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真夜中ガクエン6

 オレは、必死で深夜の校舎をひた走った。


 ちょっと速度を落すとたちまち会長に追いつかれそうになる。その度、背中に「死ねっ」という叫びと刀が風を切る音が迫った。しかも、会長の目つきは尋常じゃない。その目は、盗まれた祖母の形見を取り返す正義の味方というより、傷ついた鼠を面白半分で狩る猫のような、そんな危ない欲望で爛々と輝いている。


(ヤバいよ、この人は作曲家小人なんかより全然ヤバい。まんまジェイソンかフレディじゃないか!) 


 走りながら考えた。


 今日はいったいなんて日なんだ。


 本当に学園七不思議が実在するなんて。それどころか、刀を持った殺人鬼に追い回されているなんて。


 どうする? こうなったら正直に封印帳を渡して許してもらうか? 白神先輩には悪いけど、盗品を預けるなんて彼女だって半分はオレを騙したようなもんだ。いいことってのを教えてもらえなくなるのはほん少しだけ残念だけど、別にオレはエロい気持ちで「封印帳」を預かったわけじゃない。


 ……ただ、


 オレの頭の中に、弓道場の闇に融けてしまいそうな白神先輩の微笑みが浮かんだ。


 額が熱くなる。


 先輩だって同じ青嵐学園の生徒だ。なんの訳もなく、瀕死の理事長の家に押し入って宝物を盗むなんてことをするだろうか。きっと先輩なりの事情があるに違いない。


 それを聞かず、一方的に白神先輩を悪人扱いしていいもんか?


(もうちょっとだけ、頑張ってみるか)


 何とか生徒会長を撒いて、封印帳を保健室まで持っていく。それから白神先輩に事情を聞いて、できれば封印帳を会長に返すように話してみよう。


(とりあえず、できるところまでやってみよう)


 息も絶え絶えになりながら三階の端にある一年A組の教室に飛び込んだ。オレの記憶が確かなら、この教室の後ろ側の窓には大きな楠の木の枝が届いているはずだ。


 窓を開けて後ろを振り向くと、会長が刀を振り上げてこちらを睨んでいる。


「やっべぇ!」


 こうなったらもうやるしかない。大丈夫、ジャッキーチェンの映画でよくやってるヤツだ。ジャッキーは全部スタント無しでやってるそうじゃないか。


 窓の外目掛けて、思いっきりジャンプした。


 それから両腕を伸ばして、なんとか楠の木の枝をキャッチ。


「よっしゃあ! いけるぞ、ジャッキー!」


 と思いきや、メリッという枝の折れる鈍い音がした。


 悪い予感が頭の中を駆け抜けた。


(まさかこれはエンディングのNG集パターンか!?)


 掴んだ枝がオレの体重に耐え切れずメリメリと下がってきた。夢中で上へ上へ

と枝を手繰り寄せる。


「うわぁあああああああああ、……あっ!?」


 気が付くと、オレの足はなんとか無事に校庭に着地していた。


(助かったぁ)


 振り返って、今降りてきた三階の教室を見上げた。そこには窓に片足を掛けて身を乗り出し、歯噛みして悔しがる生徒会長の姿がある。


 ちょっとだけ調子に乗って叫んでみた。


「会長さん、一つだけ忠告しておきます!」


「何よ!」


「パンツ丸見えですよ。さすがの純白。ご馳走様!」


「こ、この変態、もう許さないんだから!」


 どんなに叫ぼうとも、もう彼女にはどうすることもできないはずだ。オレが飛びついた木の枝は折れてしまっているし、他に掴まれるような木は無い。会長が階段を使って一階にたどり着く頃には、オレはゆうゆう保健室にたどりついているだろう。


 そう思って校舎に背を向けようとした、その時だった。


「待ちなさいっ!」


 生徒会長の叫び声に振り向いたオレは文字通り目を丸くして驚いた。


(ウソだろ)


 理事長の孫にして生徒会長兼剣道部部長、その上三年連続ミス青嵐学園に選ばれるという完全無欠の美少女が、日本刀を抱えたまま三階の窓からジャンプしたんだ。


 いくら彼女が運動神経抜群だろうと、三階から飛び降りて無事でいられるはずがない。


 思わず目をそむける。ズゥンという鈍い音した。恐る恐る視線を戻すと、そこには地面に仁王立ちになる美少女の姿が、


「……大丈夫ですか?」


 会長の眼にはうっすらと涙が滲んでいる。


「大丈夫なわけないでしょ。いい、ぜぇったいに、そこを動くんじゃないわよ」


 生徒会長は、次郎丸真紅信者の生徒たちが見たら卒倒しそうなくらい不恰好なガニ股でゆっくりとこっちへ歩いてきた。


 これはとてもじゃないけど逃げられそうにない。っていうか、これ以上逃げたら会長がどんな無茶をするかわからないし。


「わかりましたよ。もう降参です」


 観念して両手を挙げた、次の瞬間――


「きゃっ」


 突然、生徒会長の足元が崩れた。校庭に穴が開いて、彼女の身体が落とし穴に吸い込まれる。


「危ないっ!」


 何がなんだかわからなかったけど、反射的に身体が動いた。


 ヘッドスライディングの要領で飛び込むと、間一髪落ちていく会長の腕をキャッチした。だが宙吊りになった会長の重みで、オレの身体も徐々に落とし穴の中に引きずりこまれていく。


 会長はオレの手を握り返すと得意気に言った。


「とうとう捕まえた、姫雪九郎。もう逃げられないわよ」


「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


 なんとか会長を引き上げようと踏ん張る。だが地面は流砂のように流れ、あっという間にオレたちを地下に開いた穴へと流し込んでしまった。


「うわっ!」「きゃぁっ!」


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