな。
「面白い話なら、え〜と。」
まずい匂いがする。
「美桜さん、それはやめておきましょう。僕の印象とか……初めは、その辺からでも。」
「確かに。ゆうちゃんが初めて家に来たときは……」
「え……家に来たとき!?」
「うん。家に来たとき……あ!」
「美桜さん……」
「ゆうにい誤魔化せないからね!」
彩葉の目には、怒りが見える。これは、誤魔化しようがないな。
「美桜さんの家。つまり、りおの家で勉強したり、遊んだりしただけだよ。」
「ほんとに?」
「うん。」
「なら良いけど……美桜さん、続きお願いします。」
「うん。でね、ハロウィンに仮装パーティーしたんだけど……」
「仮装パーティー?」
彩葉が冷たい目でこっちを見てくる。
「ゆうちゃんがミニスカポリスの格好して来たの。」
もっと冷たい目で見てきた。美桜さんは、気にせず思い出して、大笑いしている。
「美桜さん、落ち着いてください。」
「もう、ダメ。写真見たら、面白くて……」
「ゆうにい、そんなの良いから。あとで詳しく聞かせてもらうからね。」
彩葉のその顔に笑いは一ミリも無かった。
「今日はありがとうね。」
「美桜さん、ありがとうございます。ご馳走にもなって。」
「良いのよ。ゆうちゃん。いつも楽しいから。」
「ありがとうございます。」
「彩葉ちゃんも次は遊びに来てね。里桜も早く会いたいって言ってたから。」
「はい。それじゃあ。」
別れ際に僕は、美桜さんにあることを小声で伝えた。
「りおには、彩葉のこと言わないでください。また、後日、落ち着いたら行くので。」
「おっけーわかったよー」
ふんわりした声で本当に分かってるのか不安になった。
帰りも、家に着いても、彩葉の尋問は終わらず、結局、僕は身体を休めることができなかった。




