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灯りを運ぶ人ー山から海ー  作者: 堺大和
潮目の波間
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77/83

橋を渡る

十月下旬 土曜日

まだ空が薄暗い時間

海の駅戸倉の駐車場だけ明るかった

午前五時過ぎ

私は軽バンの荷台へ段ボールを積み込んで

いた

スポーツドリンク

お茶

缶コーヒー

紙コップ

ゴミ袋

折り畳み椅子

今日は普段より荷物が多い

「これ全部持っていくんですか?」

三口汐里が荷物を覗き込む

まだ朝の空気に少し眠そうな顔をしている

「今日は足りんぐらいかもしれん」

私は答える

「そんなに人来るんですか……?」

汐里にはまだ実感がない

普段の道の駅奥崎は 静かな場所だった


「おはようございまーす」


明るい声が港に響く

大浦渚だった

その後ろから水谷あゆみも歩いてくる

あゆみは両手にコンビニ袋を持っていた

「私たち用のおやつです」

「朝から元気やな……」

渚が少し笑う

今日は沖崎島側で秋のイベントが開かれる

サイクリング大会

カッター競技

夜には花火大会もある

一年で一番 人が動く日だった

海の駅戸倉も忙しくなるが

今日は道の駅へ応援へ回ることになった

渚は荷台を見る

「……これ 足りる?」

「分からん」

私は正直に答える

「今日は様子見や」

汐里は少し緊張した顔で聞く

「そんなに来るんですか?」

渚が笑う

「今日は来るよ 普段の奥崎とは別物」


「あの……橋の工事 

今日は止まっとるんですよね?」

汐里が聞く

「イベントの日じゃけえな」

私は答える

「作業は休み ただ片側通行はそのままや」

耐震補強工事の為 奥崎大橋は長期間の

片側交互通行が続いている

今日は工事車両や作業員はない

だが 誘導員だけは朝から配置されていた

橋の渡る車の流れを止めない為だった


午前七時半

道の駅へ着く

既に橋の手前には自動車が増え始めてた

県外ナンバーの車も見える

片側通行の信号の横で

警備員が誘導棒を振っていた

普段より交通量が多い

でも今日は 金属音も工事機械の音もない

代りに 人の声が増えていた


シャッターを開ける

道の駅の店内に朝の風が流れ込む

机を並べる

飲み物を冷蔵庫へ入れる

ゴミ箱を増設する

入り口には簡単な案内を貼る


『トイレ利用できます』

『休憩どうぞ』


それだけだった

だが今日は それが必要だった


午前九時過ぎ

最初のサイクリスト集団が入って来る

「水ありますか?」

「あります」

汐里があわてて冷蔵庫を開ける

スポーツドリンクが直ぐ減る

「空気入れありますか?」

「あっ……」

汐里が止まる

私は 倉庫から古い空気入れを持ってきた

「これで良かったら」

「助かります」

またメモが増える

『自転車対応必要』

『空気入れ常設?』


午前十時

人が増える トイレ利用者が続く

椅子が埋まる

飲料ケースがどんどん減る

橋の前には片側通行街の車列

でも今日は いつもの工事音が無い分

人の話し声や笑い声がよく聞こえる


「ごみ袋いっぱいです!」

汐里が声を上げる

「あっち新しいの!」

あゆみが直ぐに動く

渚は外に出ていた

警備員と話しながら

駐車場へ入る車を整理している

橋の信号待ちの列が長くなると

入り口付近がすぐ詰まる


「奥へいれてくださーい」


渚の声が響く

その横を自転車集団が橋へ向かって

走り抜けていく

普段静かな道の駅は

完全に別の場所になっていた


昼前

汐里は既に少し息が上がっていた

「お茶追加何処ですか!?」

「後ろの箱!」

あゆみが答える

水の減り方が早い

スポーツドリンクも追いつかない

私は入り口近くで 人の流れを見ていた

今日は売り上げを見る日ではない

何が必要か

何処で人が止まるか

それを見る日だった


「山中さん!」


橋の誘導警備員が歩いてくる


「橋 ちょっと詰まり始めました!」

私は橋を見る

車列が伸び始めている

まだ昼

