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もうひとつの不可思議セブン5

「そうかい。じゃあ遠慮なく」


 老婆の霊がすうっとオレの身体の中に入り込んできた。


 さっきまでとは違う意味で背筋がゾクっとして、老婆の意識が流れ込んでくる。


 数十年前、まだ彼女が若かったころ、


 妊婦だった彼女は交通事故にあい、この病院に搬送された。かろうじて命はとりとめたものの、赤ん坊は死産。彼女も子供を産めない身体になってしまった。


 その後、なんだかんだで夫と離婚し、人生のほとんどを一人で過ごした。


 一人暮らしは気楽なもので、けっして不幸な人生だったわけじゃない。


 ただ、最期のとき。


 自宅で肺炎になって倒れていたところを、またこの病院に搬送された。ほどなくして彼女は息絶える。悪くはない人生だった。そのまま成仏しようとしたとき、同じように緊急搬送されてきた妊婦さんが無事に出産する姿に遭遇した。


(あのとき、もし無事に赤ちゃんが産まれていたら、全然違う人生だっただろうな)


 そう思ったら、止められなくなった。


 せめて、一度だけでも赤ちゃんにおっぱいをあげたかった。


 我が子をこの胸に抱きしめたかった。


 それが叶うまでは、成仏などできるはずがない。


 そして今――


 腕の中に、柔らかい赤ん坊がいる。一心に乳首に吸い付いて離そうとしない、愛しい子。


 オレは、自分の身体に憑りついた老婆の霊に向かって念じた。


「残念だけど、この子はアンタの赤ちゃんじゃない。こんなデカい赤ちゃんなんていないだろ」


(……)


「本当の赤ちゃんがどこにいるか知ってるか?」


 老婆だった霊が若い女性の姿に変わる。優しい微笑みを浮かべると、霊はコクンとうなずいて空を指さした。


「じゃあ、もう逝ったらいい。赤ちゃんが待ってるぞ」


 母親の霊はさらにうなずく。


 すると、みるみるうちに霊体は金色のオーラに包まれ、そのまま霊安室の天井を抜けて上空へと消えて行った。


 後に残ったのは、オレと夢中でオレの乳首をしゃぶり続ける透。


「もういいぞ」


「えっ、九郎ちゃん賢者タイム?」


「ちがうわっ!」


「へへへ、ごちそうさま。でも、どうしてお婆さんの霊を成仏させたの? 赤ちゃんの霊を泣き止まさせないといけないんでしょ」


 不思議がる透に、オレは肩をすくめてみせた。


「赤ちゃんの霊って、そんなのどこにいるんだ?」


 さっきまで泣いていた赤ん坊の泣き声がピタリと止んでいる。


「あれ? どういうこと?」


「そもそも、赤ん坊の霊なんか存在しなかったってこと。あれは、老婆の霊が生み出した幻だったのさ」


「?? ちょっと意味わかんないんですけど?」


「おかしいと思ったんだよ。あの婆さん言ったろ。生まれたばかりの赤ん坊が一度でいいから母親の乳を吸いたかったと恨んで化けて出るって。でも、一度も乳を吸わずに死んだんなら乳の味なんか知らないんだから恨みようがないじゃん。つまり恨みが残るのは、吸わせられなかった母親のほうだったってわけ」


「全然よくわからないけど、九郎ちゃんすごい!」


 オレは、どこに見ているかわからないクインティーと玲子先生に向かって叫んだ。


「な、これで七不思議その5も達成だろ!」


 すると、廊下の外でチンというエレベーターが開く音がした。


 金髪美少女の声が響く。


「さすが、姫雪クン。七不思議の五つ目クリアデス。あと二つ、頑張ってクダサイ!」



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