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灯りを運ぶ人ー山から海ー  作者: 堺大和
潮目の波間
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78/83

残し方

翌朝

奥崎大橋の上を渡る車は

いつもの数に戻っていた

昨日の渋滞が嘘みたいだった

海は静かで 風も弱い

道の駅奥崎の駐車場には

ところどころ紙屑が残っている

飲料の空き缶

花火大会のチラシ

使い終わった紙コップ

昨日人がいた証拠尾だけが残っていた


午前九時半

軽バンが駐車場へ入って来る

私と

三口汐里

今日は営業日ではない

だが かたずけと確認の為に来ていた


「静かですね」


汐里が車を降りながら言う

昨日の人混みがまだ頭に残っている

同じ場所とは思えなかった

「祭りの次の日は こんなもんや」

私はゴミ袋を持って歩きだす

駐車場を廻る

橋の下

植込みの横

海沿いのベンチ

思ったよりゴミは少ない

それでも少しづつ拾っていく


「この辺 人座ってましたよね」

「花火見とったな」

汐里がベンチの下から

空いたペットボトルを拾う

昨日 家族連れが座っていた場所だった

橋を見上げる

今日はもう 花火の気配はない

白い橋脚だけが空に伸びている


午前十時半

建物の中

昨日使った机を戻す

ゴミを分別する

冷蔵庫の在庫確認

空になった段ボールが壁際に積まれていく


「水 ほとんど無くなってますね……」

汐里が驚いた声を出す

「スポーツドリンクもやな」

私はメモを見る

昨日の販売数

普段とくらべものにならない

だが 利益だけ見れば大きくはない

準備も多かった

人でも必要だった

それでも……

必要ではあった


「ホット途中で足りなくなりましたよね」

汐里が言う

「夕方から急に動いたな」

「あとトイレ」

「うん」

汐里のメモ帳には 昨日の走り書きが

残っていた


女子トイレ混雑

水不足気味

ゴミ箱増設必要

自転車の修理道具

ホット需要夕方急増


私はそれを黙って見る

「なんか 売店のメモというより

施設管理ですね」

汐里は苦笑いする

「多分 そっちが近い」

私は答える

道の駅奥崎は まだ何屋か決まっていない

だが昨日 人が困ったときには

確かに必要だった


昼前

昨日の警備員が 箸の様子を見に来る

「昨日 大変でしたね」

「そっちも お疲れさまでした」

私は頭を下げる

「いやあ 

トイレ開いとって助かりましたよ」

警備員が笑う

「途中から 道の駅にありますって

案内しとったんです」

汐里が少し驚いた顔をする

「えっ」

「あっち 入ったほうがええですってな」

自然な流れだった

誰かが困り 誰かが誘導し ここへ流れる

昨日の道の駅奥崎は

その受け皿になっていた


午後私は売上表を閉じる

窓の外を見る

橋を渡る車は もう普段通りだった

昨日の賑わいは消えている

でも 完全に無意味な一日ではなかった


「山中さん」


汐里がメモ帳を見ながら言う

「昨日みたいな日って またありますか?」

私は少し考える

「あるかもしれんし 無いかもしれん」

それが本当だった

「でも 何もない日の方が多い」

汐里は静かに頷く

昨日だけ見れば 人は来た

だが 道の駅奥津が向き合うのは

その後の日常だった

静かな海

工事中の橋

止まらず通り過ぎる車

その中で 何を残せるのか

道の駅奥崎は まだ探している途中だった



十一月初め

朝から雨だった

戸倉島の支所二階

前回と同じ会議室に また人が集まっていた

窓ガラスに細かい雨粒が当たっている

海は少し白く霞んで見えた

机の上には 先日のイベント時の資料

利用人数

飲料販売数

トイレ利用回数

そして

三口汐里がまとめた手書きメモも

置かれていた


水需要大

夕方ホット不足

休憩利用多数

橋渋滞時に滞留


私はそれを見ながら席へ座る

今日の会議は 前より人数が少なかった

県の担当者

市の地域振興課

道路関係

そして海の駅戸倉川の代表として私山中

大きな再開会議ではない

続けるなら

何処までやるかを決める話だった


「先日のイベント対応についてですが」

市の担当者が資料を開ける

「予想以上に利用がありました」

県職員も頷く

「とくにトイレと休憩利用ですね」

「橋の片側通行との相性もあります」

交通量のグラフが映る

花火終了後 一気に駐車場利用が増えていた


「完全再開は難しくても」


道路担当者が言う

「休憩施設としての需要は確認できたと

思います」

誰も否定しない

私も黙って聞いていた

必要性は 少し見えた

だが 問題は その先だった


「人員ですよね」

地域振興課の職員が小さく言う

空気が少し静かになる

そこが一番現実的な問題だった

「現状 山中さんと海の家戸倉側の応援で

回していますが……」

「長期は厳しいです」

私は答える

正直だった

「海の家側も冬は牡蠣が始まります

常時兼任は無理が出ます」

県職員が腕を組む

「フル営業はまだ早い という感じですか」

「はい」

私は頷く

「ただ 今の形なら可能性はあります」

資料を一枚出す


営業案 仮

平日限定

短時間営業

休憩機能中心

飲料 簡易物販

トイレ維持

災害時利用継続


「……かなり小規模ですね」

誰かが呟く

私は否定しなかった

「最初から広げると また止まります」

静かな声だった

会議室の外の雨音が少し強くなる


「人を雇う予定は?」

市の担当者が聞く

私は少し考える

「常勤は厳しいと思います」

「パート……ですね」

その言葉に 何人かが頷く

現実だった


「地元の方で 短時間なら可能な人を

探す形か」

「ええ」

「午前だけとか 昼だけとか」

海の駅戸倉と完全に分けるまでもなく

支え合う形

大きく儲ける施設ではない

だからこそ 無理をしない運営が

必要だった


「問題は来てくれる人がいるかですね」

誰かが言う

私は窓の外を見る

雨の奥に 奥崎大橋がぼんやり見えていた

片側通行

工事

人口減少

全部 状況は厳しい

でも……

「ゼロではないと思います」

私はゆっくり言う

「前の道の駅みたいに戻すのは無理です

でも

今の地域に合う形なら残せるかもしれません」

会議室は静かだった

派手な案は無い

観光計画も無い

でも 続けられるかもしれない形

だけは少しずつ見え始めていた


会議終了後

廊下で汐里が待っていた

「どうでした?」

私は少し疲れた顔で笑う

「まだ 正式再会ではない」

「はい」

「でも 必要ない にはならんかった」

汐里は少し安心したように頷く

窓の外では

雨の中を車が橋へ向かって走っていた

道の駅奥崎は まだ途中だった

だが 終わった場所では

無くなり始めていた


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