後日譚:社会人はツラいよ 3
「あーそれ、AVっす」
「えーぶい?」
「管理人さんご存じないっすか? アダルトビデオ、つってもDVDですけど。エッチなDVD見てたんで、その声っす。九郎ちゃんは高校のころからAVが大好きで、AVキングの名を欲しいままにしてたんっすよ」
「はぁ!? てめぇ、何言ってやがる!」
突然の暴露話に、オレの顔面は蒼白になった。
高校生のオレって、そんな奴だったのか?
いやいや、仮に本当にオレがAVキングとして校内に君臨していたとしても、今ここで言う必要があるか? 瞳子のヤツ、いくら女子(自分)の存在をごまかすためとはいえ、真紅様の前でなんてこと言ってくれちゃってるんだ!
「あのぉ次郎丸さん、誤解ですよ。こいつの言ってることはもちろん全部冗談ですから」
「い、いえ、私の方こそ、すみません。女の人がいるだなんて変な勘違いしちゃって」
しどろもどろでそう言った真紅様の顔は、その名のとおり真っ赤に染まっている。
「いやいや、今だってまだ勘違いしてますよね。オレAVなんて見ませんし、今だって見てませんでしたから」
「いいんですよ。別にそういうビデオを見るのは禁止じゃありませんし。健康な男の人なら当たり前……なんですよね?」
「オレ聞かれても……ってゆうか違いますって!」
「すみません、お楽しみのところをお邪魔してしまって!」
最後に早口でそう言うと、真紅様はくるりと背中を向けてまるで脱兎のごとく駆け出してしまった。その後ろ姿を眺めながら、瞳子が得意げにつぶやく。
「やったぁ、うまくごまかせたね」
「やったぁじゃねえよ! てめぇのせいで、真紅様にあらぬ誤解をうけちまったじゃないか!」
オレは瞳子の首根っこをつかんで責めたてた。
しかし、男装の美少女は涼しい顔で答える。
「誤解? あーそういえば九郎ちゃんはAVキングじゃなくて、エロゲキングだったもんねぇ。しかも社会人になってもまだ現役だなんてビックリしたよ」
「現役って!? おまえ、……おまえ、いったい何言ってるんだ?」
「へへへ、実は見ちゃったんだよね。九郎ちゃんのパソコンの中」
思わず、血の気が引いた。
就職してから忙しくて恋人を作る暇もないオレは、独り身の寂しさを紛らわすため、いわゆる美少女ゲームというものをたしなんでいた。もちろん、そんなにマニアックなヤツじゃないんだけど……まさか、アレを見られたのか?
「でもビックリしたよ。ヒロインの名前がボクと同じなんだもん。九郎ちゃんがボクのことを忘れずにいてくれたのはうれしいけど、さすがにエロゲのヒロインってのは微妙だよねぇ」
いま攻略中のゲームはヒロインの一人称がボクという、いわゆるボクっ子モノで、オレはたまたまそのヒロインを瞳子と名付けていた。
「いや、あれは偶然たまたまだ! オレに高校時代の記憶がない話はしただろ!」
「偶然で瞳子なんて名前が被るわけないじゃん。きっと九郎ちゃんは潜在意識の中でボクのこと攻略したいって思ってたんだねぇ。言われてみれば、時々ボクのことネチっこい目つきで見てたもんなぁ。あと、九郎ちゃんが妄想の中でボクをどうしようと勝手だけど、選択肢でお尻ばっかり選ぶのは、かんべんしてほしいかなぁ。『ボク初めてなのに、お尻でいっちゃうっ!』なんて、現実には絶対ありえないからね」
瞳子は、ニヤついた目でこっちをながめている。
「殺せ! いっそ殺してくれ!」




