最上強子はシナリオを破壊する!
私は元気な高校生、最上強子!
今日も元気に通学中!
信号が赤く煌めき、色とりどりの車が通過する。
可愛らしい藍色の制服とスカートを着付ける強子は横断歩道でスマホを触って、暇を潰していた。
耳にイヤホンを乗せて、リズムに乗っている。
ドンっ。
その音とともに強子の身体が前に浮いた。
(えっ?)
不意に後ろを見ると、両手を突き出している黒フードの男がいた。
強子に巨大な鉄塊が迫り来る。
この距離では間に合わない。
ガシャァァァァン!
惨い音が辺りに響き渡る。
誰もが死を連想した。
トラックの前部は凹んでいた。
が、全員の視界に映る光景は異様そのものだった。
トラックに轢かれた少女が左拳でその塊を黙らせている。
(はっ......人間じゃ......)
黒フードが逃げる素振りを見せる。
しかし、強子が鬼にも迫る筋力で地面を蹴り上げ、黒フードの顔を左手に収める、その瞬間、世界から切り取られたように2人が消えた。
強子は路地裏にいた。
その足元に黒フードがいる。
「なんで、私を押した?」
殺されそうになったことより、そちらの方が論点らしい。
「......ある組織に雇われたんだ。お前が邪魔だから、やれってな」
男の唇が震える。
「私が? 何かの間違いじゃ?」
「いいや、合ってる。今回と似たようなこと無かったか?」
「ん? そういえば、夜にドアの穴を覗いたら銃で撃たれたり、猫だと思ったら、爆弾だったり......」
「そう、それだ。俺以外の奴らもお前を暗殺しようとしてるわけだ」
「なんで?」
「知ってはいけない情報を持ってるとかなんとか」
「ふぅん......とりあえず、まぁ、その組織の場所教えてくれない?」
------ある組織にて。
だだっ広い灰色の卓を囲んで、一同が座っていた。
そして、構成員は全て仮面を付けていた。
まるで、道化だ。
「最上強子へ殺し屋を送ったは言いものの......収穫があるかは分からないな」
側面の中でも中央に位置する椅子へ座す白スーツの者が喋る。
「わざわざ、殺し屋を雇うことはないじゃないか。装備、構成員、地形、我々でも十分な戦力がある」
金髪でピンクのダウンが口を出す。
「黙れ。最上強子はそんなので収まる奴では......」
ボガォォォォン。
爆発したかのように部屋の壁の一部が崩れる。
その中から姿を出したのは......最上強子だ。
「思ったより来るのが速かったな。構成員はどうした?」
白スーツが冷静に対処する。
「撃って来たから、寝てもらってるよ?」
強子は淡々とそう言った。
その間に構成員たちは銃の照準を合わせ、引き金を引こうとしていた。
しかし......次の瞬間。
構成員らの目の前に強子が現れ、瞬時に拳や肘、脚、足を捩じ込む。
(なんてことだ......10億で揃えた装備と人間が通じない.......?)
白スーツは頬に汗を伝わせる。
「我々を嘗めすぎだ。逃げてくださいよ、リーダー。後で追い付きます」
ピンクのダウンが拳を構える。
「ああ......頼んだぞ」
その言葉に白スーツは感化され、そして、唯一の出口へ潜って行った。
「掛かって来いよ、最上強子ォォォォォ!」
「退いて欲しいんだけど!」
ピンクのダウンが飛びかかりざまに、左の踵落としだ。
一寸ほどの距離で躱されたと見るや、その場で回転した遠心力を利用した右拳と続いて、右足を上から落とす。
二つの撃が強子に直撃するも、びくともしない。
あろうことか......
「痛い」
強子の雑把な左の打撃を顔面に喰らい、血を吹き出した。
「あっ、イヤホン外れた」
その仮面が割れ、中からまつ毛が長く、青い瞳を持った美顔が現れる。
「つっよ......流石だな。だが、それでこそ、燃える!!! 俺の名は、先登狂叉!!! 俺の知る限り、最強の男だ!」
狂叉の口角がはち切れんばかりに釣り上がる。
そのイカれた笑みで顔の良さは台無しだ。
「それ、自分で言うんだ?」
強子は冷めた口ぶりで腰に左手を当てる。
「お前は知ってる限り、最強の女......の子だ......!
手は抜かねぇ!」
もう既に腕を引いている!
反応できないのか、強子は棒立ちだ。
(俺の拳は鉄の壁すら砕く!)
瞬間、ガシャァァァァン! と。
腹の収まる衝撃と音は事故さながら。
しかし、まるで、そこに拳が無かったかのように、強子は立っている。
突如として狂叉が感知する。
(......壁?)
否。
鉄の壁を砕ける狂叉が壁と見紛うほど、超高密度で鍛え上げられた腹筋が一撃を喰ったのだ。
シックスパックならぬシックスティパック!
そして、あまりの硬さに放たれた拳の方が崩壊する。
鮮血が腕にまとわりつく。
「マジかよっ......!」
それでも、狂叉の口角は沈まない。
「じゃあ、私も全力で」
(死なない程度に)
繰り出したのは、ただの右ストレート。
だが、強子が放ったのなら、もはや兵器!
その拳は空気を割り、そして、建物中にも衝撃が響き、軽く大地が揺れる。
「グ.......はっ!」
(俺が強くなったら、また、闘ろうぜ......!)
狂叉は絶望するでもなく、心の底から満ちた笑みを顕にした。
笑顔のまま、途轍もない威力で吹き飛ばされ、後ろの出口を突き破ると、トップスピードを維持した状態で白スーツの仮面を捉える。
「なっ、なん......ダッ!」
後方を警戒した時には、狂叉と衝突事故を起こし、意識を失った。
1話にて、組織壊滅である。
「あっ、早く行かないと、学校に遅れちゃう!」
強子は全力でその場から抜けるが、その勢いで建物にヒビが入り、一気に倒壊する。
------一方、黒フードの歩く路地裏にて。
「いやぁ」
(最上強子......噂以上だ。やはり、正面からでは、勝ち目がない)
男が黒フードを脱ぎ捨てる。
次に現れたのは......ボサボサの茶髪、死んだ黒目、口と顎の無精髭と白シャツを持ち合わせるおじさんであった。
「なぁ、なんで、あの最上強子に温い暗殺を仕掛けたんだ?『竜翼』の一人である撃山さん、あんたなら殺れただろ」
監視役の黒スーツを着た白い仮面が訊く。
「買い被り過ぎだ。俺は誰よりも弱い。だから、何重にも罠を仕掛けて、狩るんだ」
「心底がっかりだが、金は渡さければな」
仮面が札束を渡しに来る。
が、撃山はそれを手で制止する。
「金はその場に置け。俺に近づくと、危険だ」
「なんだ、脅しか?」
その言葉に仮面が光り物を抜く。
「いや、警告だ」
「協力したくないんだな、至極残念」
仮面が突きの姿勢で駆け出す。
「いや、違......」
瞬間、何かが切断される音とともに仮面は静かになる。
辺りには赤血が流れ、そこには......仮面の頭もあった。
「あー、だから言ったのに。あのスピードでピアノ線に触れたら、切れるぜ。そりゃ」
軽口ながらに仮面の手から札束を取り上げる。
「この街は俺のテリトリーだ」
撃山の影は闇に溶け、次第に姿すらも見えなくなった。
------その頃、学校にて。
強子はギリギリで遅刻し、担任に叱られていた。
(とほほ......)
先の出来事を除けば、ごく普通の女の子なのであった。