だが 夕方から花火客が動き始める

そして片側通行

本当に大変になるのは 此れからだった

海風が少し強く吹く

秋の空が 

奥崎大橋の向こうに広がっていた



午後四時過ぎ

西日が奥崎大橋を赤く照らしていた

昼のサイクリング客は

少し落ち着き始めている

だが 

代わりに橋へ向かう車が増えてきていた

県外ナンバー

家族連れ

軽ワゴン 

ミニバン

橋の片側通行信号の前に

少しづつ列が伸び始める

「来ましたね……」

汐里が駐車場の端から橋を見る

昼とは流れが違う

今度は止まる人ではなく

待つ人が増えていた

私は駐車場入り口を見る

「まだ序盤や」

「これでですか?」

汐里が思わず振り返る

渚が苦笑いした

「花火始まったら もっと動かんなるよ」


午後五時

空気が急に冷たくなる

海風が橋を抜ける

あゆみは入り口横にホットコーヒーの

保温ポットを置いた

「これ 結構出ると思います」

私は頷く

夕方になってから

温かい飲み物を探す人が増えていた

サイクリストも 帰りは疲れた顔をしてる


「すいません トイレかりてもいいですか」

「どうぞー!」

汐里が自然に声を返す

朝より動きに迷いが無い

ゴミ袋交換

飲料補充

机拭き

少しずつ回す側になっていた


午後六時

橋の向こう側 

沖崎島方面が少し明るくなり始めた

屋台の灯り

イベント会場の照明

海沿いに人が集まり始めていた

そして 車はほとんど動かなくなる


「完全に詰まりましたね」

警備員が苦笑いする

片側通行の端に 

花火客の流れが重なっていた

道の駅奥崎の駐車場へ

一次的に非難する車も増える

子供がトイレに走る

高齢者が椅子へ座る

飲み物がまた減る


「……なんか

今日だけ別の施設みたいですね」

汐里が呟く

私は橋を見る

「でも今日だけ見て判断したらいかん」

静かに言う

「祭りの日は特別や」

汐里は頷く

だが その特別を支える事にも

意味がある気がしていた


午後七時

突然 遠くで音が響く


ドンーーー


少し遅れて窓ガラスが震える

花火だった

奥崎大橋の向こう

沖崎島の夜空に光が開く

金色

海へ反射した光が ゆっくり揺れる


「うわ……」

汐里が思わず外へ出る

駐車場の利用客も 何人か空を見上げていた

橋の車列は止まったまま

でも 誰もクラクションを鳴らさない

みんな少しだけ夜空を見ていた

あゆみも外へ出てくる

「ここからでも結構見えますね」

「橋と重なるけえ 綺麗なんよ」

渚が小さく笑う

花火がまた開く

白い橋脚の向こうに光が広がる

秋の海風が少し冷たい

だが 人の気配は温かかった


午後八時

花火が終わる

そして本当の渋滞が始まった

帰る車が一斉に橋へ向かう

片側通行の信号が 長い列を止める

道の駅奥崎の駐車場へ入って来る車も増える


「トイレ大丈夫ですか!?」

「女子側並んでいます」

汐里とあゆみが走る

渚は外で誘導を手伝っていた

警備員の誘導灯が暗い海沿いで揺れている

橋の赤信号

止まる車列

アイドリング音

窓を開ける家族連れ

コンビニも無い

休める場所も少ない

だから 人が流れ込んでくる


「……なるほどな」

私は小さく呟く

道の駅奥崎は

今日観光地になったわけではない

ただ 人が困った時に必要になった

それだけだった

でも それは確かに役割だった


午後十時

まだ橋は混んでいる

飲み物はほとんど空

ゴミ袋も山積み

汐里は少し疲れた顔で椅子へ座った

「……こんなに人来る日あるんですね」

「年に何回かやな」

私は答える

「でも今日だけでも開けとって良かった」

その言葉に 汐里は少し黙る

橋を見る

赤いテールランプの列が

夜の海沿いへ長く続いていた

止まった場所

だが今夜だけは

人の流れの中に確かに組み込まれていた


午後十一時前

最後の利用客が出ていく

シャッターを半分下ろす

外ではまだ 遠くに車の列が見えていた

奥崎大橋の誘導灯だけが

夜の海に静かに揺れていた


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