表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯りを運ぶ人ー山から海ー  作者: 堺大和
この村の灯り
PR
50/83

続く

オープンの翌朝

道の駅はまだ開店前

駐車場には 

昨夜の雨でできた小さな水たまり

空気は澄み 山はいつも通りそこにある

昨日の賑わいが まるで夢のようだ


私は少し早く来て

館内をひと回りする

床は綺麗に拭かれている

棚には 補充された商品

冷蔵ケースのモーター音だけが

静かに響く ちゃんと動いてる

建物は もう特別な存在ではない

使われる場所 になった


菫もやって来る

売場の中央で立ち止まる

昨日 ここは人で埋まっていた

今日は静か スマホを取り出す

朝の光が差し込む店内 投稿は短い

「昨日はありがとうございました

今日は いつも通り開けます」

特別な言葉はない

でも それがこの村らしい


さくらは

出発の準備をしている

スーツケースの中に

内定通知をそっとしまいながら

百貨店の商品開発部へ

昨日オープンした道の駅の写真も一枚

戻る場所 あるな

小さく頷く


人の気配はない

昨日の賑わいが嘘のようだった

葵は診療所へ向かう坂道を歩いていた

白衣はまだ少し硬い

風が冷たい

道の駅の建物を振り返る

「出来たね」

誰に言うでもなく つぶやく

それから ゆっくりと前を向く

「私は ここで働く」

声は小さい

けれど 迷いはない 都会も考えた

外の病院も調べた

それでも

この村には診療所が一つしかない

ここで支える人が必要なら 

私はその一人になる 残るんじゃない

選ぶのだ

朝の光が 診療所の窓に当たる

村に 灯りがある


開店時間

シャッターが上がる 今日は行列はない

地元の年寄が一人 ゆっくり入ってくる

「昨日は来れんかった」

「今日でええんですよ」

菫が笑う

私は入り口の外側を眺める

遠くでバスが止まる

日常が戻って来ている


坂道を白い軽トラックが上がって来る

移動スーパーだ

車は道の駅の前をゆっくりと通り過ぎようと

していた

運転席の窓が開く

「おはよう」

運転手が笑った

「おはようございます」

菫が手を振る

運転手は道の駅の建物を見て言った

「オープンしたんやな」

私は頷いた

「ええ」

運転手は少し笑った

「ほな 此れから忙しくなるで」

そして軽く手を上げた

「またな」

白い軽トラックは

そのまま坂を上がって行った

週に二回 村を回るいつもの道へ

菫はその車を見送った

そして小さく言った

「これからも来るんですね」

「生活ですから」

菫は道の駅の建物を見た

新しい看板

新しい信号

新しい駐車場

でもその向こうには いつもの村がある

山の斜面に 家が点々と並んでいる

窓の灯りは もう朝の光の中で見えなく

なっていた

それでもそこに 人がいる

菫は静かに言った

「この村続きますね」

私は少しだけ笑った

「ええ」

山の向こうから朝日が広がる

その光の中で

村の家々が静かに並んでいた

そこには まだ人の暮らしがあった


大きな成功でもない 派手な事件も無い

でも確かに 村は一歩 前に進んだ

道の駅は完成した

若者はそれぞれの道を選んだ

それでも 山も川も 診療所も 役場も

変わらずそこにある

その中に 新しい拠点が加わっただけだ



雨実村 初夏

道の駅の駐車場はまだ

朝の湿り気を残していた

山の空気は柔らかく 

遠くで軽トラックのエンジン音が響く

建物の軒先には 採れたばかりの野菜と

小さな手書きの札が並んでいる

「増えましたね 品数」

小川菫が少しだけ誇らしげに言った


山中幸一は頷くだけだった

数字も 報告書も 会議も

全てを積み上げて ここまで来た

だが 目の前にあるのは

只の結果だった

「人は来てます でも……」

菫が言いかけて 言葉を停める

「分かってる」

山中は静かに答えた

来ている 買っている

だが それが続くかどうかは

まだ誰にも分からない

それでも

「ここまで来たなら 

あとは 回し続けるしかないな」

その言葉は 

自分に言い聞かせるようでもあった

風が吹き のぼりが揺れる

道の駅 雨実の里



役場の机の上に一通の資料が置かれていた

「離島地域における

海上拠点 海の駅整備について」

差出は 県の担当課だった

山中はページをめくる

写真

小さな港

簡易な桟橋

軽トラックでなく 小型船

生活の維持が出来ない地域あり

その一文に 目が止まる

同じか

いや 少し違う

此方は道ではなく 海だ

「興味ありますか?」

いつの間にか 上司が後ろに立っていた

「実証事業で 人を出せないかって

話しが来てます」

山中は 少しだけ間を置いた

「現地は?」

「瀬戸内海側 海の駅構想だそうです」


「過疎対策のプロジェクトだそうですが

貴方は 雨実の里で実績を作りましたから

県からスカウトされたようですよ」


「離島のモデル事業に参加しませんか?」

「海…」

これまで自分が扱ってきたのは山の中だ

だが根は同じだ

人が住み続ける為の 線をどう繋ぐか

山中は資料を閉じた

「少し 詳しく見てもいいですか?」

上司は小さく笑った


その夏 山中は一度だけ村を離れた

短期の視察 名目はそれだけだった



瀬戸内の海は穏やかだった

白い光が水面に散っている

水谷あゆみは 

今日もカヌーの練習をしている

遠くで船の音が聞こえる

顔を上げると 

小さな船が港に入って来るのが見えた

見慣れない船だった

荷台のようなスペースに箱が積まれている

船が接岸し数人が降りてくる

その中に 一人だけ周囲を静かに

見ている男がいる

作業着でもなく 観光客でもない

誰かに説明を受けながら

時折メモを取っている

あゆみは 少しだけ視線を向けたが

直ぐに逸らした

興味はない

はずだった

男は ふと港の奥を見た

その視線の先には 

使われていない古い桟橋がある

そして もう一度周囲を見渡す

まるで ここに何が出来るかを

考えているような眼だった

あゆみは 無意識にそれを見ていた

変な人…

ただそれだけだった


数年後……

前編は一旦ここまでです

感想ありましたら宜しくお願いします

雨実村のその後が気になる方は

「続・灯りをi運ぶ人」へお進みください

小川菫が主人公の雨実村の物語です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