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10.”王子様”も“こうりゃくたいしょー”の一人らしい







「今日はありがとう、ギル」

「いいえ、こちらこそ」

お昼の時間の終了をつげる鐘がなり、机の上を片付けながら立ち上がる。




「それじゃあ、またね」

「明日も迎えに行きましょうか?それとも一人でここまで来れます?」

「明日も一緒に食べてくれるの?」

「勿論」

「ありがとう‼」

良かった!

これで、一人で食べれる場所を探して学園中を逃げ回らなくていいし、一人ぼっちで寂しくご飯を食べなくてもいい。なんだかんだいって一人には慣れているけど、それでも寂しいものは寂しいのだ。

「明日の四時間目は魔法学なの。クルシュマン先生と二人だから、迎えに来てくれなくても大丈夫だよ。ありがとう、また明日ね」

「分かりました。来る途中、くれぐれも転ばないように注意してくださいね」

「分かってるよ!」

そんなに簡単に転んでたまるか。

私自身はそこまで天然ボケしていない。なんでもないところで転んだりもしないし、基本的には障害物があっても避けられる。普通に。

私が転んでるのは、全てはこの“ゲーム”のせいなんだ。本当に迷惑極まりない。

大体、おばあちゃんじゃないんだから転んだことによって死亡する確率なんて低いだろう。なのになんで私をしきりに転ばせようとしているのか、理解に苦しむ。

‥‥まあ、“ゲーム”のせいだということは充分に明日も転ぶ危険性があるということなんだけど。いやでも、それは心配されても私にはどうしようもないことだから。元気に転ぼう!

子供を見守るような目つきになっているギルに睨みをきかせてから、次の授業に向かった。




次の授業は、“魔法実技学”だ。自分の属性の魔法を実際に使ってみる授業だ。この授業の担当も、クルシュマン先生である。

次こそ、私の理解不能な魔力を少しでも解明できる糸口が見つかればいいんだけど。

ロレーナは私が主人公のこの“ゲーム”には、“こうりゃくたいしょー”との仲を深める“好感度いべんと”なるものが存在すると言っていた。でも私はそんなものじゃなくて、私の魔法の属性が分かる“いべんと”が欲しかった。

これからでもそんな“いべんと”が出てこないかな。

そう願いながら教室のドアを開ける。

するともう既に中には人影がいた。

「あれ、君は」

「失礼しました!」

何で、あれ、何で⁈

何であの人がここにいるのっ⁈

ギョッとして後ずさる。教室の位置を何回も見直すが、間違いなく私がいつも使っている教室だ。あの先生、場所を変えるなら連絡の一つもよこしてくれればいいのに。

どうしよう。でも、次の授業がどこか分からないから不用意にこの場所から離れるわけにもいかないし。でも、あの人がいるのに中に入ることなんてできないし。

ドアの前で逡巡していると、バッとドアが開かれてしまった。

「あっ、」

「びっくりさせてしまってごめんね。教室は間違えてないよ。僕がお昼に借りていただけなんだ。入っておいで」

「いえ‥‥」

入っておいで、ではなく。笑顔を浮かべる彼を引きつった表情で見上げた。

フランシス・セウェル。

白銀の髪と、蒼色の瞳を持つ一つ年上の先輩。優し気で甘い顔立ち、頭脳明晰で文武両道、魔力も高く品行方正。その上に公爵家のご子息である。

まさに形容するなら、“王子様”。男女両方から人気の高い、完璧な人だ。

欠点が何一つないはずの彼の欠点はーーー、

「すまない。もしかして、また僕のせいでマッケンジーさんが暴走したのかな?」

彼が、ロレーナの想い人だということである。今ではもう違うといっているけれど、あの様子だとまだ好きなんだろう。

仮に話したとしても、今のロレーナなら私を殺そうとはしないだろうけど。念には念をいれて、あまり関わりたくない相手の一人だ。

「いえ、全然大丈夫ですよ。最近は暴走どころか、何も嫌なことをしないので。それどころか、困っている時には助けてくれるんです」

「‥‥気を使わなくても構わないよ。今までのことがあるから。ごめんね、いつも迷惑をかけて」

「いえあの、本当に大丈夫なんです。えと、私とロレーナ‥‥様とは仲直りしたんです!今までのことは全部水に流すことになりました。ロレーナ様も、もう私には何もしないと約束してくださいましたし!」

「え、あのマッケンジーが?」

呆然と聞き返すフランシス・セウェル様に、ぎこちなく微笑み返す。

フランシス様、マッケンジー“さん”です!“さん”が抜けています!動揺しすぎですよ!落ち着いてください!

