コベツ的選挙活動1
翌日の放課後。
「ええと、ちょっと近い……かな?」
目の前に、ツンと上を向いた鼻があった。青い瞳がキラキラと輝いている。そして何よりも、肩に当たっている二つの塊の破壊力たるや……
「ワタシもそう思いマス。男の人にこんなに近づくなんて恥ずかしいデス。でも、選挙は肉弾戦だからしっかりくっつかなきゃダメだって、レイコ先生に言われマシタ。離れたら怒られマス。姫雪クン、ご迷惑デスか?」
オレの肩にしがみつきながら戸惑ったような声で尋ねてくるのは、海外からの転校生にして生徒会長選挙立候補者のクインティー・ベイカー嬢だ。
本当に恥ずかしいんだろう。妙に瞳がキラキラしていると思ったら、どうやら涙目になっているだけらしい。
「いや、まあ別に、迷惑ってことはないけど……レイコ先生って?」
「養護教諭の水天宮玲子先生デス。この服も、先生が着て行きなさいって」
選挙公示日の翌日から、選挙活動が始まった。今日は、じゃんけんに勝ったクインティー・ベイカー嬢陣営の選挙活動日だ。
オレとクインティーは、いったん帰って公園で待ち合わせをしていた。
制服から着替えた彼女のいでたちは、はち切れんばかりの太腿をあらわにしたデニム地のホットパンツに、これまた自己主張の激しい爆乳が半分以上まろび出ているピチピチのTシャツだ。もしかしたら、いやおそらくきっとノーブラだと思うんだけど、胸のぽっちりはサスペンダーに隠れて確認することができなかった。
「この格好なら、姫雪クンは大喜びするはずだって」
「一体何考えてるんだ、あのヒトは」
新任の養護教諭水天宮玲子は、どうみても白神先輩だ。そして先輩は、クインティー・ベイカー嬢を生徒会長に当選させたいらしい。
真紅さんと戦う、と言ってたのはこのことなんだろう。
本当に一体何を考えているのか、さっぱりわからない。しかし、それにしたって……
「その恰好じゃ、寒いだろ」
今はまだ二月。冬真っ盛りだ。
オレは着ていたコートをベイカー嬢に羽織らせた。
「おかしいデス。先生の話では、この服を着ていたら姫雪クンは野獣のような目でワタシのボディーを視姦するはずだって」
「しねえよ! てゆうかキミ、視姦とかすごい日本語知ってるね!」
* * *
「で、選挙活動っていったい何をするんだ?」
「ええと、まずは姫雪クンにワタシのことをよく知ってもらいたいデス。だから、デートをするデス!」
バキッ!!
デート、という言葉に反応して駅前の隅にある植え込みから木の枝が折れる音がした。同時に恨みがましい視線が飛んでくる。
茂みの中にいるのは、真紅さんと透だ。
両陣営は互いの選挙活動の邪魔をしないというルールだったが、
《あの乳オバケ、絶対色仕掛けを使ってくるに決まってるわ。だって、背後には白神ビチ子がいるのよ》
《ボクは、九郎ちゃんが貧乳好きだって信じてるよ。でも九郎ちゃん、エロゲの最初の攻略ヒロインに金髪キャラ選ぶこと多いよね。放っておけないよ》
ということで、二人はオレたちを尾行することにしたらしい。邪魔さえしなければルール違反じゃないという理屈らしいが、なんでもいいから人のエロゲのプレイ傾向を解析するのはやめてほしい。ホントに。
とりあえず、聞かなかったことにしてベイカー嬢に尋ねた。
「で、今日は何するんだ? デートって言われても、オレしたことないからわかんないぞ」
「それはひょっとして純情アピールデスか?」
「ちげぇよ」
「実はワタシも男の人とデートするの初めてなんデスよ」
「そうなんだ……って、それこそ純情アピールだろ!」
「ギクッ!」
「ギクッって、なんちゅうコテコテのリアクション! キミ、ホントに海外からの転校生?」
「もちろんデス。それにデートだってホントに初めてデスよ。けど、やりたいことは考えてきマシタ。実はワタシ、姫雪クンに教えて欲しいことがあるんデス」
そう言うと、ベイカー嬢は両手を握り合わせた。そのまま上目遣いでお願いのポーズをとる。あふれんばかりの胸元。予想外の破壊力にクラクラしていると、またも茂みからささやき声が聞こえてくる。
《教えて欲しいこと? もしかしてヤらしいことじゃないでしょうね》
《ヤらしいことに決まってるよ。それ以外に九郎ちゃんに聞くことなんかないもん!》
透のヤツ、あとで説教だな。
でも、まさかホントにエロいことを教えてくれっていうんじゃあるまいな。いや、あの白神先輩が知恵をつけているんなら、そのくらいの色仕掛けは十分あり得る。
どうする? もちろん、オレの純潔は聖玉との契約の対価だからいくらお願いされてもあげられない。
(でも……)
オレは巨大な胸の圧力で伸び伸びになったTシャツに文字が書かれていることに気がついた。
FUCK ME. I‘m BICH.
(って!! 服を選んだのは先輩でも、意味わかってるよね!!)




