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フタゴ人形とキュウビの狐1


 それからオレたちは一階へと階段を下り、玄関ホールから見て一番奥、廊下の突き当りにある部屋の前にやってきた。


「さぁ、中へどうぞ」


玲子先生が中に入って電気をつける。


 室内にはスチール製の事務机と書棚、そして青いビニールレザーのベッドが置かれていた。きっと病院が廃院になる前は、診察室として使われていたんだろう。


 大きな窓に掛けられたブラインドは上三分の一ほどで千切れていて、この部屋が長く使用されていないことを物語っていた。


「で、今度の七不思議はなんなんです?」


 そう尋ねてから、ふと思った。


(さっきまではオレと透だけだったのに、今度の七不思議は白神先輩もついてきてくれるんだ)


 背後でガチャガチャという音がする。


 振り返ると、玲子先生が診察室の扉の鍵を閉めていた。


「先輩?」


「一子ちゃん、何してるの?」


 オレたちの問いかけに、先生はニターっと気味の悪い微笑みを浮かべる。


「フフフ、あなたたちホントにずっと勘違いしてるのね」


「えっ?」


「まあ、その方がこっちには都合いいから黙ってたワケだけどぉ。ええと、青嵐中央総合病院七不思議の最後はね、『診察室の美少女人形』っていうの」


 診察室の美少女人形――どこかで聞いたような?


「七不思議の最期を飾るのにふさわしい怪奇現象よ。診察室に置かれていた人体模型が、長い年月を経て付喪神になったの。付喪神の願いは、人間になること」


「人間になる?」


「そう、付喪神は人間に憧れていたの。でも姿も形も人間そっくりなのに、自分はどこかが人間と違う。付喪神は考えた。どうすれば人間になれるのか。長い年月ずっと考えて、考えて、考えて、そして答えにたどりついた。人間にしかできない。人間しかしないことをする。そうすれば、自分は人間と同じ存在になれる」


「それって、一体?」


「人間を殺すこと。それも食べるためや生きるためじゃなく、ただ楽しみのためだけに首を刎ねる。そうすれば、きっとあたしは人間になれる」


「あたしはって……先輩?」


 突然、窓の向こうでザァーっという音がして雨が降り始めた。


 さっきまで雲一つない晴天だったのに、ゲリラ豪雨ってヤツだろうか。まるでバケツをひっくり返したような大雨が、病院の外に広がるアスファルトの駐車場を濡らし始める。それだけじゃなかった。


 窓の外がピカっと光ったかと思うと、ドーンという重低音が響く。


「九郎ちゃん!」


 雷が苦手な透がしがみついてきた。


「いきなり、降って来ちゃいましたね。これも七不思議の一環なんですか?」


 背筋に冷たいものを感じながら、先輩に話しかける。


「いいえ、この雨はきっともうすぐ封印が解ける『青嵐の主』を歓迎して、魑魅魍魎たちが降らせているんだわ」


「そ、そうなんだ。でも最後の不思議を達成できなかったら、封印は解けないんでしょう?」


「あら、弱気なのね」


 窓ガラスに映った玲子先生は、相変わらず予測不能な微笑みを浮かべている。


「でも、ここまでくればあまり関係ないんじゃないかしら。だって――」


 再び、稲妻が走った。まぶしさに一瞬目を閉じる。


「キャッ!」透の悲鳴が響いた。


 おそるおそる目を開いたオレの視界に飛び込んできたものは、以前も見た「美少女人形」の正体。グロテスクな人体模型だ。


「あなたは何もしなくていいの。何もせず人形の願いを叶えてくれれば、それで不思議は達成される」


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