「はい、ロレーナ様は改心なされたんです」

「‥‥・」

理解不能だ、という表情を浮かべたフランシス様に説明を試みる。

「ええとですね、ロレーナ様は…」

頭の中で、説明する語句を練る。



『まだ完全に理解したわけではありませんが、ロレーナ様は今現在、彼女の魂の前世の記憶である、“ミズノ ミライ”という女性と精神が融合しているんです。

その“ミズノ ミライ”という人物はとても優しくて天然な人だったから、冷酷で傲慢だが馬鹿な“ロレーナ・マッケンジー嬢”と結びついた時に、天然で優しい“ロレーナ・マッケンジー”という新な人格が作られたんです。冷酷で傲慢な人格はどこかに消えてしまいました。

だから改心と言うよりは、新しい人になられたんだと思います。』



「コールウェルさん?」

「ええと‥‥」

‥‥なんて、そのまま説明できるわけがないよね!

私の頭がおかしいんだって思われてしまう!

まず、普通の貴族は輪廻転生を信じない。それは、この国の宗教にはない考え方だからだ。

そんなことを説明できるわけがない。私が頭のおかしい人扱いを受けるならまだしも、ロレーナにまで被害が及んでしまう。

本当にどうしよう。

「ええと、あのですね…」

言う言葉なんて思いつかない。

少々心苦しいが、嘘とこじつけで仲直りした理由をなんかでっちあげよう。




「そのですね。ロレーナ様は、今まで両親からとても冷たく接されていたので、心に傷を負っておいででした。そこで、誰にでも優しいフランシス・セウェル様にお会いして、優しくされたので一目で恋に落ちてしまったそうです。初めての恋なので制御できず、ロレーナ様は心からフランシス様を愛していた…いるので、少しでも近づく女性を許せなかったそうです。ですが、そのせいで苦しんでいるフランシス・セウェル様を見て心を入れ替えたのだそうです」

「‥‥‥」

私は一体何を言っているんだ。

謎すぎる。

何だよ、“初めての恋で制御できない”って!“両親から冷たく接されていたので心に傷を負っている”って!

そもそも、マッケンジー家は他人には冷たく家族には激的に甘いと有名なのに。

「コールウェルさん、さすがにその説明には無理があるよ」

「ええと、」

ですよね!

フランシス様も私と同意見らしく、疑心と困惑に満ちた目で見つめられた。そりゃあ、そうですよね…。でも、真実のほうが無理があるんですよ。

だからうまく説明できないんです。残念なことに。

「全部本当のことですよ!ロレーナ様に教えてもらったんです」

「…コールウェルさん、」

あなた、騙されてますよ。という憐れんだような目にグッと言葉につまる。

いやあ、私も今までだったら本当にロレーナにこれを言われて信じている人がいたら頭が非常に弱いんだな、と思うところだ。でも、フランシス様にはこれを信じてもらわなければ困る。

なんて言おう。――――そうだ!

「フランシス様、安心してください!勿論、今でもロレーナ様はフランシス様を深く愛していらっしゃいますよ」

「‥‥そう言われても、」

困るよね!

分かってるよ!分かってるんだ!

「‥‥」

私では駄目だ。誤魔化しきれない。私の演技力は底辺なんだ。

こうなってしまえば、残りの道は一つだけ!

「あ、もうすぐ授業ですね。フランシス様もはやく行かないと、遅れてしまいますよ!」

そう言って、これ以上の言葉をかけられる前にするりと教室内に入りこんで席に座った。








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