第102話 レモンの謝罪。
役者がそろったところで、昇が「ほら、まず謝りなよ」と言うと、レモンアタックをしかけたサッカー部員が「え!?レモンを投げてすみません…」と昇に謝る。
「俺にじゃねぇぇぇっ!まずはレモンに謝れよ!」
「えぇ!?」と言いながらも涙目のレモンアタックをしかけたサッカー部員は、「レモン、ごめん」と言うが昇は許さない。
「土下座、頭下げなよ。やれないならそもそもレモンを投げる真似なんてすんなよ」と言って、教師が「君」、「やり過ぎ」と言っても、「うるさいです」、「君じゃなくて東中一年楠木昇です」、「やり過ぎ?レモン農家さんと養蜂農家さんの前で言ってみてください」と一瞥もせずに言い切って、涙目のレモンアタックをしかけたサッカー部員を逃さずに土下座をさせたまま、女子マネ1人ずつにもキチンと謝らせる。
それでも心がこもってない事にキレ続ける昇は、「お前、このレモン漬けを作るのがどれだけ大変かわかるか?さっき頬についた奴を舐めさせてもらったが、おそらく最初に味をなじませる為に、煮詰めるレモンは皮無しにして苦味が出ないようにしてあるし、ハチミツも量が多いと匂いが苦手な奴も出る。だからギリギリで砂糖にしてくれてる。ハッキリ言って手間だよ。それなのにお前は食べずに投げてきた」と言って、マネージャー達に「作るの大変なのに、投げられて遊ばれたらムカつくよね?」と同意を求めたら、更にとんでもない事になる。
「作るのは大変だけど」
「不人気で残されてて」
「いつも捨ててるから」
「もうなれたよ」
「義務みたいな感じで作ってるだけだし」
「たまに無くなるから、ちゃんと作ってるんだ」
その言葉で昇は更に激怒をした時、優雅が愚かにも「部費は払ってるんだからいいだろ?」と言った。
もう真由さんどころじゃない茂くんが、「あ、終わった」と呟くと、「真由、修さん呼ぼう」と言い、真由さんが「先生、血を見る前に保護者呼ぶね」と言う。
茂くんが曽房さんに、「修さん、昇がガチギレていて血が流れる。止めなきゃ、来て」と言っていて、その間に昇は「金出せば何してもいいだと!?優雅!テメェ!ならお前の親はお前を産んで、塾に連れて行ったりして育てたが、俺が金を出せば何しても構わないんだな!?縛り付けて顔の形が変わるまで殴り続けてやる!金なら払ってやる!」と怒鳴っていた。
流血まで待ったなしの状況で、茂くんが「昇、とりあえずお前の気が済む方法を言え!」と言って止めると、「俺!?俺より茂だろ!?大切でたまらない真由さんに、やらせろなんて迫ったり、茂に真由さんをシェアさせろなんて言ったのムカついただろ?」と昇は真由さんを見ながら言う。
その視線の先にはきっとかつての春香が居た。
何股もかけられて、バイト先まで浮気相手に乗り込まれて泣かされた春香。
私はその涙を思い出していた。
「その次がレモンと女子マネさん達だろ?あ!?もしかしなくても真由さんもムカついてるよね?レモンよりムカつくかな?」
ここで教師陣も、ようやく昇が本気でレモンでキレていることを察し始める。
「私は平気。昇くんと茂が来てくれたもん」
「本当?今ここで茂にチューさせようか?今度の土曜日に結納とかさせる?」
結納の言葉に周りどころか、茂くんまで「なにぃ!?」と言い出すが、真由さんは「結納!?もうしてくれるの!?嬉しい!それがいい!」と喜ぶが、「そうじゃないって、レモンの話だよ。やだったんだよね?」と聞くと、昇は「そうだよ。今の俺は食材と女子マネさんの怒りの代弁者なんだ」と言った。
教師も落とし所が欲しいのだろう。「何をしたら終わるのかな?」と昇に聞く。
「え?この美味しいレモン漬けを、毎回必ず残さず食べる事と、男子達も作り方を教わって大変さを知る事」
昇がそう言うと、教師達は「約束しよう」と言って終わる空気になったが、土下座を止めようとしたレモンアタック君には、「何やってんだよ?そのレモン、早く食べなよ」と追撃の手を緩めなかった。
泣いても謝っても昇は許さない。それこそかつて本職と間違えられた茂くん達より、怖い殺気を撒き散らして、「洗いたい?何言ってんの?せっかくのハチミツが落ちちゃうだろ?美味しさが損なわれちゃうだろ?」と言って、遂にレモンアタックくんはジャリジャリと咀嚼音を出し、吐き戻しかけながらレモンを食べる。
「吐いたらそれも全部食べさせるから?」
「飲み込みなよ」
「美味しいものを食べているんだから笑顔で」
「飲み飲んだらマネージャーさん達一人一人に、ありがとうと、美味しかったですを言いなよ」
レモンアタックくんはボロボロと泣きながらニコニコ顔で、「美味しかったです。佐藤さん、鈴木さん、田中さん、藍染さん、山吹さん、真緒さん」と言ってマネージャー達に感謝を伝える。
昇はようやく機嫌を直して「じゃ!お騒がせしました」と言うと、「真由さん、もう帰れる?一緒に帰ろうよ。また不届者がわいてきたら茂と来るからね」と言う。
そこに到着したお爺様や曽房さん達が平謝りで、教師達も昇の言い分に非はないからとなんとか不問にされる。
「おいクソガキ」
「夕方のニュース見逃した?ごめんね?」
「別にそりゃあいーけどヨォ、いいんか?」
「へ?何が?」
「真由っちと小岩の小僧に頼んでみろよ」
「何を?」
「レモン漬け、お前このまま帰るとかなちゃんに甘えんだろ?」
私はすぐにわかる。
帰りの車中で「勿体無い、キチンと食べたかった」と漏らして、私に会うなり「かなたぁ…レモン漬け食べたい」と言い出す昇。
まあ私はニコニコで「いいよー」と言いながら作って、「昇!これ、薫達も喜ぶよね?」と聞けば、「アイツらは本当にかなたが料理上手で幸せもんだよなぁ」と昇が言う。