不可思議セブンティセブン3
次にやってきたのは、家庭科実習室だ。オレはノートのページをめくった。
『青嵐学園七不思議その3、「真夜中の調理実習」
深夜の家庭科実習室を訪れた者は、調理器具たちが自ら勝手に動いて料理を作るという驚くべき光景に遭遇するだろう。それは、調理実習で顔にヤケドを負って自殺した少女の幽霊がなせる業だ。調理器具たちが作った料理を食べた者は地獄の苦しみにもだえることになる』
「会長、今回は本格的な霊現象みたいですよ」
「そのようね」
実習室の中から、何やら怪しげな音が聞こえてきた。二人がそっとドアをあけると、室内では包丁や鍋やフライパンが宙を舞い、食材を調理していた。
突然、オレの耳元でギュルルルと音がした。
「ラップ音ですかねえ」
「うるさいわね。こういうときは聞こえないフリするのが礼儀ってモンでしょ」
鳴ったのは生徒会長のお腹の虫だった。
「そうですね。夜も更けてお腹もすいてきましたし、中に入って何か食べさせてもらいましょう」
「ちょっと本気? 料理を食べると地獄の苦しみにもだえることになるのよ」
「でも、封印帳にチェックされるためには一口くらい食べなきゃダメでしょう。さあ、行きますよ」
実習室に入ると、さっそく紙ナプキンが飛んで来て、ボーイよろしくオレたちを実習室の真ん中の席に案内してくれた。
目の前に、次々と料理が運ばれてくる。味噌汁、ご飯、ポテトサラダ、サバの味噌煮。なるほど、家庭科の実習で調理するメニューだ。
「ええい、こうなったら毒食わば皿までよ」
そう言って箸を取った会長は、次の瞬間、
「ぐふっ、これが地獄の苦しみね!」実習室の床に転げまわって悶え苦しんだ。
「大丈夫ですか? 毒でも入ってたんですか?」
「ま、不味い……」
「えっ?」
「不味過ぎるのよ。味噌汁は薄い。米は硬い。ポテトサラダは酸っぱ過ぎる。おまけに、サバの味噌煮は生焼けときてる。一体、どこをどうやったらこんな不味い物が作れるっていうの!」
会長の言葉に、実習室の空気が凍りついた。調理器具が、一斉に宙を舞って会長を取り囲む。よく見ると、調理器具たちの真ん中に女子生徒の姿が浮かび上がっていた。
その顔面には大きくヤケドの痕が残っている。
「ユルサナイ、ワタシの作った料理が不味いなんて!」
口を押さえてうずくまる会長を目掛けて、調理器たちが襲い掛かってきた。
「なんのっ!」
会長はクダリ刀を抜きはなつと、まず飛んでくる包丁を払い落とす。さらに菜箸の攻撃をかわして、フライパンを真っ二つに切り裂いた――その時だった。
「えー、そんなにマズくないですよ。いつもの寮の飯に比べたら全然いけますって」
オレはあっというまに幽霊の用意した料理を完食していた。
「こんな美味しい料理が不味いなんて、会長普段どんなもの食べてるんです? もしかして逆に味音痴とか? あの、すいません。おかわりいいっすか?」
空中を舞う女子生徒の顔に微笑みが浮かんだ。いつの間にか、顔面に刻まれていたヤケドの痕が消えている。みるみるうちに彼女の身体は光に包まれて、そして消えていった。調理器具も元ある場所に戻っていく。
「ええっ、もう終わり? おかわりないんですか?」
オレの叫びに答えたのは、生徒会長だった。
「あなたにおいしいといってもらえて、女子生徒の霊は成仏したのよ。もう、『真夜中の調理実習』が現れることはないでしょう」
「えっ? じゃあ、学園七不思議は76個になっちゃうんですか?」
「学園七不思議はずっと固定されてるわけじゃないの。一つの不思議が消えれば、時代の流れにあわせて新しい不思議が補充される。学園に生徒がいる限り、恨みや妬みが消えることはないもの。でも、それにしてもあんな解決方法があったなんて、やっぱり姫雪君は優しい人ね。あの料理を美味しいと言ってあげられるなんて」
「ええ? いやマジで、普通に美味かったですよ。もう寮の食事にくらべれば全然。そうか、もう出てこないのか。残念だな、これから毎日ここに食べに来ようかと思ったのに」
オレの言葉を聞いた次郎丸会長の目に、どういうわけか涙が浮かんでいた。
「ゴメンね、姫雪君。いつもそんなに不味いものを食べていたなんて。こんど理事会に訴えて、かならず男子寮の食事を改善させるからね」
更にオレたちは、プールにやってきた。
青嵐学園には水泳部用の室内温水プールもあるんだけど、七不思議がおこるのは屋外にある古いプールのほうだ。こちらは夏だけ体育の授業で使われている。
プールサイドに出ると、夜風が一段と冷たかった。
「なんのこれしき、封印帳完全制覇のため頑張るぞ!」
一人気勢を上げるオレに、非難の声が飛んだ。
「ちょっと待ってよ、なんで私だけ水着にならなきゃいけないの?」
更衣室からスクール水着姿の次郎丸会長が現れた。
「だって、前に会長、『私は鍛え方が違うから、寒さなんか感じない』って言ってたじゃないですか。ここは一つお願いしますよ」
「まあたしかに寒いのは平気だし、姫雪君がどうしても私の水着姿を見たいっていうんなら水着になってあげないこともないんだけど……だからって、どうしてこんなモノまで着けなきゃいけないの!?」
水着姿の会長のナイスバディな下半身には、真っ白いフンドシが締め込まれていた。セクシーのか滑稽なのかわからない、なんとも微妙な姿だ。
「まあ、聞いてください。もちろん、その格好にはちゃんと意味があるんです――
青嵐学園七不思議その4、「プールサイドの相撲レスラー」
深夜、学校のプールで泳いでいると足を引っ張られる。その正体は日本古来の妖怪、河童様だ。付近の川を追われた河童の霊がプールに棲みついたと考えられている。胡瓜を持って、相撲を取ろうと誘ってみよう。プールから上がってくるぞ。
――つまり会長が身につけているのはフンドシじゃなくマワシ。今から会長は、プールサイドの相撲レスラーウーマンなんです」
「……相撲レスラーウーマンって、姫雪君、なんかテンションおかしくない?」
たしかに、真夜中過ぎてずいぶんハイになっているかもしれない。
「よぉし、いいねえ、いい感じだねえ、じゃあ、ちょっとコレ持ってみようか? いいよぉ、セクシーだよぉ」
「そ、そう? って、なんで両手に胡瓜を持たせるの?」
「じゃあ、それを口にくわえて上目遣いください。これなら河童だろうがなんだろうが、会長の魅力でイチコロですよ」
「ああもう、わけがわからない」
次郎丸会長はプールサイドに四つんばいになって胡瓜を咥える。すると背後の水面が盛り上がって、中から緑色の妖怪が現われた。頭に皿、背中に甲羅、口にはくちばし。間違いない。青嵐学園七不思議その4の河童だ。
河童は皿のついた頭をポリポリと掻きながら、鼻息も荒く会長に向って話しかけてきた。
「あのぉ、写メ撮らせてもらってもいいですか?」
その片手には、携帯電話が握り締められている。
「いいわけないでしょ!」
怒号と共に、会長の踵落としが河童の頭部に炸裂した。頭の皿が割れた河童は、ウギャッという短い悲鳴と共にプールに浮かんだ。
東 次郎丸真紅 ○ (決まり手 けたぐり) ● 西 妖怪・河童




