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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【初恋解呪。編】
107/107

第107話 (最終話)終わりよければ…。

今回の優雅も結局責任を取らずに全てから逃げた。

高校卒業後は、仕事をしながら女遊びに興じて、同じ中学校出身の女の子を5号さんにして、その子も噂に疎いというレベルではないと思うが、何も知らずに優雅と付き合い、春香の時同様、物のように扱い、大切にせずに妊娠させてしまう。その子供は運良くとも言いたくないが、流れてしまっていた。

被害者の子は後になって、「そんな奴だって知らなかった。知っていたら付き合わなかった」と言っていたらしいので、本当に知らなかったのかもしれない。


更に、その後の優雅は認知していない二児のパパになっても女遊びをやめずに、浮気と不倫、中絶騒ぎを繰り返していて、最後には傷害事件にまで発展してしまっていた。

傷害事件も、被害者達は優雅を狙えば良いものを、自分以外の不貞相手に対してバトルロイヤルをなぜか仕掛ける。

共倒れになって身軽になった優雅は、責任云々を言う煩わしい親を捨ててさっさと街を離れた。


20代中盤は八王子に住んでいて、女遊びをやめずやり遂げ街に居られなくなる。

その先は東京を離れて今は西へ西へと進み、名古屋に住んでいるらしい。


何故この山吹が詳しいのかを調べたら納得した。

どうあっても昇狙いの一木は、まず手始めに優雅の確保を狙った。


確かにトドメ要員の優雅がいなければ始まらない。

どうやっても優雅を仲間にして、春香を手駒にして、昇を痛めつけて笑い物にする。

だが目的と手段がわからなくなった一木は、優雅に連れられて西へ西へとついて行く。


山吹の話だと、今まではいい子だった一木は両親に初反発をして「別々の人生だ」と言って、親の希望を無視して、大学卒業後は優雅の移動にあわせて職を転々としている。


確か最初は親に言われて創業の長い企業に就職していたが、余程中学校の頃、美咲達に3年間「おもしろくない」「つまらない」と言われたのが効いてしまったのだろう。

それがあるからか優雅経由で何とか大学以降で仲良くなった、川向かいの中学の連中に、優雅の話を回して、連中が言う「面白いっす一木さん」、「もっと聞きたいです一木さん」なんていうおべんちゃらを本気にして、一木は女遊びをやめられない優雅を操作して人生を満喫していた。


もしかしたら美咲達の言葉が、かつて一木が昇に突き刺した心ない言葉達のように突き刺さり、優雅を手に入れて、万全の状態で凱旋しても、一木の望む拍手喝采が得られない事を考えたら怖くなって戻ってこられないだけかも知れない。




とりあえず私は山吹さんを切り捨てる。

こんなガバガバのバックドアは、いられたら何が起きるかわかったものではない。


「これから6年間よろしく」とだけ言って連絡先の交換は断る。

「え?」と不安がる山吹には、「幼稚園までなら親繋がりのお友達も良かったけど、小学生だからウチの子達が仲良くなってからにしましょう」と説明をして納得をさせた。


真由さんにはそれとなく伝えて、明日香にも話すと「それがいいです。かなたさん、その断り方を教えてください。メモを取って勉強します」と言っていた。


翌週、私と昇は運動会の疲れも抜けない中、民宿・獄悶にいた。


「約束を守って来たな楠木昇ぅぅっ!」

「うん。来たよ龍之介さん」


「まぁぁぁ!君たちが双子ちゃんね!お母さんも久し振り。元気そうで安心したわぁ!」

「風香さん、ご無沙汰しています」


初見の薫と香だったが、昇の育児のおかげで物おじしないし、キチンと挨拶をするのですぐに気に入ってもらえる。


「ねぇ、龍之介さん。前に言ってた遊具ってあれ?俺、一昨年から来れてなかったから知らないけど…」

「おうよ!重三と作ったぜ」


私と昇は感謝しながらも、あまりのクオリティに引いてしまう。


それはジャングルジムと、ツリーハウスを合わせたようなもので、「そっちじゃ木登りも難しいだろ?下にはウッドチップを敷き詰めた!重三を木の上から投げ飛ばしても大丈夫だった一級品だぜ!子供達!遊べぇぇ!全力で身体を動かせぇぇっ!」と言ってくれて、薫と香はヘトヘトになるまで遊んでいて、外から聞こえてくる楽しそうな子供達の声を聞きながら、お茶を飲んでお茶請けを食べるだけで幸せな気持ちになった。


夕暮れ、沈む夕日を見ながら、昇が「あんがとかなた」と私の手を握りながら言う。


「どうしたの昇?」

「この前、夢を見たんだ。夢の中のかなたはいつも泣いていた。戻されて泣いて、春香に執着をして一喜一憂する俺を見て泣いて、春香と付き合って喜ぶ俺を見て泣いて、その先に待つ運命の日を知っていて、それを知らないで浮かれる俺を見て泣いて、空回りするくらい無駄な努力をする俺を見て、かなたはいつも泣いていた」


驚いた。その通りだった。

いつも陰で泣いていた。

京成学院で「負けヒロイン」なんて不名誉なあだ名がついた時も、何も知らないでと思ったし、昇の愛情を当たり前のように享受して、そのくせもうすぐ裏切る春香を見て、部屋で毎日悔し泣きをした。


でも外では笑顔は絶やさなかった。

薫と香、何より昇と暮らす為に、キチンと終わらせる為に笑顔は絶やさなかった。


「だから俺は、その感謝と共に、かなたがもっと好きで大切になったよ。見たものが夢でも構わない。俺はかなたをもっと大切にするから。もう悲しませないように頑張るから、これからはずっと笑顔でいて」


嬉しい。

本当に全てが報われた。

泣いてしまう私に「かなた、怖い?」と昇が聞く。


「昇?」

「もうここから先は未知の世界だから、かなたでも怖いかなって思ってさ」


確かに怖い。

不安もある。

あの山吹が何をしでかすか考えてしまった。


少し怖いと言おうとする私に、「俺は怖いけど、それ以上にかなたと薫と香、茂達が居てくれるから挫けない。かなたの為に頑張るよ。だから不安かもしれないけど安心してて、それに神様が見守ってくれてるんだからきっと大丈夫だよ」と昇は言った。


「うん。昇を信じるよー」

「にひひ。任せてよ。それでさ、やっぱり3人目…欲しいんですけど」

「いいよー。帰ったらアレしてあげるよー」

「マジで!?やった!頑張るよ!育児も仕事も頑張る!」


この先、何が起きるかわからない。

でも、それこそが人生で、無理やりやり直させられる事に慣れてしまった私は、きっといつかポカをする。

でも昇が居てくれる。


だからその時が悪くても終わりはきっと良い。

そう思って、悪い時すら楽しもうと思った。


(完)

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