その後のメガミたち 1
* * *
次の日曜日。
オレは一人、旧校舎の裏に広がる林の中をさまよっていた。ここには、七十七不思議その49「幸運の白い蛇」がいる……はずだ。
けれど、探し始めて一時間になるのにまだ白蛇どころかトカゲ一匹見つからない。
「ええと、あのときは……どこにいたんだっけ?」
つい数週間前、封印帳をコンプリートしたときにも一度捕まえているはずなんだ。でもあのときは真紅会長がグイグイ引っ張ってくれて、オレは何もしないうちにあっという間に白蛇を捕まえて不思議を制覇したっけ。
「うーん、まいったなぁ」
見上げると太陽が真上に差し掛かっている。
小春日和というんだろうか、まるで春のような日差しがポカポカと暖かい。
「苦戦してるの?」
背後から鈴を転がすような涼やかな声がした。
振り返ると、青嵐学園理事長で、生徒会長兼剣道部主将を務め、しかも入学から三年連続ミス青嵐に選ばれるという黒髪ロングの美少女、次郎丸真紅その人が立っていた。
しかしその姿はいつもと全然違っている。
学校指定のジャージ着用だった。
「会長も、ジャージって着るんですか?」
「なに言ってるの。当たり前でしょ」
たしかに当たり前だ。会長も体育の授業は受けるモンな。
「ハハハ、そうですよね。でも、なんでそんな恰好……」
たずねようとしたオレの唇を会長の指が押さえる。
「シーッ、静かにして」
白くて細い指。舌を出して舐めたらどんな味がするだろう。必死で衝動を抑える。
会長は、辺りを見回すと真剣な表情で言った。
「抜け駆けはしないってあの二人と約束してるんですけどね」
あの二人というのは、きっと透と白神先輩だろう。
「でも、姫雪君一人に任せておけないなって」
「すみません。頼りなくて」
会長の読み通り、オレ一人じゃ白い蛇の抜け殻すらみつかりそうもない。
すると会長は慌てて両手を振ってみせた。
「ちがうわよ。そういう意味じゃなくて、本当は私が探さなきゃいけないものでしょ。私の記憶を取り戻すためのものなんだから」
なるほど。さすが真紅会長だ。責任感が強くていらっしゃる。
次郎丸真紅ファンクラブ会員としてはちょっとくらい任せてほしい気もするけど、オレ一人じゃいったい何時間かかるかわからないのも事実だった。
「じゃあ、オレと会長の二人で協力して白蛇アンド白烏を探しましょう」
会長の前に右手を差し出す。
すると、会長はおずおずと握り返してきた。柔らかい手。これが、下り刀を振り回すとは信じられない。
「ええとそれから……実は、お弁当も作ってきたんです。お昼になったら食べませんか?」
そう言って、会長は手にしたバスケットを持ち上げてみせた。
「いいですねぇ。じゃあ、ちゃっちゃと片付けますか……って、でも会長、料理なんてできるんですか?」
オレの脳裏にあの殺風景な会長の部屋が蘇る。どうひいき目に見ても、料理が得意な女子の部屋じゃなかった。
すると、会長は口を尖らせながら言った。
「もう失礼ね。私だって料理くらい……でもホントは、ほとんどシスターたちに作ってもらいました」
* * *
それから、オレと会長は二人で白蛇を探した。
「もうそろそろ冬眠してるかも」
そんな会長の言葉にしたがって、あちこちの木の根元を掘り起こす。
あっというまに裏の林は穴だらけになった。
たしか、前回捕まえたときは所要時間2分30秒くらいだったんだけど……二時間穴を掘り続けても、白蛇は影も形もみつからない。
「うーん、どうしたのかしら」
「参りましたねぇ……」
「そんな難しい不思議じゃなかったはずなのに……」
オレたちは力尽きて芝生に寝っ転がった。
いい天気だ。
突然、ギュルルという地鳴りのような音が聞こえてきた。どこかで聞いたことがある音だ。
「ラップ音か! 新手の魑魅魍魎か!」
慌てて飛び上がるオレの首筋に、下り刀が突きつけられる。
「こういうときは聞こえないふりをしてって言わなかったっけ?」
「ハハハ、じゃあお昼にしましょうか」




